過去①

友達と呼べるのは、後にも先にも1人だけ。唯一、自分の親以上に信頼している人間。




アイツは、絶対に俺を裏切らないから。





ナタリーーーーー




今、異常に眠いが我慢して……。少しだけ、彼女の話をしよう。





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ナタリとは、子供の頃からずっと友達で。別に話が合うとかではないんだけど、何故かいつも一緒にいた。




ナタリは美人で、頭も良く。しかも誰よりも戦いを好む戦狂だった。





殺しを楽しむ変態。





服の上からでも分かる、洗練された肉体。しかも彼女は、トレーニングは一切していなかった。生きているだけで、毎日進化していくその体と魔力。魔王の子である俺ですら、そんな彼女の底が見えない力に惚れていた。



ずば抜けた戦闘能力と何を考えているか分からない無表情のせいで、周りからは恐れられていた。誰も彼女に近づかない。俺以外は。




ある時、深淵の森から来た老いた魔法使いが、子供のナタリに喧嘩を仕掛けたことがあった。まぁ………予想通りの結末。その魔法使いはナタリに遊ばれ、プライドをぼろぼろにされた後、両手足を失う大怪我を負った。





ナタリは、祖母と二人暮らし。そのお婆さんも本当に優しい人だった。


だから亡くなった時は、俺も涙を流した。






他に身寄りのないナタリは、一人になってしまった。




家からあまり出ず、俺が遊びに誘ってもついてこなくなった。



しばらくして、ナタリの家が火事になった。俺は、止まらない汗を拭うこともせず、野次馬をかき分け必死に叫んだ。





ナタリっ!!





火の勢いは凄まじく、なかなか近寄れない。そんな俺の耳を刺激する笑い声。


野次馬の何人かが、笑いながら燃えている家を見ていた。





ナタリに対する畏怖と軽蔑。



古臭い魔女狩り。





俺はその時初めて、人を殺した。それも複数。殺した後のことは、あまり覚えていない。




それからすぐに俺は、父から罰を受けた。例え悪魔でも、戦争以外で好き勝手な殺しは許されない。光と闇との力のバランスを崩してはいけない。





罰せられた俺は、底無し沼の中で親父の許しを待っていた。




何日も何日も…………。





無音。






ある日、事件が起きた。逃げないように俺を監視していた兵隊のバラバラ死体が見つかった。魔獣に襲われ、喰い散らかしたような酷い有様だったらしい。




息をするために、一週間ぶりに沼から顔を出すと、目の前に可愛いお皿にのった焼きたてのチョコクッキーが置いてあった。




「……………」





この場所は、禁区。蟻一匹侵入出来ない。





俺は、死を恐れずにこんなバカなことをする人間を一人だけ知っている。


もちろん、見たわけではない。証拠もない。ただ、目の前に置かれた俺の大好きな甘い菓子を見た瞬間、誰だかすぐに分かった。




なぁ…………。




お前だろ?



ナタリ。






「ありがとう」

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