転生【ナタリの悪ふざけ⑤】

騙されてはいけない。目の前にいる女は、悪。実際、僕と接点のある人をすでに何人も殺されている。大事な友達も殺されかけた。




僕の口を拭いている女の細過ぎる腕を強引に掴む。




「まだ……ゲームは、終わっていません」



「うん?」



「だって、そうでしょ。負けたアナタは死ぬべきなんだから」



異変を感じた兵士が、鬼の形相で走ってくる。




あと数メートル…………




そのとき突然、僕の手前で兵士は苦しみだし、受け身もとらずに前に倒れた。白目を剥き、痙攣しながらゴポゴポ赤い泡を口から出している。



「こんなタイミングで、内臓が破裂するなんて運がない」



「ふ~ん。フフ………あんなごみ溜めに君みたいな化け物がいたなんてね。もっと早く会いたかったな。悪魔ですら惚れてしまう君の『運』を操る力。操るだけじゃなく、私から『運』を奪うことも出来るの?」



「はい……。今のくだらないゲームで、人生のほとんどの運を使った。だから今すぐ運を補充しないと僕は明日にでも死んでしまう。だから。だから………アナタから相当量の運を奪います」



僕に運をすべて奪われたら、死ぬ。それが分かっていながら、この女は僕の側を離れようとしない。




「どうして………」





分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。




分かりたくも……な…い…。イライラする。ほんと………に。





「どうしてっ!!」



「死ぬことなんて、私は恐れていないよ。今まで、死よりも恐ろしいモノをこのタワーで見てきたから」




この女と同じ目をした人物を僕は、知っている。




どうして今…………



あんな昔のことを思い出すんだ。




まだ、僕が僕自身の力に気づく前。




人生で一番幸せだった時ーーーー





『姉さん………。あれは、なに?』



『サトルには、あれが見えるの?』



『うん。なんか青くて、ふわふわして……雲みたい』



『あれは、運。そう………アナタにも運が形として見えるのね』



『姉さんにも見える?』



『ぼんやりだけど見えるよ。昔は、もっと良く見えたんだけどね。でも、このことは秘密。運が見えることは、誰にも言っちゃダメだよ。お姉ちゃんとの約束ね』



『どうして言っちゃ、ダメなの?』



『………悪い人に利用されるから。サトルには、私みたいに苦しい思いをしてほしくないの』



『!?』




どうして泣いているの?






「………………っ」



「どうして君は、泣いているの?」



「………………」



僕は、女から逃げるように距離をとった。



「まだ私、生きてるよ? 早く殺しなさい」



「…………嫌……だ………」



「甘いなぁ。激甘だよ~。そんな特別な力があるのに勿体ない。その力を上手く使えば、このタワーの最上階まで行けるかもしれないのに」



「そんなものに興味ない」



「ふ~ん。そっか、そっか。……………つまらない男なんだね。キミは」




女は、無表情でペタンと床に座ると、落ちているチョコを躊躇なく口に入れた。





あれは………



毒入りのチョコ。





すぐに女の額を大量の汗が流れ。


女は震える目を閉じ、ゆっくり………ゆっくり………。







闇に堕ちた。







まだ温かいその女に体を密着させると、理由の分からない冷たい涙が流れた。



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