モンスター


サラダを食わせろ

おれに

そして未来の子供たちに

「まずーい」

未来の子供たちはペッとそれを吐き出す

即ぶん殴れ

それこそが真の教育

真の教育の名の下に鼻の骨が折れ曲がってもう二度と元の形に戻らなくなってしまう生徒が多数、出現した

おれは思った

「まさに教育だよなあ」

二宮金次郎の銅像も心なしか頷いた気がした

午後になると早速、モンスターペアレンツが学校へと乗り込んで来たのだった

双眼鏡で校門を潜るところを確認した

「あれが今話題のモンスターペアレンツって奴か」

ニュース番組か何かで見たことはあるが実物を見るのは初めてだった

「おい気をつけろよ、あいつはモンスターペアレンツだぞっ」

同僚が叫んだ

この同僚は昨年、モンスターペアレンツの餌食になり発ガンしたのだった

「わかってる」

職員室内に緊張が訪れた

おれはコピー用紙の束をとんとんと机の上で揃えた

侵入した来たモンスターペアレンツは赤いハイヒールを履いていた

(きっと誰かの返り血を浴びてそうなったのだろう)

おれは推測した

だが実際、近くでよく見てみるとモンスターどころかただのババアだった

落胆した

「なんだよただのババアかよ」

思わず口にしてしまった

武器として生徒から借りておいた彫刻刀が無駄になってしまった

「我が校に何か御用でしょうか?」

おれは尋ねた

そのあとのそいつの言動には驚かされた

「お前が三年二組の担任か!」

会話が全く通じないのだ

チンパンジーの愛ちゃんと対峙しているような感覚

「………ええ、だとしたらそれが何か?」

モンスターペアレンツは間髪入れずに喚いた

「うちの息子の鼻が折れたんだ! お前がやったんだろ!」

ふう

物事を勝手に決めつけるのは良くない

「ジャニーズに入団させて『タッキーアンドムラタ』って名前でデビューさせようと思ってたのに一体どうしてくれるんだよ! おい! 聞いてるのか!」

ジャニーズ?

お前の息子がか?

冗談はよせ

おれは思った

思っただけではなく口にもした

「ジャニーズ? お前の息子が? 冗談はよせ、シャケおにぎりみたいな顔の輪郭をしていていつも他の生徒たちに笑われてるじゃないか………叶わない夢なんて虚しいだけだということがどうしてわからないんだ?」

モンスターペアレンツはいよいよその本性を発揮させるつもりなのか顔を真っ赤に染め最終形態と化しおれに近付いて来た

「どうしてお前みたいな奴が教員になれたんだ!」

そいつの臭い息を跳ね返すようにして言った

「おいババア口の訊き方には気をつけろよ」

殺すぞ

胸ぐらを掴んだ

そいつの顔面を凝視していると日頃の溜め込んでいたストレスが一気に爆発するのを感じた

「懲戒免職だ!」

ババアが喚きおれは即、切り返した

「そうはいかないざます!」

ひるんだ隙にさらに畳み掛けた

「内臓を飛び散らせて死にたいざますか!」

ババアが硬直した

それはなかなか愉快な光景だった

笑った

ババアが怯えた

公務員がいきなり狂い始めたと思ったのだ

だがな

おれに言わせればこんなことは狂うの範疇ではない

こいつにとっての世界はあまりに小さすぎる


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