魔女の記憶⑤

夕陽が、部屋を飴色に染め。時間の進みが、遅くなってーー。忘れていた寂しさが、また戻ってきた。





「お姉ちゃん……どうしたの?」





私は、また男の子を抱き締めていた。





「あ…れ……」




「また泣いてるの? 泣き虫だなぁ」





なんで私、泣いているんだろう。




私は、何を恐れているんだろう。





静かな夜。私は、緑色のサンダルを履いて、外に出た。




眠れなかった。




この家の隣。空き地。放置された古い椅子に座って、空を見た。





「良い夜だねぇ。眠れないの?」




タバコ臭い母親が、隣に立っていた。




「うん」




しばらく、母親と一緒に紅茶を飲みながら空を見ていた。



「あの山の向こう。軍事訓練の音がするね。………あのバカ国王。またどこかと戦争するつもりだ。ほんと、懲りない」



「国王は、なんで戦争をするの?」



一瞬。あの人の顔が浮かび、少し吐き気がした。



「自分の領土を広げたいんだよ。たぶん、ね。その為に犠牲になるのは、いつだって力のない私達さ」



「……………」



「寒くなってきたね。そろそろ部屋に戻ろうか」




「まだ……ここにいる」




「そっか。風邪引くなよ」




「うん」




「あの…さ」




「なに?」




「ありがとう。お前が、あの子の友達になってくれたから。最近、あの子。良く笑うようになってきたから……。だからさ……。ありがとう」






不思議な気持ち。






ドクンッ!






「!?」






ドクンッ! ドクンッ!






その時ーー



私は、宇宙の端からものすごいスピードでココを目指す『大きな石』に気づいた。



なんだろう……。恐い。




私は、家と夜空を交互に見て。あの親子のことを考えて。






寒くもないのに手の中のカップが、カタカタ震えていた。







一週間後、全てが無に。こうやって談笑しながら、この親子とご飯が食べれるのもあとわずか。目を閉じれば、すぐに邪悪な石の存在を感じる。






「お姉ちゃん、焼いた魚嫌いだっけ? さっきから、ご飯食べてないけど」




「嫌いじゃない」




「好き嫌いしてるとオッパイも大きくならないよ? お前は、貧乳だからね~」





笑いながら、親子は仲良く話していた。現実なのに、触れれば消えて私の前から全部なくなってしまう。そんな夢のような幸せ。私は、この小さな世界から目を離せなかった。






「嫌いじゃないよ……」






神様。もし願いが叶うなら。この親子を助けてください。





「どうしたの?」




「これは、私の夢だよね。ほんと、良い夢……」





チュッ!





可愛いオデコにキスをした。






「やっ、やめてよ。恥ずかしい」




「あっ! この子、照れてる~。好きだもんね」




「す、す、好きじゃないよ!! 変なこと言わないでよ、ママ」






メイドちゃん。私ね……。ほんの少し。ほんの少しだけど、人が好きになったよ。






………………………………。




………………………。




…………………。






親子が寝た後、私は親子にサヨナラして、町を出た。






「さようなら」






最後は、泣かなかった。





ーーーーーーーーーーーーーーーー




どんどん、どんどん遠くなる。




どんどん、どんどん小さくなる我が家。






私の前から、消えていく……。





そしてーーーーーー




「見つけた」






巨大な悪魔が笑っているように見えた。両手を前に出して、力を込める。メイドちゃんから借りた、この力でも出来るかどうか分からない。






でも、ここで止めないと。私の大事なものが、消えてなくなる。






石に押され、私の体がボロボロと砕けていく。




何回も何回も何回も何回も止めようとしたけど石は止まらなかった。






私だったモノが、宇宙に散らばる。






はぁ………もう……ムリ……。






「お嬢様。そんなにあの親子が大事なんですか?」




「遅いよ……現れるの……」






突然現れたメイドちゃん。粉々になった私の『欠片』を丁寧に一つ一つ拾い集めている。






「今までどこに行っていたの? とっても寂しかったよ。……あの…ね」




「分かっています。あの親子を助けたいんですよね。でも、その為には、お嬢様が犠牲にならないといけません。強力な魔法には、それなりの対価が必要なんですよ。……あの親子との記憶をいただいても良いですか?」






忘れるのは、恐い。






でもーー






「大丈夫……大丈夫……」






自分に言い聞かせた。私は、思い出していた。あの親子の笑った顔を。不安が、消えた。






「今、何してるかなぁ。うん……。消えてもいい。だから、お願い。助けて、メイドちゃん」






「分かりました」







【 さようなら、お嬢様 】







強い光。






薄く目を開けると、あんなに大きかった石が、メイドの手のひらに乗っていた。






「ありがとう。メイ……あっ!」






違う違う。メイドちゃんじゃない。






「ナタリだよね」




「思い出したんですね、ナツ様……」




「うん。私は、ナツ。国王の娘。ママを殺した大嫌いなアイツの顔を思い出した」



「………あの少年には、きっと未来で会えますよ。だから、安心して目を閉じて」





私は、何もかも忘れるようにゆっくりと世界を閉じたーーーーー


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