魔女の記憶②

私は、メイドにお願いをした。このメイドなら何とかしてくれる。付き合いは短いけれど、彼女に不思議な力があることを私は知っていた。






「お外に行きたい」




「ダメです」




「どうしても行きたいのっ!!」




「はぁ……。そんなに我が儘言うと、ぶん殴りますよ? お嬢様」




「ぶ、ぶん殴るの? パーで?」




「いえ、石のように固めたグーパンで」




「……………ぅ」






諦めきれない私は、裸足で外に出ると一度チラッと夜空を見てーー。痛む胸に手をあてながら、家出をする準備を始めた。





「殴るなら、早くしてちょうだい」




「はぁ……………。相変わらず、頑固ですね~。…………分かりました。お嬢様に私の力を少しだけ与えます。この魔法の力があれば、見えない壁を越えることが出来るはず。ただ、どんな副作用が起こるか分かりませんよ。死ぬかもしれない。それでも良いですか?」




「うん。ありがとう」






「では………」




「っ!」





口と口が重なる。甘い時間は、ほんの数秒。




次に目を開けると、メイドの姿はなく、私の前から消えていた。






試さなくてもわかる変化。殻が破れ、別の生き物に生まれ変わった気分。







一度、深呼吸。






そしてーーーーーー






「アァぁあぁーーーーーーーー!!!」




透明で見えなかった城を囲う壁が、今ならハッキリと確認出来る。



私は、軽く力を込め、その壁に私が通れる穴を開けた。その穴から外へ。



崖から飛び降り、海の上を歩きながら陸を探した。




「はぁ~~~、気持ち良い~~。自由って感じぃ………」





背伸びをして、新鮮な空気を全身に送り込む。空には、キラキラと星が輝いていた。




私は、そんな星たちにピースをすると再び軽快に歩き出す。





「どこに行こうかなぁ」





少し先に明かりが見える。小さな町の明かりだ。





…………………。




…………。





私の足が、町の広場の前で止まった。





「すごいッ!」





人が、ウジャウジャわいてきた。男も女もみんな楽しそうに騒いでいる。



どうやら、今夜はお祭りらしい。





う~ん。なんだか…………





「多すぎ」





町は好き。





でも人混みは、嫌い。





礼儀を知らない人が多くて、腹が立つ。平気で道にゴミを捨てる輩。そんな汚い道に座ってバカ笑いしている売女。一番、我慢が出来なかったのは、私にぶつかっても謝りもしないこと。






だからね。ほんの少ーーしだけ






「お仕置き」





一瞬、私の体を黒い感情が支配する。メイドが言っていた副作用とはこの事かもしれない。






私は、足に踏み潰されたバッタの死骸を手のひらに乗せた。ふぅーと息を吹きかける。すると新しい命が宿り、バッタは元気良く動き出した。その黒いバッタを世に解き放つ。






今までこの世界に存在しなかった、新しいバイ菌をばらまく一匹のバッタ。






一ヶ月もすれば、この辺も静かになるはず。






「なんか眠くなってきちゃった……」





誰もいない壊れた教会に入り、汚い床で体を丸めて眠った。割れたステンドグラスから、満月が見えた。





「おやすみなさい……」






次の日。




ルンルン。ルンルン。




スキップ、スキップ、ルンルンル~






町外れの小さな公園に行ってみた。男の子が一人、砂場で遊んでいた。





「ねぇねぇ~。何をしているの?」




「砂でお城を作ってる」




「………ずっと1人で遊んでるの?」




「うん」




「……ふ~ん」






ルンルン。ルンルン。




スキップ、スキップ、ルンルンル~






真夜中。




誰もいなくなった公園。




私は、ベンチに座る。わくわくしながら、『彼ら』が来るのを待つ。




足音がして顔を上げると、大きな布袋を持った人が、ゾロゾロと公園に入ってきた。袋を私に渡すと静かに帰っていく。






袋の中には、先ほどの人が私の代わりに買ってきた大量の食料と飲み物が入っている。一週間分以上は、ある。





試しに熟した桃を一口食べてみた。





「あっ!……美味ちぃ」





口の中でトロッ。一口、もう一口……。止まらない美味しさ。





メイドにも食べさせてあげたいな。






「メイドちゃん。………どこにいるの? 私は、ここだよ。今、知らない町にいるんだよ」






口に入れたスプーンをカチカチ鳴らしながら、メイドを探した。






「…………はぁ」




近くにはいないみたい。



メイドに頭を撫でてもらいたかった。



抱き締めてほしかった。





……甘くて。





甘くて、ちょっぴり悲しい夜。


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