第80回『宝』:箱の中身<タブレットマギウス>

 依頼人の話を聞きながら、鍵職人は一抱えもある箱を精査する。

「祖母はタブレットで開けていたようです」

「魔術錠は安全性の高い鍵です。大事な物だったのでしょう」

 依頼人の目が輝き、引っかかりを覚えつつ職人は請け負った。


 寄木細工のような箱は溝も目立たず鍵位置すらも判らない。

 触って眺めて首を傾げて職人は嘆息する。ある小説の描写と似ている。学生時代に教科書で読んだ。

 試しに初出の頃の魔術書を探す。簡単に解錠した。


「名前に心当たりは」

「祖父と祖母です。ラブレターですか」

 金目の物は見当たらなかった。依頼人は肩を落として去って行く。

 職人は処分依頼書をじっと眺め。お宝だと一人呟く。

 記された名は、有名文豪の本名だった。

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