魔女の記憶③

私は、この公園が好きになった。




遊んでいる子供を見るのは、楽しかった。




子供は、私が知らない世界を教えてくれる。





砂場でいつも遊んでいる男の子。




「ゴホッ! ……うッ……んん~」




「どうしたの?」




「か…ぜ。ゴホッ、ゴホッ! さっ、最近、みんな風邪なんだ。ママも風邪で大変そう…で……ゴホッ、ゴホッッ!!」




「ふ~ん。風邪かぁ」






次の日。




いつも虫捕りをしていた男の子二人がいなくなった。





また次の日。




今度は、おままごとをしていた可愛い女の子が、いなくなった。





またまた次の日。




「……………」




またまたまたまた次の日。




あんなに子供たちで賑わっていた公園。ついに砂場で遊ぶ男の子だけになった。




「ぁ………っはぁ」




「みんなは?」




「寝…てる。……。ゴホッッ! ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ……はぁ……はぁ」




「ふ~ん。あなたは、病院に行かないの?」




「ママも…。ママも風邪なのに……。ゴホッ、ゴホッ! がっ、頑張って仕事してるから……心配…かけられな…いから」





10個目の桃を食べようとした時ーーー





ドサッ!





倒れて動かなくなった男の子。



私は、男の子に近づいた。すごく弱っている。





「あなた、死ぬよ」




「……死にた……く…な…い……ママ………」





男の子の目から溢れた涙が、乾いた砂を黒くしていく。





「そんなにママが大事なの? 代わりのママを探せばいいのに」




「ぃ…なぃ…」






見下ろす私の足を掴んで離さない男の子。左足が、焼けるように熱かった。



私の中にこの男の子の気持ちが流れこんでくる。ママをどれだけ好きか、大事に思っているかが分かる。





「………………」





なぜか、その場から一歩も動けなかった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー





『メイドちゃん。私ね。大人が大嫌いなの』




『なんで大人が嫌いなんですか?』




『平気で嘘をつくから。私を捨てた親もそうだったし。許せないの』




『………お嬢様』





メイドちゃん。




なんであんなに悲しそうな顔をしたの?






……………………。




………………。




…………。






「ぅ……」




「大丈夫? 疲れてるみたいだから、もう帰ったほうが良いよ」




「……うん」






公園の入口で、男の子は一度振り返り





「ありがとう。お姉ちゃんが僕を助けてくれたんでしょ? じゃあね、バイバイ! また明日」




「…………」





ありがとう?




私が、アナタやアナタの大切なママを苦しめていたのに?





ありがとう……ありがとう…ありがとう。



ありがとう? ありがとう?? う~ん。





悩んでいたら、夜。私の悩みを象徴するような淡い夜だった。私は、口笛を吹いて人々を今も苦しめている元凶を公園に呼び出した。




バイ菌を撒き散らして、皆を『悪い風邪』にした黒いバッタ。





草むらから現れたその姿は、全くの別物になっていた。





「モンスターみたい」





人間の果てのない欲を餌にして、ブクブク太った醜い体に変異している。




主である私まで、その毒で犯そうとするバッタを無理やり捕まえて、元の潰れた姿に戻した。






これで病気も治るはず。






「……痛いなぁ」






暴れたバッタに噛まれて、両手が傷だらけになっていた。





「……こんなボロボロの手じゃ、何も食べれないよ。…………ほんと」





大キライ。



大大大キライ。

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