蒯恩1  隻眼の猛将   

蒯恩かいおん

 既出:劉裕42、劉裕49、劉裕80

    王鎮悪3、王鎮悪4、王鎮悪5

    王鎮悪6、王鎮悪7、朱齢石6

    朱齢石7



蒯恩。字は道恩どうおん蘭陵らんりょうしょう県の人だ。


劉裕りゅうゆう孫恩そんおん討伐のときに、

出征先で馬用の餌わらを

伐採、運搬する人士を徴用した。


その中の一人であったのが、蒯恩。

人並外れた量の餌わらを担ぎ、運ぶ。

だがある時、餌わらを地面に投げ出し、

嘆きながら、言う。


「男児たるもの、大弓を引いて

 戦場を駆け巡るべきだろうに!


 どうして馬飼いの真似事なぞを

 させられねばならんのだ!」


この言葉は、すぐに劉裕の耳に届いた。

なかなかの傾きっぷりを気に入った劉裕、

蒯恩に武具一式を授ける。


大喜びの蒯恩。

言うだけのこともあり、戦陣に出れば、

我先に飛び出し、多くの敵を殺した。

また兵士としての集団戦闘にも

速やかに習熟する。


その膂力、忠勤ぶりは、まさしく抜群。

そして戦いにおいて、過失はまるでない。

戦地での劉裕からの信任を得るのに、

さして時間はかからなかった。


そんな蒯恩であったが、

一回目の孫恩戦の終盤、るい県の戰いで、

箭が左目に命中してしまうのだった。




蒯恩字道恩,蘭陵承人也。高祖征孫恩,縣差為征民,充乙士,使伐馬芻。恩常負大束,兼倍餘人,每捨芻於地,歎曰:「大丈夫彎弓三石,柰何充馬士!」高祖聞之,即給器仗,恩大喜。自征妖賊,常為先登,多斬首級。既習戰陣,膽力過人,誠心忠謹,未嘗有過失,甚見愛信。於婁縣戰,箭中左目。


蒯恩は字を道恩、蘭陵の承の人なり。高祖の孫恩を征せるに、縣にて差や民を征せるを為し、乙士を充せるに、馬芻を伐たしむ。恩は常に大束を負い、餘人の倍を兼ね、每に芻を地に捨て、歎じて曰く:「大丈夫の弓を三石彎きたるに、柰何んぞ馬士を充たさんか!」と。高祖は之を聞き、即ち器仗を給さば、恩は大いに喜ぶ。自ずから妖賊を征し、常に先登を為し、多きの首級を斬る。既に戰陣を習い、膽力は人に過ぎ、誠心忠謹にして未だ嘗て過失を有せず、甚だ愛信さるに見ゆ。婁縣の戰にて、箭が左目に中る。


(宋書49-3_豪爽)




蒯恩

これまでも戦ばたらきにちらちら名前が出てきた人ですが、孫処と同じく、ど平民スタートからのし上がってます。なので一人だけ武侠小説になってて面白い。もっとも、最終的には長安失陥とともに戦死してしまいますが。しかし孫恩と同じ名前だって理由で取り立てられたんじゃねえの感もありますね。「おっこいつ雇えば孫恩の名前犯せるやん! ヒャホ!」って。


……あんま劉裕そういうとこに頓着しなさそうだな。

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