第228話 カレー屋のお姉さん

「おいしいカレーを食べたい」

「え? かわいい女の子をなめたい?」

「茜ちゃん、すごい耳してるね」


 今日は同好会の部室でのんびりと過ごしていた私と茜ちゃん。

 みんなもそろそろ来る頃だろうか。


「この前カレー屋さんに行ったんじゃないの?」

「そうだね。あれはおいしかったし、お姉さんもかわいかった」


 まあ、わざわざお店で食べるようなカレーではなかったかもしれないが。


「じゃあもう一回行くとか?」

「あのお店は無くなった。潰れちゃったんだ」


「そ、そうなんだ……」

「それに今はキーマカレーとチーズナンの気分」


「なるほど。じゃあおいしそうなカレー屋さんを探しに行こうか」

「いいね~! って、もしかして今から?」


「そうだよ?」


 現在は放課後。

 家に帰ればすぐにご飯な時間。


「今からカレーを食べたら晩御飯が無理になっちゃうよ」

「大丈夫大丈夫。なずななら」

「血糖値がスパイクしちゃうよ」


 ただでさえ甘いものが大好きなのに。

 カレーまでおやつみたいに食べ始めたら真剣にまずそうだ。

 いつか血管がズタズタになりそう。


 と思いながらも、私はスマホでカレー屋さんを検索していた。

 そして、よさげで混んでなさそうな雰囲気のお店を発見。

 しかも近い。


 とは言っても歩いていけば30分くらいはかかりそうだけど。

 帰ってくるの大変だなぁ。

 バスとか通ってるだろうか。


 もしかしてまた走るしかない?

 食後ダッシュはご勘弁ですよ?




 さて、目的のお店までダッシュで移動したわけだが。

 なんとなく、どこかで見たことあるような雰囲気がする。


 来たことないのにちょっと落ち着くような。

 不思議だ。


 外でこれなら中に入ったらどうなるのか。

 安心感から寝てしまうかもしれないね。


「あ、そうだ。茜ちゃん、カレーは半分個して食べようね」

「え? 口移しで食べさせてくれるの?」

「カレーでやったら気持ち悪くない?」


 とりあえず軽く流してお店の中に入る。


「いらっしゃいませ~」


 聞こえてくるお店の人の声。

 なんていい声なんだ。


 癒される。

 懐かしく、そして温かい声だ。


 どこかで聞いたことあるような気もする。

 まさか声優さんだったり?


 そういうことだってあったりするかもしれない。

 そこでお店の人の姿を見てびっくり。


「え」

「あ」


 この前の潰れたカレー屋さんのお姉さんだった。


 すごい。

 またカレー屋さんを始めるなんて。


 あ、そうか。

 別に潰れたわけじゃないのか。


 もしかしたらしっくりくる形態をさぐっているのかもしれない。

 そういうことにしておこう。


「あなた、前のお店に来てくれてたよね?」

「え? 覚えてくれてたんですか?」

「うん。とってもかわいい子だったから」


 まさか記憶されていたとは。

 これはちょっと嬉しいかも。


「お姉さん目当てで通っちゃおうかな」

「ふふふ。そうしてくれたら、私もたくさんあなたと会えるから嬉しいわ」

「キュン」


 かわいい。

 こうなったら私がこのお店を支えてみせる!

 カレー屋さんのお姉さんで推し活だ!


「それではキーマカレーとチーズナンを」

「は~い。そちらの方は?」


「あ、ふたりで食べようと思って。いいですか?」

「あらあらいいわね~。こっそり見てようかしら」


「やめてください」


 見られてると思ったら恥ずかしくなる。

 ……そういうプレイもありか?


 注文からしばらくしてキーマカレーとチーズナンが出てくる。

 まるでレンチンのような時間だが……。

 まあ、ちょっと気にしないでおこう。


「じゃあ茜ちゃん、あ~ん」

「食べさせてくれるの? あ~ん」


 ひとくちのカレーを乗せたスプーンが、茜ちゃんのお口の中へ入っていく。


「おいしい?」

「最高だよ」


 それは本当に味の感想なのか?

 続いて私も一口頂く。


「生JK百合っプル、来たああああああ!!」

「お、お姉さん!?」


 近くにいたのか。

 突然奇声を上げるからびっくりしたよ。


「最高の人生だったわ……」

「もっと生きてくださいね!?」

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