ミア迷宮! 下っ端攻略初日終了!

 今のヤツは一体何だったのだろう。


「下っ端の迷宮」のモンスターにしては異常とも思える動きだし、何故かこちらに対しては一切手を出そうとはしてこなかった。

 なんだか軽くあしらわれたような気がする。


 まるで準備運動でもしているかの如く、ふと現れ、ただただ風のように去って行った。


 そしてすれ違いざまに偶然目撃した目。


 他の不確定モンスターは全体にモヤが掛かりボヤけていて目すら分からない状態なのだが、ヤツに関しては何故か目だけはハッキリと認識出来た。


 このゲームを作り上げた人は変な所にトコトン拘るタイプ。

 その性格のせいで、ここにいる仲間達もそうだが表情、体型、そして目とリアル同様、同じ者は誰一人として存在していない。

 モデルとなる人が実在している場合、寸分違わず忠実に再現していると言える。


 例えば人混みに溢れた街で歩いていても、すれ違う人は背景と一緒で普通は気にも留めない。

 でもそんな状況でも知り合いなどの顔が遠目であれ視界に入れば、あれ? っと気付くことがある。


 今回は正にそれで、そのを見てしまったことにより、まだ敵がいるにも関わらず考え事を始めてしまった。


 あの時、目だけで済んだなら「デジャヴー?」で終わらせても良い程度だったと思うが、厄介な事に気がかりなことがもう一つあった。


 あの曲芸ともいえる動き。

 私が知りうる範囲であの特異な動きが出来る者は既知宇宙で二人いるのだ。


 一人はBエリアここにはいない……というか今は大切な友人と別の場所にいる筈。


 もう一人の「アイツ」であれば、私を見るだけでするなんてあり得ないし、仲間達の幾名かもあの動きを見て気付いてもいいと思う。


 でも実際には手を出さずに、誰も気付かず去ってしまった。


 もしかしたら神様が私が的外れな確信に至る事を上で、敵キャラを組み込んでいる可能性も捨てきれない。


 ただ一つだけハッキリ言えるのは、ミアノア神様がこのゲームに部外者を招き入れることは性格的にあり得ない。

 しかもメインシステムとなっている基地AIにアクセス出来る者は限られているし、からのハッキングなんてどうやっても不可能だと思う。


 それらのことから、アレを操っているのがであるならばドリーで休養中の班長達を除き、現在基地AIにアクセス出来る探索部員、つまり私が知っている探索者に限定出来る。



 ということは基地に残っている二人の片割れしかいないということになる……よね?

 まさかヤツでは無く、もう一人がここに来ているとか?

 それなら妹が真っ先に私に会いに来てくれる筈


 ……それとも予想もしない新たな仲間が戻って来てるとか?


 エリス……ってことはないしなー



 どちらにしても、こんなインパクトがある敵? なのだから後々のストーリーに関わってくる意味深なキャラであるのは間違いないだろうから、その内に再会する筈だ。


 考えにけていて気付かなかったが、今はこの部屋も突入時の薄暗闇から部屋全体が見通せるくらいまでそこそこ明るくなっていた。


 改めて周りを見渡すが、ガランとした何も無い部屋。

 そして戦闘があったことなど微塵も感じられないくらいの平穏な空気。

 まるで先程の騒ぎが夢であったとも思えてくるくらいに。


 ふと視界に動くモノがあったのでそちらを見ると、今回の戦いで唯一の被害を受けた菜奈が姉と合流、一緒にこちらへと近付いて来るところだった。


「菜奈、怪我は?」

「ないよ。みんなが受け止めてくれたから」

「みんな? そう、良かった〜」


 飛んでくる菜奈を三人だけでは無く、五人で受け止めたから怪我もしなかったんだね。

 結構な勢いで投げられたように見えたから少し心配してたんよ?


「貴重な体験出来た……かな?」

「貴重な体験?」

「うん。宙を舞うっていう」

「あ、そう……」



 舞うっていうより投げられてたよね? 盛大に


 ま、考え方次第か


 怪我も無かったし本人は攻撃が当たらなかったことよりも、投げ飛ばされた事をアトラクション感覚みたいに捉えているようだからショックとかは無さそうだしね



 全員揃ったところで先に進む。


「お、そうだ。黄色の光点!」


 思い出したのでヘルプ検索を開こうとすると「それね、調べたらだって~」とエリーが教えてくれた


「……はい?」

「だから神様が~内緒だって!」



 フッ……もういいや!

 考えるだけ無駄無駄! 



「次行こ、次!」


 さっきいっぱい考えたことを後悔した。




 気を取り直し、現れた通路を進むと直ぐに次の扉が現れた。

 マップにて中を確認すると光点は三つ。

 今度は迷宮ボスダンジョンマスターで間違い無さそう。


「よし、隊列組んで。扉はリンが開けてくれる?」

「りょうかーい、だぞだぞ~~」


 忍者リンが抜き足差し足忍び足〜という表現がピッタリの歩き方で扉に近付きノブに手を掛けようとした瞬間、自動で室内側へと開いていく。


「おーー今回は勝手に開きよったね」


「団体さんいらっしゃーい、てか?」

 片手を上げてボケるマリ。


「ハハハハ! 我々も舐められたものだな」

 シェリーだけにはウケたようだ。


「なら受けて立つまで!」

「殲滅なの!」

「そ、そうです!」


 お蔭で士気が高まった。


「それ皆の衆! 身の程知らずなモンスターに天誅を!」

「「「おーーーー!」」」


 隊列組んで中に入ると小ウインドウが開き


 LV15オーク × 1

 LV10オーク × 2


 との表示が出た。


 確かレベル10で攻略出来る迷宮って言ってなかったかい?

 あのレベルだと、定番の四人パーティーでは攻略はちっと厳しくないかい?

 それともこちら側の人数やレベルによって変化するのかね?


「散開される前に叩くわよ~遠距離攻撃できる者は敵の左右に向けて波状攻撃~逃げ道を塞いで~」

「「「了解!」」」


 そんな事はラーナリーダーには関係無いみたい。

 当たって砕けろ精神丸出し、浮ついた声でテキパキ指示を飛ばしている。


「前衛は遊撃に続いて突撃~~!」

「「「了解!」」」


「エマちゃんと菜緒ちゃんは周囲警戒~」

「あいよ!」「了解!」


「みんな出し惜しみは無しでね~」


 全員教会にて何かしらのスキルが手に入った。

 どんなスキルかは分からないが、私みたいに補助系のスキルを得た者もいれば攻撃系のスキルを得た者もいるだろう。

 それらを試すには耐久力もありHPも高い迷宮のボスダンジョンマスターは打って付けの存在。


 遊撃に続き前衛が獲物に向け駆けて行く。

 後方ではメンバーを左右二つに分け、仲間達に当たらない範囲に遠距離攻撃による「壁」を作り始めた。


 その攻撃は地下二階までとは違い、見て分かる程の威力が増している。


 呪文系の二人は火球の大きさが1.5倍で詠唱時間も若干短縮されており次々と呪文を放ち、マリの斬撃は二枚刃、マキは一回で矢が二本と増強、打合せもしていないのに呪文と被ることなく交互に放ち、双方とも弾幕としての役割を立派に果たす。


 そして行動範囲が狭まれたボスに正面から意気揚々と群がる者達。

 こちらもリンと菜奈、ラーナとシャーリー、ソニアとシェリーの二人一組の三手に分かれ、上手い具合に攻守を交代しながら戦っていた。


 ラーナ達が敵と接触、交戦状態に入ったところで遠距離攻撃を止め成り行きを見守ることにした。


 全員活き活きとした動き、何かの叫び声や戦闘音、飛び散る火花。

 目を凝らして見るとボスと対峙しながら笑みを浮かべている者さえいた。


 ま、誰とは敢えて言わないけと……


 その笑みを見て、こちら側とは明らかな温度差を感じてしまう。



 多分あいつらは宇宙を股に掛けた戦闘民族の血を色濃く受け継いでいるんだな……と



 隣にいる菜緒も同意見のようで、複雑そうな瞳で妹の動きをジッと追っていた。


 結局、迷宮ボスダンジョンマスター相手だというのに三分もかからずに終了してしまう。


 先ずLV10オーク二体が早々に陥落。

 そちらを受け持っていたメンバーが残ったLV15オーク攻撃に加わると既に防戦一方であったボスがなす術もなく見る見る弱っていく。


 そこで定番の仲間呼びをされたが、現れたのはLV10オーク一体のみ。

 そちらは後方でやることが無くなっていたメンバー六人が遠距離一斉攻撃にて冷静に瞬殺。


 程なく迷宮ボスダンジョンマスターも討伐完了となった。


 ここまで素早く討伐が出来たのは、やはりスキルの影響が大きいようだ。


 例えばラーナの拳が炎に包まれていたり、シャーリーの槍が紫色を纏って敵の防具をモノともせず貫いていたり、シェリーの居合切り? は刀を抜いたかどうかも分からない程早かったり、菜奈の剣は青白い電撃みたいなモノを帯びて敵を斬れば追加効果で部分麻痺状態に出来るみたいだし、ソニアの蹴りはヒットした部分が爆発して追加ダメージを与えていたり、リンに至っては増殖して二人になったりと、見てていつの間にかポップコーンが無くなる程忙しかったね。


 因みに菜緒はピクシーからピンク色の可愛らしい「ケット・シー」へとレベルアップ。

 ケット・シー自身が小さな魔法棒を振るい弾道を遠隔操作できる小火球ファイヤーボールを繰り出していた。


 後で聞いたら菜緒のスキルは「召喚したモンスターを自分自身の様に自在に操れる、かも?」とのことで、ケット・シーの魔法弾道操作を菜緒がしていたとのこと。


 私に関しては今回は「タライ攻撃」しかしていないのでスキルの恩恵を確かめられてはいない。

 なので新たに覚えた他の呪文魔術の効果も含めて次回へと持ち越しとなった。



 ボン‼



 今回の宝箱は一つだけ。

 開けてみると掌サイズの鍵が一個だけ入っていた。


「何の鍵だろう?」


 みんなの視線が箱の中に集まる、が当然の事だが全員分からないので同時に首を傾げる。


 リンから鍵を受取りマジマジと眺めるがアンティーク以外では使い道が無さそうな、何の変哲もない青銅色の古びたウォード錠にしか見えない。


 その途端、部屋が地上並みの明るさへと変わり何処からともなく声が聞こえてきた。



<「下っ端の迷宮」攻略おめでとうございます。迷宮ボスダンジョンマスター討伐完了の為、地上へと強制召還となります>



 というアナウンスと共に目の前に小ウインドウが開き「10」の文字が浮かび上がったので、急いで鍵をアイテムボックスへと収納、この後何が起こるか分からないので身を寄せ合う。


 カウントが0になった途端メンバー全員が眩い光に包まれ思わず目を瞑ってしまう。

 直ぐにフッと体が宙に浮くが直ぐに地に足が着いたのでそーと目を開け場所を確認すると、何とあの小さな教会の中であった。


 全員呆気に取られ辺りをキョロキョロと見回していると頭の中に声が響いてきた。



<皆さんの活躍により悪しき迷宮の一つが消え去りました。ですがまだ最強最悪である「魔神の迷宮」が残されています。世界の破滅を防ぐためにも急ぎ討伐をお願いします>


 全員二人の女神像を見る。すると像から僅かだが光が発せられていた。


「今のは?」

「多分神様ね」


 その声を聞いてさらにやる気を出す者、無表情の者、ため息をつく者の三通りに分かれたのだが、その後の行動は皆同じであった。


 折角無布施タダで教会に入れたのだからとシッカリお祈りを捧げた。






「エマちゃん達大丈夫?」

「…………」


 一つ目の橋の頂上付近で心配そうに姉妹を見つめる菜奈と菜緒。


「だ、大丈夫よ~~」

「ま、全く風呂入るのに登山をする羽目になるとは……」


 レベルが上がって体力値も上がってるんだから変化があっても良さそうだが……ダンジョンの外だと元に戻ちゃうのかね?


 公約通りお風呂に入ろうと、昼間引き返した橋に到着。

 意気揚々と進む仲間達とは裏腹にエマ姉妹の足取りは重かった。


「そんなに距離ないでしょうに」

「そ、そうなんだけど……」

「と、とっても嫌な……ね、予感がするんよ」



 こういう時の予感って当たるのよね〜



 もう少しで頂上に辿り着くという所で上を見上げると、仲間達は菜緒菜奈の隣で先を見つめたまま無言で立ち尽くしていた。


 ってゆーか誰も私達の心配なんぞしてはいない。

 まあBエリアメンバーには私達の運動嫌いは有名だからね。


「ハアハア、て、てっぺん取ったどーー」

「と、到着~」


 両膝に両手を置き、肩で息をしながらソニアの真似をしてみた。

 脇では同じ態勢の姉が無言で息を整えている。

 一応言っておくが、二人とも健康体だからね。


 私達の両脇で菜緒菜奈が心配そうに見ているだけで、その他の者は何かを見ることに集中しているようで誰も私達姉妹が登頂を果たしたことに気付いてくれない。


「お? やっと追いついたんかい。落ち着いたら先、見てみ?」


 と思ってたらマキは気付いていたようで声を掛けてくれた。



 ってゆーか、あんた達姉妹は元気よね?

 私達並みに体力無いくせに

 と言うことは気持ちの問題かい?



 「先」という単語に釣られ恐る恐ると顔を上げると、橋の先の向こう岸に大きな木造の建物が見えた。


「あそこが入浴施設ですかね?」

「なんやどっかで見たことあるような……」

「あ! お姉様! アレでは?」

「そうですね。細かい所は違いますがアレで間違いないでしょう」

「なんなの?」

「ここから先、橋の上では誰に対しても決して頭を下げてはダメ!」

「何故ですか?」

「黒服のストーカーに付き纏われるぞ?」


 意味深げにニヤケながら忠告するシェリー姉妹。それに対しソニアとランが困惑し出す。


「それってアレのことかーー?」


 指差す先にはお面を被った真っ黒な亡霊……ではなく古代の東洋の島国のいた僧兵風? の警備員が要所要所に立っていた。



 ちょっと違うような……あそこにいるのはどっちかって言えば「武蔵坊弁慶」ってヤツに似てるよね

 あ、だから先の建物も「和風」なのか!


 ってそっちよりも先に聳える建物は、それこそ超有名な湯屋にソックリだよね~


 成程、だからみんな固まっていたのか

 理由は解った

 みんなからしたら楽しみだろうて


 でもね……



「何で同じ橋があと四つもあるのよーーーー‼」



 予感は当たってしまった。

 隣では既に力なく崩れ落ちている姉の姿が。


「仕方ないかと。ここから先は神聖な区域。理を無視すれば姿をブタに変えられてしまう」

「礼を欠けば二度と現世うつしよのは帰れなくなります!」


 真面目な顔して何訳のわからん事言ってるんだ、このオタク姉妹は‼︎


「仕方ないな~シェリーちゃんとシャーリーちゃんはエリーちゃんをお願いね~」

「え? うわ!」


 いきなりラーナにお姫様抱っこをされた。


「承知した。では先ずは我から。失礼」


 エリーの前に行き、背を向け片膝ついてしゃがみ込む。エリーは申し訳なさそうに、だか躊躇せず背に乗った。

 因みに武具の類は既に各々のアイテムボックスに収納済。

 なので全員軽装だ。


「ならランランをはこぶのはリンリンのやくめなのだーー!」

「キャッ!」


 頼んでもいないのに有無を言わさず背負ってしまう。


「私は先に偵察に行ってくるなの!」


 先行し出したリンに負けじと駆け出すソニア。

 残された四人はマイペースで歩いていく。


「おーー楽チンだわさ……ってどさくさ紛れにキスしようとすんじゃない‼︎」


「チョ○ボに乗ってるみたい〜帰りもお願いね〜」


 橋を渡り終えると一階入口と思しき所の上部に横向きで大きなしめ縄と、そこにギザギザな白い紙が等間隔で張り付けられてある木造の建物が見えた。


 建物自体は三階建てと階層は多くは無いが、先程立ち寄った「ボルダック商店」の様に一階毎の高さがかなりあり大きく見えてしまう。


 ノンビリ歩きの四人が到着したところで建物までの石畳を歩いて向かう。

 しめ縄の下までやって来ると、そこが十二人が手を繋ぎ横並びで入っても余裕の広さが有りそうな玄関であった。


 玄関を潜り抜けると、暖色系の灯りに照らされた明るい室内の左右には壁一面に靴棚と床には簀の子、正面にはさらに二つ入口があり、そこに「湯」と描かれた青色と赤色の暖簾がそれぞれ掛かっている。


「アレは文字なの?」

「そうなのだ! 「ゆ」とよむのだ!」



 あらリンったら良く知ってること

 案外? 博識なのね

 私は以前、先生に教えて貰ったから知ってたけど



 靴を入れ、木製のカギ? を抜き取ってから暖簾を潜る。

 因みにこのタイプのセキュリティーシステムは全員初めてだったが、やってみたら単純で難なくクリアー出来た。


 こんな簡単なセキュリティーが有るなんて知らなかったわ! ハッキングの心配も無いし!


「いらっしゃいまっせ~」


 暖簾を潜ると正面の高台の中で座っていた女性の店員さんが声を掛けてきた。


「全員で十二人なんだけど?」

「お一人様十五Gで全部で百八十Gとなりまっせ~」


 食事代とほぼ同額か……


「タオルとかの貸し出しは?」

「込々でっせ~」


 と料金を払うと人数分のタオルセットを順番に手渡してきた。

 それを順にリレーで配る。


「中のドリンクも飲み放題~あとはごゆっくり~」


 最後に自分の分を受け取ってから中へと進む。


「お? この風景、何処かで見た記憶が……」

天探女あめのさぐめ主任の湯の脱衣所に似ているかと」

「そ、そうだ!」


 シェリーが懐かしむような顔付きで呟いたお蔭で思い出した。

 あそこも棚が並んでそこに篭が置いてあったなっと。


 さらにマッサージチェアと扇風機、あと何故かアナログ体重計。

 ドリンクコーナーには牛さん印の瓶までが置いてあったわさ。



 やっぱり親子なんだね〜

 何だか羨ましい


 それは良いとして、えーーとあの時いなかったのはエリ姉とマリとリンの三人か

 その三人ならそれぞれ相方もいるし、改めて説明しなくても多分大丈夫だろう


 というわけで……



「一時解散----! 二時間後に二階の休憩室に集合ーーーー!」


 ちびっ子三人組が競う様に服を脱ぎ、素っ裸で浴室へと駆けて行く。

 残された九人は横並びで服を脱ぎ始める。


「フン〜フン〜フン〜フン♪」


 丁度中央にいるエマから鼻歌が聞こえてきた。

 その様子を横目で見つめる仲間達。


 エリーとマキは呆れ顔で

 菜緒菜奈は心配顔で

 ラーナとシェリー姉妹は微笑みを

 マリは興味津々といった顔で。


 皆の注目が自分に集まっているのには気付いたが、それはこの偉大な山脈が羨ましいのだな、と思い敢えて意識しないフリをする。


 だがどう変化したのか見たいがため、高ぶる感情を抑えることは出来ず、さらに皆の羨望の眼差しを予想し、意思に反し嬉しそうに身体を小刻みに揺らしながら脱いでいく。



 ぷしゅーーーー



「…………あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーー‼」



 巨大な山脈が、元のハイキングに最適な丘に戻ってしまった瞬間、大絶叫を上げて凍り付く。

 その声を聞いて浴場にいたリン達までもが戻って来てしまう。


 隣の仲間達と言えば、

 呆れ顔の二人は「やはり……」といった表情でため息をつき

 心配顔の二人はオロオロし出し

 微笑みの三人は温かい目に変わり

 興味津々だったマリは驚愕の表情をして見せた。


 ってマリも知っている筈なのだが……いや知っていたからこその驚き様か。


 でも「やっぱり特殊効果の事は忘れてたのね」と皆、同じ思いで見ていたのであった。


 その後、服のまま浴場へと行こうとするエマを何とか慰め全員で仲良く入浴。

 多種多様な薬湯に浸かり、さらに燕尾服タキシードを着込む頃にはエマの機嫌はスッカリ良くなっていた。


 入浴を終え二階のだだっ広い、お客も疎らな畳の休憩所の一角にある食事処にてまったりと夕食を取り、心身共にリフレッシュ出来て外に出た頃には既に日が沈んでおり、満面の星空へと変わっていた。


 一行はそのままギルドへと行き、二階の宿泊所にペア毎で部屋を取り就寝時間まで宴会をする為、地下の酒場に向かう。


 酒場は冒険者達で席が全て埋まっている程の盛況ぶりであったが、ラーナが現れた瞬間、一部の冒険者達が逃げる様にそそくさと席を離れ、酒場から出て行ったので何とか座る事が出来た。


「そう言えば「魔神の迷宮」攻略は進んでるのかね?」


 私たち以外の多くの冒険者が挑んでいる筈。

 なので少しは攻略が進んでいると思う。


「まだ四階迄みたいですよ~」


 馴染み? のウエイトレスさんが注文したお酒とツマミを置いていく際に教えてくれた。


「へ~そうなんだ」

「皆さんはまだ行かれてないんですか?」

「私達のレベルではまだ早いかな」

「今おいくつで?」

「一番上が二十で平均十八くらい」

「だったらそこそこイケるんじゃなんですかね?」

「そうなの?」

「レベル二十の人も何人かは生還しているみたいなので」

「……何人か……」

「はは、まあ自己責任ということで」

「ここの冒険者で最高レベルはいくつか知ってる?」

「レベル上限の五十だったかな? 確か一番上がり易いジョブの「戦士」さんだったかな? その人が所属するパーティーが今日一日で四階まで辿り着いたみたいです」


 四階か。確か地下十階までだから約半分?


 ん? あれ何か違和感が?


「魔神の迷宮ってよね?」

「下り? ……いえ、逆向きって言うか「塔」だから一応のぼりらしいですよ?」

「「「塔?」」」

「はい。噂では最上階である十階は青空の下? らしいですね」



 そうなんだ

 ま、上下うえしたどっちでもあまり変わりはないか

 六十階も無いだけまだマシね


 でもこのレベルで大丈夫かな……



「そう言えば武具屋の訓練場で「魔神の迷宮」バージョンが公開されたって噂を聞きました。行かれる前に寄ってみては?」


 それは良いことを聞いた。


 明日朝一でギルドで報酬貰ってから訓練場にも寄ってみるか、と若干多めにチップを渡し、その日は早めに部屋へと戻った。

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