ごめんなさいなの…… 六人目!
「そして菜緒と菜奈も初めまして」
クレアに見せた笑みとは格段に落ちるが一応笑みを二人に見せた。
「最後にエマ。あなたとは……何度も会ってるよね」エマにだけは真顔だ
「さて挨拶はこれくらいにして……と、余りにも遅いからちょっと寄り道のつもりで見に来たんだけど」
と言いながら後ろを振り向きレイアに向き直る。
「あなた、何でこんな状態になってるの?」
寝ているレイアに問い掛けるが、当然の事だが返事はない。
「ん〜〜」
困ったと言う表情で溜息を吐いてからアリスをチラ見する。
アリスは目線が合うと若干頬を膨らませ不満そうな表情になりながらも少女に向け反論をはじめた。
「私だって頑張ってるんですぅーー!色々と!」
「また〜?一体ナニを頑張ってるんだか」
楽しそうに話す二人。
「それで、この子の身体で何が起きてるの?」もう一度聴き直す
「クレアさんの身体に起きた事と同じ事ね」
「へ〜〜。でも……目覚めてはいないよ?」
「残念ながら」
「条件は揃えてあげたんだけどね。それでも無理だったか……本当に残念だよ。でも……」
と言ってから今度はクレアに向き直る。
「クレア。あなたは合格だね」
と、戸惑うクレアの頭をポンポンと優しくなでる。
突然頭を撫でられてされるがまま受けていたが、少しも嫌な感じは湧いてこなかった。
むしろその行為自体に親近感すら覚えたのだ。
そう、まるで姉が妹の成功を心の底から褒めているかの如く。
「連れて行くの?」
「うーーん……どうしようかな?」
クレアを思案顔で見ていたが、不意にエマにちらっと視線を向けた後レイアを見て、
「今回は止めとくわ。私は見に来ただけだから。後はこの子に任せる。どう転ぶかは……ふふ。果報は寝て待てってね」
と嬉しそうに言いながら微笑んだ。
「いいの?」
「少し前から鬱陶しい人に追い掛けられててね。余りノンビリともしてられないし」
「鬱陶しい?」
「そうなのよ!この姿の時は良いんだけど、それだと逆に艦には乗れないし〜。こんな嫌がらせするのはあの女しかいないよね」
「……あの女? 誰の事?」
「あっ! ごめん忘れてた! あなたとの約束!」
「どの約束?」
「ここの事。私がここを出たらお終い!」
「……はいはい、分かりましたよー」
「何? その引っ掛かる言い方ーー!ぶーー」
「「…………」」
「「フフフ……あはははは」」
大笑いを始める二人。
「楽しそうね? 貴方がそこまで嬉しそうに笑うの初めて見たかも」
「そう言うあなたこそ!」
「多分貴方と同じかもね」
「そう? ならそっちも?」
「勿論!」
勢いよく立ち上がり無い胸を張るアリス。
「良かったね!」
「そうね。お互いもう少しだからね」
「うん! でも……」
ここで少女はやっと顔をエマに向けた。
「まだ……足りないかな?」
と言いながらエマの正面に音も無く歩いて行き、下方から覗き込む形で顔をじろじろ見始めた。
それに対し無防備に立ち尽くす。
何故だかエマは身動きというか口すら開けず、ただ眺めていることしか出来なかったのだ。
「……う~~ん。このまま引き上げるつもりだったけど……やっぱり保険は必要、よね?」
暫く色々な角度からジロジロと見ていたが、体位そのまま不意に首だけをアリスに向けイタズラっ子の様な、意味深げな笑みを浮かべながら言った。
「……どうするの?」
「ちょっとそこの子、借りてってもいい?」
と扉の脇に立っているステラの方を見て言った。
「……危害は加えないって約束するなら」
「当たり前じゃん?」
「絶対に何もしちゃだめよ? 約束だからね?」
「もう! 疑り深いんだから!」
「分かった。ステラ、くれぐれもよろしくね」
「かしこまりましたね。主様」
「らっきぃ~~」
「全く……現金なんだから……」
とやっとエマに微笑みを見せ軽く手を振りながら扉へと向かいステラの手を引いて颯爽と扉から出て行ってしまった。
一連のやり取りをただ茫然と眺めていた一行。
ただ威圧感や恐怖感などは全く感じられず、全く予想だにしていなかった事態で、しかもごく自然なやり取りであった為、唯々眺めている事しか出来ずにいたのだ。
「い、今のは……どっち?」
「はい? どっちとは?」
「アリス……じゃないよね?」
顔、髪、背格好、全てが昨日指令室で見たアリス椿と瓜二つ。なのだがあの時のアリスとは違いがあり、話し方と雰囲気、そして極めつけはあの屈託のない子供特有の笑顔。
アリスの笑顔はどこか大人臭さというか「計算された笑顔」と思える部分があるのだが、先ほどの少女のそれは感情を率直に表している様に見えた。
ただアリスならばその程度の演技など造作も無く出来る気がするのだが、ここでしかもこのタイミングであのような行為をする意味が全く無い様に思えた。
しかもアリス本人と今の少女とのやり取りに不自然さや違和感は全く感じられなかった。
となると第三者でこの状況を理解しいる、さらにアリスと対等に話せる又はやり取り出来る者といえば、皆からしてみれば「彼女」しか思い当たらなかったのだ。
「彼女は椿さん本人ですよ?」
質問の意味が分からないといった感じの顔と返事。だが予想通りのビッグネームが飛び出す。
「「チッ!」」
再度呆気にとられるエマ。
だがその返事を聞いた直後、菜奈とソニアが同時に応接室への扉へ走り始めた。
「え? ど、どうした……」
声を掛けるが二人は既に部屋から出て行ってしまった、が次の瞬間ソニアから声が上がった。
「マキさんがいないなの‼」
「「「え⁈」」」
エマ、菜緒、ランの三人が隣部屋へと急いで向かうとそこには辺りを見回すソニアしか居らず、ソファーで寝ていたはずのマキの姿は見当たらなかった。
「え? え?」戸惑うエマ
「菜奈は⁈」叫ぶ菜緒
「多分追い掛けて行ったなの!」
菜緒はソニアの返答を聞きながら通路に出て左右を見渡すが姿は見当たらなかった。
「どっちに行った⁈」
「左! 私も行くなの!」
付いて行こうと走り出すソニア。
「ソニアさんはそこでエマの護衛‼決して一人にはしないこと! それと私が戻るまで部屋から決して出ない事‼ スタン弾のみ使用も許可します‼」
「は、はい⁈ なの⁇」
急停止し反射的に敬礼をしながら叫ぶソニア。
「エマ! みんなを頼んだ!」
「ちょっと待っ……」
「菜奈‼」
エマの返事を待たずに通路を反重力シューズの力で飛び去って行く。
「だ、出すな? なの? 入れるなじゃなくてなの⁇ しかも発砲許可⁇」
菜緒の命令に戸惑うソニア。
勢いでエマとソニアとランが通路へと出た頃には既に菜緒の姿は消えていた。
取り敢えず室内へと引き返す三人。エマは戻りながらどうするかを考えた。
どうしたらいいの……状況からしてマキは椿に連れていかれたのは間違いない。
それを菜奈が追い掛けて行った。
その菜奈を今度は菜緒が探しに行った。
でも椿が転送装置を使っていたら行先なんて分かる筈もない。
いや菜奈ならステラの位置なら分かるかもしれない。
でも菜緒は? 菜緒には手立てがない。
それこそカンとなるだろう。
私達も追いかけて行ったとしても菜緒と同じ状況だ。この広い基地を四人で探したとしても高が知れている。
せめて基地AIか艦AIが使えたら……って一人行先知ってそうな奴がいるじゃない!
「アリーーーース‼」
速攻寝室へと戻ってアリスに詰め寄る。
「は~~い」笑顔で迎えるアリス
「マキはどこ?」
「さ、さあ~~どこでしょう?」
微妙に目を合わせようとしない。
「約束って何?」
両手で顔を挟み無理やりこちらを向かせる。
「さ、さあ? なんの事だか」
それでも目を合わせようとはしない。
「椿はどこ行ったの?」
「帰ったのでは?」突然素直になった
「という事はドッグか……」
エマはアリスを開放し隣の応接部屋の転送装置へと歩き始めた。それを見てソニアがギョッとした顔をする。
「ちょっと行ってくる」
歩きながら腰のお守りアイテムを手に取り原型に戻してから感触を確かめた後、再度腰へと戻した。
「ダメーーーー‼」
ソニアに回り込まれ体を張って止められた。
それを見てオロオロし出すラン。
「アリス! あいつはステラを使ってマキを攫っていったんだよね?」
振り向かずににアリスに問いかける。
「さ、さあ? どうでしょう?」
アリスはまた顔を背け恍け始めた。
そんなアリスを今度は横目で見ながら問い詰める。
「ここを出たらお終いってどーゆー意味?」
「その通りですよ。もう直ぐ終了です」
「何が終了?」
「今はこれ以上は言えませんが待っていれば直ぐに分かります」ニコッっと微笑むアリス
「どれくらい?」
「椿さんが帰るまで」
「それじゃマキが連れてかれちゃうでしょうに!」
「マキさんなら大丈夫ですよ」
「だからなんで?」
「エマさん」
「?」
「気持ちは分かりますが今はジッとしているのが得策かと」
「どうして?」
「椿さんの気が変わる可能性があるので」
「どうゆーこと?」
「先程の私達の会話を思い出して下さい」
「…………」
「彼女は「見に来ただけ」と言ってましたよね?」
「うん」
「今はまだ貴方のことはレイアさんの判断にまかせていると言うことなんですよ」
「…………」
「私が言っている意味、分かりますよね?マキさんを追い掛けるなんて危険を冒さずここに残れば、少なくとも椿さんによって貴方が連れて行かれる可能性は無くなります」
「でもマキが連れてかれちゃうでしょ!」
「ではエマさんが追い掛けて行ったとして事態が好転しますか?相手はあの椿さんなんですよ?」
「……それでも行く!」
「どうしてそこまで?」
「仲間だからに決まってるでしょ!」
「……仲間……ですか」
「マキとはね、今ここにいるメンバーの中で一番付き合いが長いの。今までいっぱい楽しい事や辛いことも一緒に経験してきた。今回だって初めからずっと私の事、支えてくれてたし迷惑掛けっぱなしなのに文句一つ言わずに付いてきてくれた。そんなマキが連れていかれるのをただ指を加えて見てろなんて私には出来るわけないでしょ!」
「…………」
言葉が出なくなるアリス。
エマはそのままクレアに視線を向けて言い放った。
「クレアごめん。マキを追い掛ける」
「私も行く」
「ダメ。レイアの傍にいてあげて」
「で、でも」
「クレア、レイアの事はあなたに任せた」
「え?」
「上手く説得して」
「え~~」驚くクレア
「納得いくまで話し合って」
「う、うん……」
「アリス、二人を頼んだぞ」
「今は見守る事しか出来ませんよ?」
「それでいい。とにかくクレアを一人にはしないで。お願い」
「……それに関しては承りました」
「じゃあ行ってくる」
「うん。気をつけてね。無事連れて帰ってね」
「ダメ! エマ姉様! 菜緒さんは誰もここから出すなって言ったなの!」
エマの後方からソニアが声を張り上げた。
「……ソニア」
ソニアを見ながら複雑そうな表情で名を呟くラン。
「行っちゃダメなの! アリスさんの言う通りなの!」
回り込み両手を広げてエマの行く手を塞ぐソニア。
「ソニア」
「なんなの? ラン」
エマから目を離さずに返答する。
「貴方、お姉様とマキさんのどちらが大切?」
「そんなの決まってるなの! どっちも大切なの!」
「ならどうしてお姉様が行こうとするのを止めるの?」
「みんなは一つの仲間パーティーなの! それぞれバラバラに行動しちゃダメなの! みんな好き勝手行動してたら歯車が噛み合わなくなって手遅れな事態になっちゃうなの!」
「その時はその時に後悔すればいい。今はマキを連れ戻しに行かなかった事で後悔はしたくない」
「どうしてソニアのいう事……聞いてくれないなの……」
「……これが連れてかれたのがマキじゃなくてソニアだったとしても私は同じ行動をするよ」
「ううう、エマ姉様……そんな言い方してもダメなの……」
「だから……ソニアも一緒に行こう。マキを連れ戻しに!」
「!」
「ソニアは私を守って」
「どうしても行くなの?」
無言で頷くエマ。
「分かったなの。責任はソニアが取るなの」
自らの銃ガンを腰から取り原型へと戻すと銃口を自らの頭に突き付けた。
「「!」」
「皆さん……ごめんなさい……なの」
目を瞑り引き金を引いた……
カチ……
静まり返る室内。
「ダメですよ。そんな事しちゃ」
優しく言葉を掛けるアリス。
「その銃ガンはセーフティーモードを解除しないと自分に向けても弾はでないでしょ?」
床へとへたり込むソニア。
「「「ソニア!」」」
エマとランとクレアが急いで駆け寄る。
「あ、もしかしてそれも折り込み済みの行動? だとしたら貴方かなりの演技力ね」
「ソニア……」
「さてエマさん。彼女の決意を見て、それでもまだマキさんを追い掛けるつもりですか?」
「で、でもマキが」
「分かりました」
「?」
「私が解放された暁には約束を破らない範囲で皆さんに協力します」
「え?」
「だから今はソニアさんの決意を尊重して大人しくしていて下さい」
「協力?」
「はい。絶対に内緒ですよ?約束出来ますか?」
戸惑いながらも頷く。
「はい。では契約成立です」
・・・・・・
「間に……合わない」
菜奈が転送装置から出て見えたのは、ちょうど三人が探索艦に乗り込む瞬間であった。
それでも諦めず最大加速にて飛んで行くが既の所で穴通路が閉じられてしまう。
(お願い……開けて)
念じるが全く反応が無い。
(ダメ……)
悔しそうに艦の外装を叩く、が手に衝撃が全く伝わってこなかった。
もう一度叩く。
すると外装を構成している流体物質が菜奈の手に衝撃を与えない様、吸収緩和作用を働かせていた。
(この子は……レベッカ?)
その思いを肯定するかの如くもう一度だけ外装が波打つ。
そして外装の一部が菜奈に対し僅かに延びてきて体を優しく押した。
反動で後方へと下がっていく。
それを抵抗もせずただ眺めて受け入れた。
数秒経つと空気に振動が伝わり反重力炉が動き始めた事を伝えてくれた。
そして真っ白な球体が卵型へと形状変化し流体ハッチへと潜り込んで行った。
・・・・・・
「先生! 艦ガ出現シマシタデス」
「……どこ、じゃ?」
「アソコデス」
球体モニターに隠蔽迷彩を施した状態の卵型の漆黒色の艦が映し出されていた。
「……誰、じゃ?」
「今確認ヲ……ッテ、リンサンデス‼︎」
「…………はへ⁈ リンがなんでここに⁈」
「先生! 今度ハ基地内デヘンナ振動ヲ感知シマシタデス!」
「……振動、とな?」
「チョウド基地ノ反対側デス!」
「……もしや姉あねちゃんの艦、か?」
「所属不明……デハナク、ゲキヤバ艦デス‼︎」
「……ウキャ! いつの間に〜〜ってそんな場合やない! アシ1号、「スペシャルデラックスモード」解放で突撃やーーーー!」
「……パスワード認証・承認されました。モード解放確認。突撃を開始します」
「行けーーーー!逃すなーーーー!なんとしても仕込むのじゃーーーー!」
「了解!」
・・・・・・
「菜奈‼︎」
三ヶ所目の待機室にて呆けていた菜奈をやっと発見した。
「マキさんは⁈」
「連れて……かれた」
「間に合わなかったか……」
「悔しい……あと一歩だった……のに」
「取り敢えずみんなと合流しましょ」
「……うん」
・・・・・・
「申シ訳アリマセンデシタデス」
「……いや、お主のせいではない、ぞ。奴が一枚上手だったと言う事、だ」
「シカシ何故ココニ?」
「……分かりません、ね〜」
「お? そこにいるのは……ノアノアか?」
「……その声はリン、だな」
「……ホントにノアノア〜?」
「……うう疑うのは良くない、ぞ〜?」
「それもそうなのだ〜ゴメンなさ〜い」
「……して、また逃げられた、な?」
「そうなのだ! またまた逃げられてしまったのだ!」
「……それは残念、だね」
「でも、なしてノアノアが鬼ごっこしてること、知ってるの〜?」
「そ、それは……秘密だ、ぞ〜」
「かくしごとはよくない、ぞ〜?」
「……うっ」
「ん? くんくん……この匂いは……エマエマ?」
「……(ま、まずい!)」
「それと……ランラン? ランラン……ランランだーーーー!」
と叫びながら一番近いハッチへと突撃して行った。
「……あちゃ〜」
頭を抱え込むミアノア。
「見ツカッチャイマシタデスネ」
「……これは仕方ない、ね」
「先生、話ハ変ワリマスガ」
「……何ぞ、や?」
「先程カラ全テノ規制ガ解除サレテイマスデス」
「……そう、か。攻略前に解除されちまった、か〜」
「先生ハ余裕カマシスギデス」
「……だってーー久しぶりに骨のある奴と遊べるかと思った、らー、ウキウキしちゃったんだもん、ねー」
「ソンナオ子チャマミタイナ言イ訳シテモダメデス」
「……ゴメンな、ちゃい」
「ソレデハサクサクト解析ヲ進メマスデス」
「……おう、頼むぜ、よ」
・・・・・・
応接室にてエマ、アリス、ラン、ソニアが菜緒達の帰りをソファーに座って待っていた。
ソニアはエマにもたれ掛かり、そのソニアにエマは手を回して頭を優しく撫でていた。
その光景を眺めて座っているアリスとランだが、ふとアリスが目線をエマから離して呟いた。
「やっと行ったか……」
「行ったって?」
「椿さんが出発したんです」
「……それじゃマキは」
「はい。椿さんの艦に」
「…………」
「大丈夫ですよ。直ぐに会えますって」
「……ホント?」
「はい。ただ……」
「ただ? 何?」
「今だから言いますけど、マキさんにも僅かですが「覚醒」の兆しが見受けられましたね」
「え?」
「それに気付いてマキさんを連れて行った、と言う訳では無さそうなので、今はまだ心配しなくてもいいかも」
「それって間違いないの? 椿にバレてない?」
「多分大丈夫でしょう。彼女達は劣悪な環境の中、殆ど手探りの状態で「己の思い」だけで見事「贄」にまで這い上がった努力型。で、その椿さんは現段階でマキさんの状態変化を見抜くことは不可能だったみたいですね。それに比べ私達は英才教育を施され能力を磨いて挑んだ万能型。あれくらいの兆しは直ぐに見分けがつきます。これは秘密なのですが二者の間には実はかなりの差、というか開きがあるんですよ。その証拠にマキさんの艦を残していきましたから」
「ハナちゃんを?」
「ハナ? あーそんな名でしたね。はいはい、そのハナちゃんをです」
「ハナちゃん……」
悲しそうな顔のエマ。
「椿さんの計画では艦は成長での必須条件になっているし、その艦を残していったと言う事はマキさんを「贄」として見ていないと言う証」
「な、ならミケちゃんは?」
「ミケ? ……えーーとエリーさんの艦でしたっけ?」
「そう」
「はい、エリーさんと行動を共にしていると思いますよ」
「なら隙を見て逃げ出すとか」
「椿さんかレベッカに制御されていて帰れないか、又は搭乗者であるエリーさんの意思で帰らないのか、どちらかは知りませんがそれが出来ないのでは」
「エリー姉の意思?」
「彼女も曲がりなりにも適正者。もしかしたら説得されたのかも知れませんよ?」
「…………」
「まあいずれエリーさんとも再会出来ますよ」
「そうだ! エリ姉の救出‼︎」
「?」
ここで菜緒達が戻ってきた。
沈んだ表情の二人。
エマと視線が合うと顔を背けてしまう。
「ごめん……間に合わなかった」
すまなそうに言う菜奈。
「ううん、私も何も出来なかったから……」
返事をすると菜奈はエマの背後へと回り込みソファーの後ろからエマの首元へと抱き着く。
「ごめんなさい」
「うん……マキなら大丈夫だよ」
「で、みなさん。通信封鎖の解除と基地AIの自由な利用が出来る様になりました~!」
「「「え?」」」
「基地AIも艦との連絡も取り放題です~!」
「なんで?」
「ただし寄港している艦の出航だけはまだ出来ませんけど~」
「そうなの?」
「はい。本来なら「エマさんが私の説得に応じてくれる」か「レイアさんがエマさんを連れて出て行く」かのどちらかまでだったんですが、本人が約束の内容を変えてくれたので~」
「ということはアリスが使えない様にしていたの?」
「はい正解です♡」
「じゃあ主任達の居所は?」
「それは……彼女がそろそろ突き止めるころだと」
「彼女?」
「今回は私の勝ちでした♪」
嬉しそうに天井を指差すアリス。
つられて全員上を見上げる。
コンコンコン
突然、通路への扉を誰かがノックをする音が聞こえた。
皆、上を見上げたまま目だけを扉に向けて固まる。
今、この客室以外に人はいない筈。なのに誰かがノックをしている。
全員に緊張が走る。
「誰?」
コンコンコン
再度扉が叩かれた。
一番扉の近くで立っていた菜緒が腰の銃ガンを手に取り扉に向け構えた。
「どうぞ……」
アリスが返事をすると間髪入れず扉が開く。すると何者かの影が物凄い勢いで室内へと飛び込んできた。
その影は扉の前で待ち構えていた菜緒に向け突進してきたが寸での所で器用にすり抜けていく。
それに全く反応できない菜緒。
影はそのまま止まることなくラン目掛けて突進していく。
「え? い、嫌ぁーー!」
何かが自分に接近してきたのは分かったので反射的に腕で顔を覆うが、その者の勢いそのままソファーに倒れ込んでしまう。
「え? 何? 誰?」
腕と腕の合間からチラリと見える顔。
「ランラン~みーっけたーー!」
どこかで見たことがあるキラキラと輝いている目と聞いたことのある声。
「ああああ姉様----⁇」
「あいたかったのだーーーー!」
最上級の天使の笑顔。
「どうして姉様がここに⁉」
戸惑うランの顔にお構いなしに自らの顔を擦り付け愛情表現をするリン。
「り、リンーーーー⁉」
ピンク色の宇宙服が二つ、同じ顔、特徴的な話し方。
我に返ったエマが叫ぶ。
周りは呆気に取られて身動きできずにいた。あのアリスさえも……
「ん~~~~この匂い~~しあわせなのだ~~」
・・・・・
「先生! 少々不味イ事態ノヨウデス」
「……何か判明した、の?」
「Aエリアノ皆様ノ行方ナノデスガ……コレヲ御覧下サイ」
ノアの前に空間モニターが現れて何やら情報が表示されていく。
「…………ヤバいじゃん!」
「早急二止メナイト」
「……菜緒ラーに通信、じゃ」
「了解デス」
突然、菜緒の前に空間モニターが現れ、ノアの顔が「どアップ」で映し出された。
「キャーーーー!」
「……失礼な女だ! フンフン!」
「え? あっゴメン。急に……」
「……そんな事より主任達の行先が分かったのじゃじゃじゃじゃ!」
「珍しく興奮してるけど何かあったの?」
「……フッ……じゃなーーい! 僕はほんのちょっとの間、ここから離れるから後は頼んだぞ!」
「何があった? どこへ行く?」
「ローちゃんの所へ一旦戻る」
「……了解。後は何とかする」
「頼んだぞーーーー!」
ここでモニターが消えた。
「主任達の行方って言ってませんでした?」
「ローちゃん……のところ?」
「今……僕って……?」
「もういいか……あれはノアではなくミア」
「「「「「はい?」」」」」
エマ、アリス、菜奈、ラン、更にリン迄もが首を傾げた。
「レベル5対策としてCエリア基地ウチに来る前に入れ替わったみたい」
「そ、そうなの? 全く分からんかった……」
「情報操作はあの子達にしてみればお手のモノだから普通は見分けがつかないでしょ。私は直ぐに気が付いたけど」
「そうなの?」
「そうなの! あの程度の偽装で私を騙そうだなんて十万年早いって言うか、全く烏滸がましい限りだわ。しかも理由は話そうとはしないし。で、ここへの突入前に問い詰めたら「悪巧みの最中だから黙ってて、ね~」って」
「は、はあ……」
「何かムカつくでしょ?でも「ローちゃんの許可は取ってるだで、よ~」とか言われたら協力するしかないよね? そうでしょ? そう思うよね?」
こちらも興奮してきたようだ。
「な、菜緒姉? 落ち着いて、ね?」
「…………という訳で彼女はミア。それと行き先は十中八九、救出作戦の現場ね」
「菜緒さん、素晴らしい! 正解です!」
「アリス……」
「ごめんなさい。椿さんとの約束で私からは話せないんですね」
「そっか~~アレがミアミアだったのか~。じゃぁ~あっちはノアノアだったんだな~」
ソファーに腰掛けているランにお姫様抱っこして貰っているリン。とても幸せそうに。
一方のランは呆れ顔。
普段からこの姉妹、とても仲が良いのだが、今日はいつにも増して姉と妹としての立場の逆転が大きかった。
「ところで姉様は何故ここに来たの?」
素朴な質問をぶつけた。
「…………」首を傾げた
「もしかして忘れちゃった?」
「ランランのかお見たらどこかにサヨナラしていったど〜」
「ローナ達と一緒だったんでしょ?」
「…………おおおお思いだした、かも!」
「?」
「ゼンマイ定食おいしかったーー!」
「「「はぁーー?」」」
「気にする、なーーーーー!」
「はいはい、美味しかったのは分かりました」
呆れ顔のランであった。
・・・・・・
ピコピコ信号を頼りに隠蔽迷彩状態にて近づいて行くローナ・ミア・マリの三艦。
調査艦は全てシェリーに擦り付けたとはいえ、研究所近辺には自立式全方位球体タイプで小型の警戒機が目視でも確認出来るほど多数配備されており、ひっきりなしに移動をしているのが見えた。
「次はあれね♩」
「どうすん?」
「……お任せ有れ~、と。ここは「ボツ郎戒かいで、いっとく〜?」
「「…………」」
「……いっとく〜?」
「早よいっとけ」
「……マリにはツッコミは無理、か……」
「ウチはボケ専門やから」
「いいから早く♩」
「……ボツ郎戒かい、出発進行〜」
「分離シマスデス」
今回もアシ1号から水滴が落ちる様に分離したが、旧バージョンと比べると直径が倍近く大きくなっていた。
さらに漆黒色の隠蔽迷彩状態。
分離後は寄り道せずに敵へと突撃していく。
するとまたまた敵がお約束要素によって自然と引き寄せられ近づいて行くのだが、ボツ郎戒は激突前にさっさと通過してしまう。
「あれ?破壊せんの?」
「……まだ存在をバラしたくないんで、な。少しの間だけ操らせて貰うだで、よ」
「?」
そうこう言っているうちに、ボツ郎戒は施設の周りを敵に触れる事なく縦横無尽に動き回り始めたのだが、数分もしない内さっさと引き上げミア艦に例の如く激突、帰還を果たす。
「……それでは「ポチッと」な」
またまた顔前の空間モニターに映っていた真っ赤なボタンを力強く押す? と……何も変化が起きなかった。
「……準備かんりょ〜、だぞ?」
「…………♩」
「どしたん? 何かしたんか?」
「……全ての警戒機に仕込みを、ね」
「仕込み?」
「……Dエリアの姉ちゃんの艦に仕込んであったモンを改良と大量複製して、それをすれ違いざまお返ししてあげたんだな〜、と」
「ほうほう。そんで?」
「……アイツらに発見されても通報は出来ないってこと、なの」
「よし。アイツらを抜けたらミアは合流予定地点で研究員の回収、その後は撤収♩」
「……らじゃー」
「頼んだわよ♪」
「……行ってきまーす」
アシ1号が手を離し離脱して行く。
「さあ、私達も行くかね♩」
「おう!」
エリー艦がいるドックのハッチはもう目の前まで迫っていた。
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