本能欲望! エリス!

 ・・・・・・




 ミアから受け取ったAエリアでの出来事のデータを空間モニターで確認するローナ。


「サラめ。まだなにか隠しているわね……」


 読んでいる途中でポツリと呟く。


「……サラ? アリスのこと、かい?」


 やっと団子を食べ終え最後にお茶を一口。

 一息ついたミアは、相当鬱憤が溜まっていたらしいシェリーの暴れまわる様子を一目見てからローナに向き直る。


「アリスの事も含めて♩」

「?」

「しかし「賢者会」まで出てくるとは……まあお互い様だし、あっちの成果次第でアリスのことは帳消しにしてあげてもいいかもね♪ それとさっきお願いした件はどう? 中は覗けそう?」

「……難しい、かも? どうやらセキュリティーレベルが引き上げられたみたい、だぞ。ただ……」

「ただ?」

「……マリの居場所だけは何故か見えてるんだ、な~」

「それはそれで何か腹立つわね♩」


「……どうする? 押してもいいかい、な?」


 ミアの前にドクロのアイコンが描かれた黄色のボタンが表示されている空間モニターがさり気無~く現れた。


 そのボタンにプルプルと震えた指が近付いていく。


「まだダメ、我慢なさい♩ それとマリの位置、こっちでも分かる様にしておいてくれる♩」

「……りょうか……い」


 残念そうに返事をし、震えた指を名残惜しそうに引っ込めるミアであった……


 ミアの返事と共にマリのいる位置が表示された立体図がローナの前に現れ、その位置を確認すると……


「あれ? 何でルートから外れてるの♩ 帰る気あるのかね♩」


 首を傾げるローナであった……






「ロイズーーーー! 避けるなーーーー! 素直に原子の粒となれーーーー‼︎」


「ひ、ひぇーー! な、なんで調査艦あいつらが消えちゃったのよーー⁉︎」


 調査艦が消え去った後に、シェリーの意気揚揚とした雄叫びを聞いたロイズは「とっても嫌な予感」がしたので本能的に艦の移動を開始した直後、シェリーの光速を超えた体当たりが艦を掠めた事により、この場からの跳躍による一時離脱を試みるのだが「何故か」することが出来なかった。


 ならばと直ぐに頭を切り替えシェリーから自身の身を守る為、残っていた第五世代艦を盾と牽制に使おうと指令を出したがこれまた「何故か」命令を拒絶され、さらに各々勝手にシェリーに対して攻撃し始めてしまう。


 一方のシェリーはロイズへの初弾以外が次々と避けられたことにより苛々が募り始めていたところに40艦の体当たり攻撃が始まると、ここに至るまでの間に溜まりに溜まっていたストレスが一気に限界へと達した様で、ロイズとの一騎打ちの邪魔をする奴らを排除したいと無意識下で思ったところ「最後のポチッとな」で質量兵器を操るソフトに若干改変を行ったお陰で、シェリーの要望に応える形で、全ての質量兵器が細く針の様に形状を伸ばすと近付く探索艦に刺さり、そのまま反重力装置を探し当て直接破壊、一切の動きを止めさせた。


 結果的にシェリーは第五世代艦とは戦いを楽しむ事なく一瞬で決着を付けてしまった訳だが、既にその事は頭の中からスッカリ忘れ去られていた。


 その一瞬の出来事を見ていたロイズは言葉を失い、さらに激しい回避運動に移ったため、余計にシェリーの攻撃が当たらなくなってしまう。



「くそ!……当たらん!」   

「ふっ……こんなもの、当たらなければどうと言うことはない!援護しろ……って味方がどこにもいないのねーーーー!」

「仕方ない……殺ヤるしかありません!」

「シェリー! それではローナとの約束が!」

「しかし!」

「頭を冷やせ! 先ずは質量兵器で逃げ場を塞ぐんだ!」

「分かりました! それではイメージを送ります!」

「よし! ……それでいい! いくぞ!」

「はいコーチ‼︎」


「あ、なんかヤバそう……ならこっちから……」


「なっ」

「不味い!」


 今度は囲む前にロイズが体当たりをしてきたのを寸での所で躱す。


「ふはははは!良いぞ……最高だ‼︎ これこそ我が求めていた戦いだ‼︎」


「し、シェリー、冷静になるんだーー!」


「あ、あれーーかなーーーー?」




 本日一番の「身の危険」を感じたロイズ。

 そのまま迷わず光速で逃げ始めた。

 そのロイズを不気味な笑みで追い掛けるシェリー。


 ロイズの逃走は光速以上の速度である為、観測しながらの追尾は容易では無い筈なのだが、いつの間にかシェリーには追い掛けることが出来るようになっていた。


 そしてロイズの背後数mの位置に白色ドリル型へと形状変化をさせピッタリと張り付き追い回す。


 対するロイズも光速度以上で逃げている以上、追い掛けてくるシェリー艦の姿を捕捉する事は出来ない筈なのだが、先程からヒシヒシと感じている「身の危険」が収まるどころか増大していく為、直感に従いひたすら逃げ回っていた。



 二人共、どうやらこの戦いによって新たな能力スキルに目覚めてしまったようだ。



 因みに「ポチっとな」によってロイズ艦には研究所から離れられないように「縛り」が仕掛けられており、ある距離に達すると搭乗者の意志に反して艦が反転、研究所へと舞い戻って来てしまう「仕様」に変えられてあったのだ。




「なななな、なんでやねんーーーー」








「あれじゃ何時までたってもケリが付かないじゃない♩」


 行ったり来たりを繰り返すシェリー達の戦いを眺めていたローナがため息交じりに呟く。


「……一つだけ、ロイズの動きを止める方法がある、ぞ?」

「ハッキングしないで?」

「……そう。シェリーのご機嫌を損ねずに済む、ぞ」

「へーー」

「……ただ、そん時はこの艦の姿を奴に晒す事になるんで、な。ここからちーとばかし移動しとかんと、な」

「ミアの事が?」

「……いやではない、ね」

「よし、その案採用♪ シェリーには派手な役回りをお願いしたけど、余り目立ちすぎるのも良くないし、早めに撤収させたいからサッサとやって頂戴な♪」

「……んじゃちょっくら行って来まーす、かな?」


 ミア艦が隠蔽迷彩状態のまま研究所からホワホワ〜と離れて行く。

 そしてある程度離れた区域に到着すると全ての隠蔽を一瞬だけ「解除」した。


 何も無い空間に突然、そして一瞬だけ現れる白色卵型の探索艦。

 その瞬間ロイズ艦の動き、いやロイズが「フリーズ」してしまう。



「う、うぇぇぇぇ?あ、あれはアルテ……うがっ!」



「本能」と「欲望」が素直に「反応」したことにより艦の操作が疎かとなってしまいシェリーの会心の一撃が直撃、安全機能が作動してしまった為、機能停止させられてしまった。



「な……なんで……ここに……エマの姉さんが……(ガク)」



 ロイズは気を失い、自動的に強制冬眠状態にされてしまったようだ。


 この状態に陥ると、各基地か探索部本部の設備で修復しないと復帰は難しい。


「……はい、お終い〜〜、だぜ」


 再び隠蔽迷彩モードに戻りローナ艦の下へとノンビリと移動した。


「なるほど……ロイズの習性を利用したのね♫」

「……元々は菜緒ラーが別の目的で企んだ悪巧みだったんだが、な。丁度いいので利用させて貰ったの、だ!」


 今度は餡子たっぷりの「ヤツハシ」と冷えた「抹茶」を用意して澄まし顔で食べ始めた。


「それじゃ早速シェリーには全部回収して撤収してもらいましょうかね〜♪」








「あらら、あんな単純な手に引っ掛かって」

「どうなさいますか?」

「うーーん。彼はいままで頑張ってくれてたし、一応役目はここまでだからそろそろ開放してあげないと」

「この後の計画は伝えてあるので?」

「ううん」

「良いのですね?」

「うん。どう転ぶかは……お楽しみ!」

「ここまでくると、椿様の願いが叶う時がだいぶ近付いてきましたね」



「そうだと……いいな……」



「願い」と言う言葉を聞いて、俯き加減で戸惑った笑顔をする椿。

 それを見て中年の女性は椿に向き直り、椿の両肩に手を置いて話しを続けた。


「ここまで何年も何十年も頑張って来たのです。諦めなければ願いは必ず叶います。それは椿様と桜様お二人が身をもって証明されたではありませんか」


 和やかな笑顔で語りかける女性。


「ありがと。大丈夫よ。私は絶対に諦めないから。うん!」

「それでこそ椿様です! 職員一同、皆応援しております!」

「うん、頑張る! それじゃ後の事は予定通りに」

「はい、了解しました」


「さて、そろそろ彼女の出番ね」


「彼女?エリス……様ですか?」


「そう。ここからは彼女に頑張って貰わないと、ね!」


「それはそれで一抹の不安が……」






 ・・・・・・






「師匠!これ何やと思う?」


 直径50cm程の黒色で凹んだ金属製? の板を手に取りマジマジと見つめるマリ。


 周りにはそれこそ何に使うの? と思える物が試作台の上に所狭しと並べてあった。


「これか? 料理に使う鍋とちゃうん?」

「ホンマか? 何でこんなところで鍋の研究しとるん?」

「そりゃ…ほれあれや、究極の料理カレーを拵こしらえるんには素材にボーキサイト使わんと、大火力の火炎放射器バーナーの威力に耐えられんやろ?」

「ボーキサイト! なるほど……因みに師匠は辛口派か?」


 板を元にあった場所へとそーと戻す。


「カレーの事か? 年寄りに辛いモン食わせたら血圧上がってまうやろ? そやからワシは甘口派!」

「甘口派か……師匠ならカレーのトッピングに「タコヤーキ」まで入れそうで怖いわ……」

「……何で知っとんの?」

「げ! マジ?」

「あれ美味いんよ? 知らんのけ?」

「いやウチは別々の方が……」

「酒飲んだ後のシメの一品! 最高やろ?」

「それならうどんの方が……」

「マリは古臭いの~。しゃーない、食欲を唆るウマイ食い方教えたる! まずカレーの上にタコヤーキをのっけたらオイスターソースをな、ドバドバと……」

「師匠の話し聞いてたら腹減ってきよったわ」

「早速ノッてきよったな? よし、ここも面白くないおもんないし食いもん探しに行こか?」

「そや、早う行こ!」





 ・・・・・・





「おはようございますね」

「ふぁぁぁぁ! よう寝た!」


 アクビをしながら大きく背伸びを一つ。


「朝食にしますかね? それともご入浴にしますかね?」

「朝食……ってステラや、ここどこ? いつの間に部屋移動したん?」


 キョロキョロと辺りを見回す。


「ここは……」

「おはようデスネ! マキ!」


 ステラと反対側から元気の良い声を掛けられたので振り向くと、黄色というよりは黄金色に近い髪と同じ色をした宇宙服を着たエリスが隣でにこやかに座ってマキの顔を覗き込んでいた。


「うぉ! エリスやないか!」

「ハーイ、エリスちゃんネ! マキは元気だったカナ?」

「おう! エリスもいつもと変わらず爽やか笑顔で元気そうやな!」

「お褒め下さり光栄デース!」

「なんやいつにもまして言葉が可笑しくないか? どっかで嬉しい事でもあったんか?」

「それはマキに会えたからからカナ?」

「お? 嬉しい事、言ってくれるの〜。で、エリスはいつAエリアここに来たん?」

WHATファット?」

「?」


 首を傾げるエリス。


「マキ様」

「?」


 脇からステラが会話に割り込んできた。


「ここはAエリア基地ではありませんね」

「……?」


「何寝ぼけてンノ? ここは椿のお城デスネ!」

「椿? 城?」


「マキ様だけご就寝中に椿様によって連れて来られましたね」

「連れて来られた? 誰に?」

「椿様ね」


「いつ?」

「寝てる間にね」


「どこに?」

「マキは相変わらず人の話し聞かないノネ」


「他の奴らは?」

「Aエリア基地ですね。ここにいるのはマキ様だけですね」

「よう分からん……でここが椿の城っちゅうのは分かった。でウチだけ何でか知らんけど連れて来られたっちゅうのも分かった。で?」


 エリスをマジマジと眺めるマキ。


「デ~?」


 目をパチクリさせ首を傾げながらマキの真似をするエリス。


「何で椿の城にエリスがおるん?」


 やっとマキが言いたい事が分かったと手をパンと叩く。


「……アノね、実はネ」

「実は?」

「トイレを借りニ!」

「艦のトイレ、壊れめげたんか?」

「そうデース!」

「なあエリスや」

「ハ-イ?」


「何でアリスを軟禁しとったん?」


 真面目な顔で聞くマキ。


「……実は」


 マキの問いに一度右上に目線を向けてから答えた。


「実は?」

「喧嘩したノネ」

「喧嘩? アリス姉ちゃんとか?」

「イエース」

「理由は?」

「恥ずかしくて言えナイ」

「……まあ姉妹つっても色々あるしな。でもな、喧嘩はあかんよ」

「でもデモ!」

「デモもストもなし! お前らの喧嘩で周りがどんだけ迷惑被っとるか分かるか?」

「ヴヴヴ、ゴメンなさい」

「ちゃんと仲直り出来るか?」

「一人じゃ……ムリ」

「そやな〜あいつ頭、固そで頑固そやし。しゃーない、ならウチが一緒に行って謝ったる」

「ホントー?」

「おう! 思い立ったら吉日ってな、早速頭下げに行くか!」

「マキ様、食事はいかがしますかね」

「勿論食べてからや! エリスも一緒にどうや?」

「オウ⁉︎ 早食い勝負か? 受けてタツネ!」


「それとマキ様」

「なんや?」

「残念ながらマキ様の艦はここにはいませんね」

「……へ? ハナちゃんおらへんの?」

「はい。おらへんのね」

「そりゃ困ったわ!」


「こほん」


「どないしたエリス? 風邪か?」

「なら私の艦に乗ればいいノデース!」

「お? そうか、ええのか?」

「オー遠慮するマキ、初めてみたカモ! まるでマリみたいダネ」

「そうやエリス! マリ知らんか?」

「知りませんネ〜と言うかアリス以外の仲間と会うのとっても久しぶりナノネ」

「そうか、久しぶりで知らんのか」


 少し残念そうなマキ。


「それではレストランにどうぞなね」

「ワーイ! 久しぶりの仲間との食事ネー!」

「よっしゃー! 行くどーー!」






 マリ達はいい香りが漂う区域へと転送装置で「一発」でやって来れた。


「はへ〜ごっつええ匂いしとるな〜」

「ここなら選り取り見取り! 好きなモン食えそうや!」

「でもみんな店が閉まっとる」

「ここは景気悪いんかのー、人っ子一人歩いとらんわ、ってあそこの店、開いとるで!」

「ホンマや! 行ってみよ!」


 店の入口に駆けていくマリ達。


「イヤ〜食った食った!」

「マキは食べ過ぎダヨネー!」

「お土産まで貰いましたね」

「ウチだけやないやろ? ステラも結構食べとったやないか」

「私は人よりも燃費が悪いんですね」

「と言うことは出す方もか?」

「オー、マキは相変わらずでりかしーが無い女の子ダナヤ」


 とクチャべりながら三人娘が、丁度店から出て来た。



「「?」」


「「「?」」」


「「「「「!」」」」」


 全員の動きが止まった……

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