魔女の記憶⑥

朝ーーー




揺れるカーテンを見ながら、僕は思い出していた。寝る前に窓を開けて空を見ていたことを。雲に隠れた三日月を見ていたら、また何か……重要なことを思い出しそうになった。だけど、毎回。それが何なのか思い出せない。




「………………」





春の香りが僕の鼻先、数センチ上を通りすぎる。気持ちの良い朝だった。





「サトルっ!! 早く起き……あれぇ? 珍しい。 今朝は、早起きじゃん」




「もう12だし。朝ぐらい一人で起きるよ」



ここは、親のいない僕のような戦争孤児が集まった施設。


この目の前に立つおばさんは、僕達のお母さん。恐い時もあるけど、自分の子供のように僕達を大切に育ててくれている。



階段からご飯の良い香りがした。




「ふ~ん。たまたまでしょ? 起きたなら、早くご飯食べなさい」




「うん」






……………………。




……………。






ゆっくり朝飯を食べていたら、学校に遅刻しそうになり、僕は慌てて家を出た。急いでいた足が、ある場所で止まった。





昔ーー





この公園で何か……があった気がする。




いつものように足早にここを去ろうとした。その時。ベンチに座っていた女性が、僕に声をかけた。






まだ夢の続きを見ているようだった。





「ここの暮らしは、楽しい?」





初めて会った人なのに、前から知っている。そんな不思議な感覚。





「楽しいよ……」





走ってきた彼女に抱きしめられた。




恥ずかしさよりも喜びのほうが遥かに大きくて……。僕は、彼女の胸の中で泣いていた。





「泣き虫だなぁ」





そう言って笑った彼女は、僕よりも泣いていた。




初めてナツに会った日。僕にとって、一番大切な記念日だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます