第弍章

魔女の記憶①

【四方を海に囲まれた古城。その城に名前のないお姫様が長年幽閉されていた】




「はぁ~、いいな」





小窓から顔を出した私の目には、大きな大きな、まぁるいお月様が見える。憧れの外の世界。




私は、この城から出たことがない。


赤ん坊の時にパパにこのお城に連れてこられた私は、それからずっとメイドと二人で暮らしている。ずっーーーーと。





「はぁ~、いいな」





何度目かの甘いため息。





見るだけで満足出来なくなった私は、外の世界にいる人に話しかけてみた。メイドから不思議な力を分けてもらっていた私は、遠く離れた人と頭の中で話すことが出来た。







「外の暮らしは、楽しい?」





「…………」





「…………」





懲りもせず、何度も何度も同じ質問を繰り返す。







「だ……れ?」






「えっ、私の声が聞こえるの?」






「うん。聞こえるよ。君は、だれ?」






たまぁに私の声が外にいる人に届く。私は、うれしくなって部屋中を駆けまわった。





「私ね……。記憶がなくて、自分の名前すら思い出せないの。あなたのお名前は?」





「僕は、サトル。名前がないとどうやって呼んでいいか分からないね。じゃあ……タマって、どう? 昔、僕が飼っていた猫の名前なんだけどさ」





「うん。タマでいいよ」






「タマは、今どこにいるの?」






「遠い遠い場所だよ。アナタの知らない場所」






「歩いて行ける?」






「歩いては無理……かなぁ」







きっと、アナタに本当のことを言っても信じてはくれない。サトルが想像も出来ないほど遠くの島に私はいるんだよ。






「外の暮らしは、楽しい?」




「楽しいよ。今は、夏休みだしね。これから公園に遊びに行くんだ」





「いいなぁ~。羨ましいな」






「あっ! 今度さ、こっちに遊びに来なよ。僕が、町を案内するから」






「うん。分かった」






その夜は、疲れているのに眠れなかった。目を閉じて、もう何時間も過ぎた。私は、裸足で広すぎる中庭に出た。一緒に暮らすメイドを起こさないように静かに。そっと。






「わぁ! 凄い」





無数の流れ星が、見えた。






「眠れないのですか?」






メイドが、いつの間にか私の隣で、私と同じように流れ星を見ていた。






「うん。今日ね、外の世界にいる男の子とお話ししたんだよ。いっぱい、いっぱい色んな話をしたの」






「そうですか……。それは、良かったですね」







少し悲しそうなメイドの顔。理由は分かっている。どんなに私が、外の世界に憧れても。行きたくなっても。この城からは、絶対に出ることが出来ない。




城の周囲を見えない壁? みたいな物が囲っていて、それ以上先に進むことが出来ない。この城には、私達が出れないように強力な防壁魔法がかけられているとメイドは言っていた。






「泣いているのですか?」






「……泣いてな…ぃ。……ぅ」






目にゴミが入った私を、メイドは優しく抱きしめてくれた。優しい匂い。私の大好きな匂い。






眠れない私のためにメイドは、子守唄を歌ってくれた。その優しい歌声を聞きながら、私は夢の世界へ旅立つ。





夢の中で私は、友達になったサトルと公園に行ったり、虫を採って遊んだりした。楽しくて、楽しくて。






「………………行く」






絶対にっ!!






絶対にここから出る。


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