魔女の記憶④

夜が大キライになった。




「……会いたい」




会いたいよ。今すぐ。メイドちゃん……。




こんなに夜が、寂しいなんて思わなかった。ゴミを漁っているカラスでさえ、今の私を笑っている。もう限界。





ココを去ることを考えた。





ちょうどその時ーー





「あっ…………」





暗い夜の公園に入ってくる男の子。



知っている子供。





「はいっ!」




「どうして……」





戻ってきたの?




ママのそばにいてあげて。





「お姉ちゃん、いつも桃を食べてるでしょ? だからね、お小遣いで買ってきた。だから、はいっ! 助けてくれたお礼です」





鼻水を垂らした顔。男の子は、左手に小さな桃を一個持っていた。私にあげるつもりらしい。





「………っ!」





受け取ろうと手を出したけど、痛くて痛くて、すぐに手を引っ込めた。男の子は、皮を剥いた桃を私の口にもってくる。





「僕が、食べさせてあげるね」




「…………………」




「はい。どうぞ」





私は、仕方なく桃を一口食べた。






「美味しい?」




「………マズイ」






美味しいよ。すごく、すごーーく。今まで食べた桃で一番美味しい。






「そっかぁ…。お姉ちゃん、いつも高級な桃を食べてるもんね。こんな安い桃じゃダメかぁ……。残念」





そんな悲しい顔しないで。





私は、男の子を抱き締めていた。






「お姉ちゃん?」




「もう少し……」





このままで。お願い。この寂しさが、体から逃げていくまで。もう少しだけ。




…………………。




……………




………。






「お姉ちゃん、起きて。おねえちゃん!! お・き・て」




「みゅ…ん?…」




「起きてって! こんなところで寝たら、風邪引くよ」




「寝てた?」




「うん。寝てた。僕、そろそろ帰るね。ママが、心配するから」






私は、男の子を抱いたまま、寝てしまったらしい。私の腕から逃れた男の子は、笑いながら私にバイバイして去っていく。






「あっ……」






一人になった。寂しさが、私の肩を叩く。恐くて、振り向けない。






タタタッ……。タタタタッ。




男の子が、また戻ってきた。






「もしかして、お姉ちゃん。帰る場所ないの?」




「帰る場所……」






あるけど。アナタに言っても信じないよね。私の家は、誰も寄せ付けない古城。






「ないならさ、僕の家に来なよ! ママと二人暮らしだから、ママが許してくれたら泊まれるし」




「うん」




断る理由がなかった。この寂しさがなくなるなら、私は悪魔にでもついていく。






「…………」




「着いたよ」




「…………小さな物置ね」




「失礼だなぁ。小さくても大事な家だよ!」






狭い木造の家に入ると急に光が濃くなって。夢の入口のよう。男の子が、何か言っていたけど全然聞こえない。痛みが消えた。両手を見ると傷は嘘のようになくなっていた。






さっきから、部屋の奥でタバコを吸いながら私をジィ~と見ている女がいる。きっと、この子のママ。






「あんた、誰?」




「私は……私は……」






男の子が、慌てて「僕の友達だよ」って、付け加えた。




「家出か?」




「うん」




「泊まってく?」




「うん」





私は、公園以外で初めて夜を明かした。




朝になって気づいた。あんなに私を苦しめていた寂しさが消えていたことに。


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