第173話 お花とクレープ、そして修羅場
今日の私は自転車で初めての公園に来ていた。
公園と言ってもいろいろあるけど、ここは家族連れの人たちがのんびりと過ごすようなところだ。
住宅地にあるような、こどもたちが遊んでいるような公園ではない。
こんなところでは写真撮影などできるわけがないのに、なぜ私が来ているのかと思われるかもしれない。
まあ、私の人生のすべてが女子小学生を中心に回っているわけではないということだね。
実はよく前の道を通り過ぎることがあって気にはなっていた公園だった。
敷地内には内陸型の大きな水族館がある。
今回はその公園の部分にきれいなお花が咲いているのを見かけたので寄ってみたのだ。
自転車を駐輪場に停め、うきうきわくわくしながら歩いていく。
外から見えていたお花畑のあたりに来ると、そのまわりにもきれいなお花がたくさんあった。
白や黄色のお花たち。
そして風が運んでくる甘い香り。
うん、いい気持ちだ。
……いつから私はこんなにも乙女になったのだろうか。
そこから道に沿ってお花の鑑賞を楽しみながらお散歩する。
するとむこう側から見知った顔のふたりがおててを繋いで歩いてきていた。
「え、ひまわりちゃん!?」
「その声は……、って誰ですか!?」
ひまわりちゃんは私を見るなり、驚いて隣にいた紅葉さんの後ろに隠れてしまった。
まあ無理もない。
今の私は深めに帽子を被り、マスクとグラサン状態だ。
不審者に見えなくもない。
なぜこんな格好をしているのか?
それは複雑な乙女心ってやつさ。
「ひまわりちゃん、よく見てください。なずなちゃんですよ」
「え?」
私はサングラスとマスクを外す。
「驚かせてごめんね」
「なずなさんだ~!」
一転して嬉しそうに飛びついてくるひまわりちゃん。
うひょひょ、かわいい。
そしてひまわりちゃんから、お花に負けないくらい甘い香りがする。
このまま連れ去りたいくらいだ。
「そのあたりにしておきなさい、なずなちゃん」
「およ?」
私が手をわしわししていると、後ろから声がかかる。
ひまわりちゃんを抱いたままなんとか後ろを見ると、そこにいたのはなぜかお母さんと小路ちゃんだった。
なぜふたりが一緒に?
まさかついに小路ちゃんがうちの子に!?
「なんでふたりが一緒にいるの?」
「私は紅葉ちゃんと約束してたから。小路ちゃんとはたまたまそこで会っただけよ」
「ふ~ん」
みんなお花でも見に来たのだろうか。
まあ私もつられてきてるくらいだしね。
「お花、きれいね」
お母さんは私たちがさっきまで見ていたお花を見てそう言った。
「夏になるとあの辺がひまわり畑になるんですよ」
「そうなのね」
なぬ!?
ひまわりちゃんがいっぱい!?
それは楽しみだ。
「……なずなちゃん、なにか変なこと考えてない?」
「いえ、大丈夫です」
もちろん心の中の冗談である。
「秋になったら紅葉狩りですよ」
なぬ!?
紅葉狩りですと!?
それはつまり紅葉さんにあれやこれやをできるわけですね!?
「なずなちゃん……」
「何も言ってないけど!?」
まさかそんな妙な顔をしていたのだろうか。
修行が足りないなぁ。
「それじゃあ私たちは行くから。先に帰るときは連絡してね」
「え? ああ、うん」
お母さんと紅葉さん、別行動なの?
私が来てなかったら、ひまわりちゃんどうするつもりだったんだろう。
あ、もしかして小路ちゃんと約束してたのか。
なるほどなるほど。
ちらっと小路ちゃんを見てみる。
「?」
なるほどかわいい。
「私たちも行こっか」
「はい」
3人でお花の道を歩く。
その時、そっとひまわりちゃんが私の手を握ってきた。
なんてかわいいことをしてくれるんだ。
私が顔をにやけさせていると、今度は逆側に小路ちゃんが抱きついてきた。
腕組み状態である。
これには私も驚く。
そして私を挟んでひまわりちゃんと小路ちゃんが視線をぶつけ、火花を散らす。
あれ?
ふたりの仲が悪くなってる?
もしかしてケンカしてるとか?
仕方ない。
ここはお姉さんがふたりのキューピットをしてあげよう。
「ねえねえ、あっちでクレープ食べない?」
突然の私の提案にふたりの視線がこちらをむく。
その表情は甘いものを前にした乙女の顔だった。
「「行く!」」
なんだ、仲良しじゃん。
ということで、私たちはキッチンカーの並ぶエリアへとむかった。
確かクレープのお店があったはず。
それを見つけて注文し、飲食コーナーへ移動。
私のはチョコレートホイップ、小路ちゃんはあんホイップ。
ひまわりちゃんはカスタードプリン味だ。
どれもおいしそう。
みんなで甘いものを食べれば幸せ。
幸せを共有すれば仲良し。
すべて解決さ。
お、ちょっと待って。
こうすれば幸せなことができるんじゃないかな?
「ねえ、小路ちゃん。ひとくちどうぞ」
「え、ええ?」
「な!?」
小路ちゃんは驚いて目を丸くしている。
そしてひまわりちゃんは固まった。
大丈夫大丈夫。
小路ちゃんが私の差し出したクレープをちょこっとかじる。
そして今度はひまわりちゃんの方にも差し出す。
「さあ、ひまわりちゃんもどうぞ」
「あ、はいっ」
ひまわりちゃんは小路ちゃんと逆の方をちょこっとかじる。
ふふふ。
そして私はふたりの食べたところを豪快にひと口。
これぞダブル間接キス。
ああ、幸せ~。
この甘さはスイーツの甘さ?
それとも幸せの甘さ?
なんてね。
そんな幸せな私も前にふたつのクレープが差し出される。
「うん?」
見るとふたりが争うような表情でこちらを見ていた。
「なずなさん! 私のもどうぞ!」
「なずなさん! こっちもおいしいですよ」
「「さあ、どうぞ!!」」
私の口に迫るふたつのクレープ。
「えっと~……」
おかしいなぁ。
みんなで甘いもの食べて幸せ大作戦は失敗に終わったらしい。
そしてこの謎の修羅場。
とりあえず私はふたつのクレープを少し重ねて同時にいただくという神業でこの場をしのいだ。
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