劉謙虔之 サムライ働き  

劉簡之りゅうかんしの二人の弟のことである。

なお先に上げた劉康祖りゅうこうそは、劉虔之りゅうけんしの子。


上の弟、劉謙之りゅうけんし

よく学問をおさめ、みずから晉紀しんき

つまり晋の歴史を著述するほどだった。

420年ころ、始興相しこうしょうに昇進した。


東海とうかい郡から疎開してきた、

徐道期じょどうきというひとが広州こうしゅうにいた。

彼は素行がよろしくなく、

他の北来人、地元民から蔑まれていた。


その頃、広州刺史が謝欣しゃきんが死亡。

すると近隣の無頼者を集め、乱を起こす。

その勢いは凄まじく、

広州府までもが攻め落とされてしまう。


徐道期を蔑んできていたものもの

百人あまりを殺害、広州府の府庫から

活動資金を収奪。

更には東晋系亡命士族も巻き込み、

始興へと攻めてきた。


ところで「徐道○+始興」っていえば、

もれなく徐道覆じょどうふくとの関連を

疑いたくなりますね?


ともあれ、始興を守っていた劉謙之。

あっさりと徐道期らを跳ね返した。

更に追撃をかけ、広州全体の反乱を鎮圧、

関わった者たちを処刑した。

この功績から一時広州府を預かることに。

その後正式に広州刺史に叙任された。


やがて、太中大夫たいちゅうたいふに就任。

……どんな役職ですか?



下の弟、劉虔之。彼は自由にして闊達、

資産運用には興味を示さず、

手に入る財貨はみな人びとに振る舞った。


司馬休之しばきゅうし討伐が始まると、

劉裕りゅうゆう檀道濟だんどうさい朱超石しゅちょうせき襄陽じょうように派遣。

このとき江夏こうかを守っていた劉虔之、

彼らのサポートのためけん城に出て

三連さんれんと言う地に橋をかけ、

兵糧などを集め、待機していた。


だが、檀道済らが、来ない。

原因は不明である。ともあれ先に

司馬休之軍の魯宗之ろそうしに察知されてしまう。


劉虔之のもとには、息子の魯軌ろきが強襲。

軍資運搬隊と強襲隊では、

はじめから戦いにもならない。

配下の孫長庸そんちょうようが涙を流しながら、いう。


「劉虔之様、無念ですが、

 ここは引くべきです!」


が、劉虔之。ものすごい剣幕で、反論。


「我らはいま、道理に従い、

 逆賊を討たんというのだ!


 ならばどうして、

 我々に敗北のいわれがある!


 そこに不幸が起こるのであれば、

 それが定めよ!」


そして戦うも、敗死。


死後梁秦二州刺史が追贈され、

新康しんこう県の男爵に封じられた。




簡之弟謙之,好學,撰晉紀二十卷,義熙末,為始興相。東海人徐道期流寓廣州,無士行,為僑舊所陵侮。因刺史謝欣死,合率羣不逞之徒作亂,攻沒州城,殺士庶素憾者百餘,傾府庫,招集亡命,出攻始興。謙之破走之,進平廣州,誅其黨與,仍行州事。即以為振威將軍、廣州刺史。後為太中大夫。

虔之誕節,不營產業,輕財好施。高祖西征司馬休之、魯宗之等,遣參軍檀道濟、朱超石步騎出襄陽,虔之時為江夏相,率府郡兵力出溳城,屯三連,立橋聚糧以待。道濟等積日不至,為宗之子軌所襲,眾寡不敵。參軍孫長庸流涕勸退軍,虔之厲色曰:「我仗順伐罪,理無不克。如其不幸,命也。」戰敗見殺,追贈梁、秦二州刺史,封新康縣男,食邑五百戶。


簡之が弟の謙之は學を好み、晉紀二十卷を撰じ、義熙の末に始興相と為る。東海の人の徐道期の廣州に流寓せるに、士行無く、僑舊に陵侮さる所と為る。刺史の謝欣の死せるに因り、羣れたる不逞の徒を合率して亂を作し、州城を攻め沒とさば、士庶の素より憾みたる者を百餘殺し、府庫を傾け、亡命を招集し、出でて始興を攻む。謙之は破りて之を走らしめ、進みて廣州を平げ、其の黨與を誅し、仍ち州事を行ず。即ち以て振威將軍、廣州刺史と為る。後に太中大夫と為る。

虔之は節に誕じ、產業を營まず、財を輕んじ施を好む。高祖の司馬休之、魯宗之らを西征せるに、參軍の檀道濟、朱超石を遣りて步騎にて襄陽に出づらば、虔之は時に江夏相為れば、府郡の兵力を率い溳城に出で、三連に屯じ、橋を立て糧を聚め以て待す。道濟らの積日すれど至らざるに、宗之の子の軌に襲わるる所と為り、眾寡敵せず。參軍の孫長庸は流涕し軍を退かんことを勸めど、虔之は色を厲して曰く:「我れ順に仗し罪を伐たんとせるに、不克の理無し。其の幸ならざるが如くせば、命なり」と。戰に敗れ殺さるるに見え、梁秦二州刺史、封新康縣男、食邑五百戶を追贈さる。


(宋書50-8_直剛)




劉虔之の言葉がやばい……例えば、司馬休之の上奏や、韓延之かんえんしの劉裕への手紙の内容を知っていたとしたら? また、劉裕が次々に粛清していった司馬氏一門に一体どれだけの実権があるのかを把握していたとしたら?


「順に依拠して罪を討つ」の言葉が、自分を説得するための言葉のように聞こえてなりません。これはキツイ……沈約しんやくさんもなかなかエグいセリフ残されるもんだ、すみません、大好物です……。

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