第79話 物言わぬは腹ふくるるわざなり

 平成二十五年七月、実際の審判は行われることなく、たった三か月で終わった保全処分の判決をなぞったまま、家裁の裁判官は「娘を渡せ」という文書を送ってきた。

 高裁へ即時抗告した際、弁護士さんのところへ高裁の裁判官から電話があり、こちらの状況に変化がないかどうか確認があったとのことだった。妻に娘を連れ去られる直前に独立起業に向けて始めたバイトを辞め、きちんと家計を維持するために契約社員として働いているということだけ伝えてもらった。

 弁護士さんが言うには、「若い裁判官で、事務的な感じだった」とのことだったが、本当に高裁の裁判も書類だけで終わった。妻との生活の実態、私の育児などを陳述書に書いたが、結局は一切無視されただけだった。

 この時、娘の思いを親戚のおばさんから娘に聞いてもらって、それをDVDに録画して高裁に提出したが…、裁判所にとっては「幼児に口なし」。

 娘本人の思いは黙殺されただけだった。親が幼児の言動を操作して、事実を捏造できると言うなら、実際に調査してもらいたいものだが、そう依頼しても、最初に嘘を書いた調査官の調査だけで二度と娘の意思について調査されることはなかった。一度も娘本人に裁判所が意思確認したことはない。

 だから、家事審判では「幼児に口なし」。

 ひどいものだ。同じ日本国民なのに、裁判所にとって、幼児は母親の付属物で、基本的人権を持たない。


 日本人は大人しいと思われているかもしれないけど、言うべきことは、心にため込まず、言葉にしたほうがいい。

 相手が国家権力であっても、いや、国家権力だからこそ、言ったほうがいい。自分たちの国、日本のために。日本に暮らし続ける、我が子の将来のために。

 陳述書は黙殺しても、目の前で正論で問い詰められると、裁判官も逃げるすべはない。

「ここは、そんなことを議論する場所ではありません!」

 などと、たかだか公務員の裁判官が物申そうものなら、今の私なら、

「人の話は、最後まで、黙って聞きなさい!」

 そう、怒鳴りつける。

 きちんと、相手がこちらの話を受け止める態勢を整えたうえで、きちんと論理的に伝えればいい。

 こちらは何も、不正をしていない。

 おかしいことをおかしいと伝えているだけだ。

 何か問題があるなら、正々堂々と反論し返せばいいだろう。

 よほど、調査官の調査報告書のほうに問題があるし、監護権という子の福祉にとって重要な裁判を短い期間で、娘本人の言葉や意思さえ踏みにじって、判例を遵守する裁判官の偏見で行われる家事審判のシステムのほうが、この国にとって大問題だ。

 裁判官を叱りつける行為が法廷侮辱罪というなら、せっかくの機会だから、ここへ至る経緯を表に出して、マスコミのまな板の上で、みんなで議論しましょう。密室で行われる家事審判の在り方に、ぜひ日本中に注目してもらいたい。そうしてでも、伝えるべきことは伝えたほうが良い。

 やらないで後悔するより、やって後悔するほうがいいと言うけど、言うべきことを言わなくて後悔したとしても、言うべきことをきちんと言って後悔することはない。

 平成二十五年、家庭裁判所と家事審判というものが分かっていなかった私は、少し頼りなさを感じながらも弁護士さんを信頼し、ただ娘のことを思って、読んでももらえぬ陳述書を大人しく真面目に粛々と書いていたけど、こちらの言い分は一切通らず、妻と「嘘をついても、裁判所が認めれば、法律の正義」と放言する弁護士の嘘だけが認められていく始末だった。


 あの時、正々堂々と家庭裁判所と面と向き合って、死力を尽くして戦えなかったことを後悔する。

 今も、心の中で娘に詫びながら、当時を振り返る。

 なんだろ、家裁って。こんなんでいいの、家事審判って。


 言うべきことは、面と向かって言った方が良い。

 正しいと信じることは、きちんと口に出して伝えなきゃいけない。


 じゃないと、国家的な不正がまかり通る。

 歪んだ国が出来上がる。


 言わなきゃいけないことは、ちゃんと言わなければいけない。

 これも、この裁判のあとで、調査官の非常識な発言を心の底から思いっきり怒鳴りつけてやった時に確信したこと。


 一般市民に怒られて、裁判官は黙ってふてくされて聞くだけで、結局、何も変わらず、一方の主張を無視した不中立・不公平・不公正な判決を出すだけかもしれない。

 それでも、何も言わなかった時よりも、よっぽどマシだ。

 あの時、我が子のために、何もしてやれなくて申し訳なかったと、後悔しながら振り返るより、子供のために行動しただけ、よほどマシ!


 裁判官が組織の意向に従って、組織としての意思に準じた判断を改めないのは当然だろう。

 私たちは、また、その状況と情報を共有して、戦い方を考えていく材料にすればいい。こんな無力な国民の細々としたゲリラ戦が、いつか日の目を見る日まで、我が子のために、精一杯頑張っていくだけだ。

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