黒い人形

これは、女の趣味だった。



お気に入りの玩具を壁際に綺麗に並べる。横一列に。


横から見て、前から見て、また横から見て、何度も何度も位置を微調整。



その作業は、小一時間続いた。



女の部屋にあるのは、無数の人形。女の魔法により姿を変えられた生きた人形たち。外界との繋がりは、入口にある手の平サイズの扉だけ。その扉を勝手に開ける者はいない。この女の邪魔をすると【生きたまま】殺されると分かっているから。





「ふん、ふ~ん」




この部屋にある玩具は、すべて以前人間だった。それが今は、ただの人形。




「うん。これで良しっ! 完璧」




女自身も人形。




女は、綿の入った細腕をブンブンと振り回した。




元魔女のナタリ。


元アンデッドのアンナ。


元錬金術師のサトル。



三体も一度に手に入った幸せに震えていた。




女は自慢のコレクションを眺め、



「私の声、聞こえます? 話すことも出来るはずでしょ。遠慮しないで、さぁさぁ気軽に話しかけて下さいよ。私とあなた達は、これからずっとずっーーーーと一緒なんですから。つまり、私の家族。でも、ほらっ!前の体より今の方が良いでしょ? だって、ほらっ! 死からの解放ですよ。永遠の命。とっーーーても素敵ですよね~」




「…………ナツ様は?」



元魔女のナタリが、黒いドレス姿の人形に質問した。



「アイツは、機械の体だから毒に犯されずに済みました。今は、牢屋に閉じ込めています。ジムード様にも殺すなって言われてるんで」



「そう……。良かった」



「そんなにあのお嬢が心配なんですか? 自分の心配をした方が良いのに」



「私を殺したがっていなかった? ジムード。喧嘩で勝てなかった兄貴を私が殺しちゃったからなぁ。悔しいはず。アイツの頭には常に『自分が一番』しかないし」




女は、ナタリの頭を掴んだ。


ギリギリと両腕に力を込める。



「こんなに弱っちぃアナタには、興味がないと言っていましたよ? まぁ、私も凄くガッガリしたんですけどね。昔。魔法学院でもアナタの嘘のような伝説は毎日のように聞いていました。……それなのに。あんな不意討ちであっさりと私に捕まるなんて。本当に残念ですよ、まったく」



女は、ナタリの頭を握り潰した。血の代わりに大量の綿が床に散らばった。さらに四肢をバラバラにする。



「ほんっと………残念」




女が、つまらなさそうに部屋を出ていこうと小さな扉に手をかけた。



その時、声がした。



不気味な笑い声。





『フフ………。詰めが甘いよ、後輩ちゃん』





バラバラ、ぐちゃぐちゃにしたはずの人形が元の綺麗な姿に戻っていた。




「!?」




「優しい三日月が雲に隠れるまでの間。少しだけ遊んであげますよ。アナタが大好きな人形遊びをしましょう!」



女は、初めての強敵に巡り会えたことに感謝した。そして、部屋に並べられた他の人形がただの【ゴミ】に思えた。


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