第8話 ぬいぐるみの大音楽会
仕事で遅くなり、夜九時過ぎに家に帰った日のこと。
二階の寝室から階下へ、寝かしつけの音楽が鳴る人形の歌が、大音量で流れてきた。
うちの父に、娘が生まれた日に買ってもらったぬいぐるみの音だ。母親の体内の音に似せた「ゴー、ゴー」という音以外に音楽や英語の歌が鳴るおもちゃで、病院で娘が泣いて妻が困らないための、父からのプレゼントだった。
あわてて寝室に入ると、ベットでギャーギャー泣く娘の顔の前に、妻が人形を差し出していた。
「何してるの!」
つい大声を出た。
「寝かせるのに、この音楽に集中させなあかんのや!」
妻が叫んだ。
私は娘をかかえると、妻に車を運転するように言った。
なかなか寝ない日のお決まりの夜のドライブだ。運転はいつも妻で、後部座席で娘を抱くのは、私の役目だった。
日中の運転も妻の役目だった。
いつも私が後ろで、チャイルドシートの娘の隣に座っていた。
ある日、妻が「何様や」と怒ったことがあった。帰宅途中、娘がウンチをして泣きわめき、その夜には妻が「家を出ていく」と泣いた。
その次のお出かけには、「何様や」と言われないように、私が運転した。
そこで初めて妻は、後ろに座ると、娘の面倒を見なくてはいけないことに気づいたようだ。それからはずっと妻が運転し、私が娘と一緒に後ろに座るようになった。
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