荒野の賞金首


おれは悪党だ

どういう悪党かと言うとだな

人をばんばん撃ち殺すそういう類いの悪党だ

人をばんばん撃ち殺しても悪党ではない奴もいる

保安官とかな

下らねえ

おれは悪党だ

だからとにかく空き缶みたいに人をばんばん撃ち殺す

そうすると楽しいからそうするんだ

おれはバーに入った

「みるくちょーだい」

バーテンダーにおねだりを開始した

「ねえ、みるくちょーだいよお」

客のふりしておれを狙っていた賞金稼ぎ共がおろおろし出した

おれがいっつもバドワイザーばかり飲んでいたからだ

だがおれがいっつもバドワイザーばかり飲んでいると思ったら大間違いだ

でも今度はおれがおろおろする番だった

カウンター越しにバーテンダーの老人が胸をはだけ乳を露出してきたのだ

弛みきった皺々の乳房だった

「吸いなはれ」

老人は言った

え?

おれは最初この老人が何を言っているのかよくわからなかった

(スイナハレ? そんな地名がこの辺りにあったかな?)

脳内が無意識に理解することを拒んだのだ

数秒後この乳房を吸えという意味なのだとわかった

「ちょ………ちょっと待て」

名のある賞金首のおれの風格が一瞬で吹っ飛んだ

身振り手振りを交えて拒絶した

老人は言った

「吸え」

おれは吸った

吸わないとでも思ったのか?

はっ

おれをそこら辺の賞金首と一緒にしてもらっては困る

ここまでこうやって生き残ってこれたのには理由があるんだ

おれは完全に自分自身ってやつを取り戻していた

「おおうめえや」

上半身を乗り出しちゅぱちゅぱと老人の乳首に吸いついた

乳首がもげてしまうのかというほどの激しい吸引を繰り返した

賞金稼ぎ共はもはや完全に戦意を失っている

皆、顔面蒼白で電柱のように突っ立っていた

おれは乳首から口を離すと元気良くハキハキと喋り始めた

「みるくは出ないんですかねえ?」

カウンターの老人は怯えた

理解不能の生き物が目の前に現れたからだ

そうしておれはこのバーを永久に出入り禁止になった

「だからなんだ?」

バーなんて世界中に腐るほどある

ここが駄目ならまた他の店で飲めばいいそれだけの話しではないか


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