過去②

数ヶ月後。



俺は、親父が出したある【条件】を呑み、やっと罰から解放された。



沼から出てすぐにナタリに会いに行く。だが、どこをどう探しても彼女の気配すら感じない。





突然、いなくなった親友。






俺を今まで支えていた杭が抜けてしまったよう。世界を自分を縛る檻のように感じる。





目的を失った俺は、この場所を去ることを決めた。



ただ、まだ未練がある。それを断ち切るためにここに来た。


何もない更地。でも以前は、ここにナタリの家があった。小さな庭先で二人で腹を壊すほど食べたスイカや桃。ここで空まで届きそうな派手な花火をしたこともある。楽しい思い出が、乾いた風に容赦なく流されていく。





「ナタリ…………」




「どうしたの?」





やっぱり、俺たち似た者同士だなぁ。


考えることは、一緒。




「今まで、どこにいた? 心配したぞ」



「………私を心配してくれるのは、バロンだけだよ」



「そうか。俺さ、今夜ここを離れる。だから、サヨナラ。お別れだ」



親父が出した【条件】は、敵国の重要な戦力であるナタリを捕まえろというものだった。




捕まえたナタリの頭をいじくり、奴隷化。その強大な魔力を逆に利用する。




自国の勝利の為。



出来ない。俺には。



だから、逃げる。親父とナタリ、その他全てから………。





「嫌。行かないで」



俺より遥かに強いナタリが、初めて俺の目の前で幼児のように泣いていた。




「大丈夫……。また、いつか会えるから」



「嘘だ」



「本当だよ。だから、それまでお前も元気でな」




俺は、一度も振り向かなかった。




「…………嘘つき」





ーーーーーーーーーーーーーーーーー




もうすぐ、俺の嫌いな春がやって来る。


春には、嫌な思い出しかない。



逃避と別れ。




都に来て、あっという間に三年が過ぎた。都会の生活にはすぐに慣れたが、この三年で得たモノは何もなく。



影のように暮らす毎日だった。



光の国と闇の国との戦争も二年目に突入。離れていても分かる濃ゆい血の臭い。




そんな時。いつも頭に浮かぶのは、ナタリの顔だった。




「帰ろう……」



分かってる。親父を裏切った俺に帰る場所なんてない。親父は、裏切り者を絶対に許さない。




身内でも容赦なく殺す。




親父の手下に見つかれば、確実な死が待っている。


それでも俺は、夜が明ける前に戦地に行き、最前線で戦っているはずの親友に会いに行った。



…………………………。


…………………。


…………。




焦げた死体の山がそこらじゅうにできていた。息をする度に吐き気がする。



その中でも一番高い山に乗り、魔獣の頭を片手に持って鼻唄を歌っていたのは、かつての親友。




「こんな場所に何しに来たの? ここは、平和ボケしたアンタが来るような場所じゃないよ。早く、帰りなさい」



「あぁ。帰るよ。でもお前と一緒に帰る」



「本当にバカだね、バロンは。今は、私達……敵同士なんだよ? しかもアンタは、『両方』から命を狙われてる」



「はぁ………。二人で帰るのは、無理そうだな。でもな、最期ぐらいは自分で決めるよ。だから、ここに来たんだ。お前に殺される為に」



「…………笑えない。それ」



弟を含めた闇の使者に殺されるのは、我慢出来ない。死ぬなら、お前の手で。



「いくぞ。ナタリ」



「全力で来な。せめて、苦しませずにイカせてあげる」






話は、以上。………今さ、すごく眠いんだよ。だから昔話は、これで終わりだ。




そろそろ寝かせてくれ。





ぁ………





ぁ………………




……………………



…………………………………………




【目の前に死神がいる】



俺は、全裸で立っていた。


これから永遠の苦しみが、俺を待っている。恐くて、退くことも進むことも出来ない。




急に周りが暗くなった。死神が、明らかに動揺している。



俺は、振り返る。俺の後ろにナタリが立っていた。



「これは、俺が見ている夢?」



「さぁ」



「夢でもいい。幻でも」



「おばばが、向こうで呼んでる。だから、そこまで一緒に行こう」



ナタリが、指差した先に見える光。



あたたかい……。




「ありがとう、ナタリ」



「うん!!」



昔の夢に酔いながら、ゆっくり、ゆっくり、親友についていく。

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