第77話 情報部! 中佐?
・・・・・・
人類は今から二百年程前、宇宙空間の一部が前触れもなく消えてしまう「天災」を一先ず抑え込むことに成功したが、それと引き換えに「一握りの者達」にこの世界の「命運」を握られてしまう。
「その者たち」は「事を成した」のちに「体制を整える」と、大半の権限を政府に「返還」し「表舞台」から姿を消した。
これらの「一連の行為」は中央政府に対してのみ行われた為、一般人はその行為がおこなれたこと自体、知らずに済んだ。
だが後に「その者達」から政府への「要望」により行なわれた
その「要望」によって行われた政策は、一部の者の心配をよそに人類社会にとって初となる「平和と自由」を齎した。「目的」を知らない人々には概ね好意的に受け入れられた。
だが「裏の事情」を知っている者達からすれば、人類の「生殺与奪の権利」を
この状態を覆した上で「天災」を終わらせたいと思う者達も少なからず存在していた。
その者達の大半は部の改変を終えたばかりの「情報部」の中にいた。
情報部は政府の一員であり政府の意向には逆らえない、特殊な機関でとても都合の悪い立場。「天災」の対応に関わっていたので「一連の行為」が始まった時は混乱を極めたが、部内で「一連の行為」の対象となったのは数人で済んだので比較的早急に沈静化した。
ただ「前と後」では政府内での立場が微妙な立ち位置に置かれてしまう。
「自由」を失った情報部。だが彼らは彼らなりの信念に基づき、人類の未来を憂いて「大きな流れ」に逆らうことを決め行動を起こした。
天の川銀河内にあるとても小さな球状星団。
ここは人類が反重力推進技術を手に入れた後、宇宙開拓初期段階で調査を行った際に発見した。
位置も天の川銀河の中心核に当たる大質量ブラックホールを挟み、母星がある太陽系とはちょうど反対側に位置していたこともあり、価値を見出せずに
その星団の中に巨大な施設がヒッソリと漂っていた。
この巨大な建造物は約百年前に十年の歳月を費やし情報部が苦心して作り上げた、政府も「あの方達」も知らない極秘の研究を行う情報部専用の施設であり宇宙船をも収納可能なドック機能も有している。
苦心と一言で済ませたが運用が軌道に乗るまでは苦労の連続だった。
一番の苦労は整合部を除き全ての機器に漏れなく搭載されている「例の」AI用基本システムの存在。
このシステムの特徴は今も当時と変わらず、お互いが通常通信が届く範囲に入るとあらゆる手段を用いて情報連結を「自動で」始めてしまうといった、やっかいな仕組み。
情報連結にて伝わった情報は、最終的には「
誰が抜き取るのかは知っている。だからこそ誰よりも「危険性」を充分過ぎる程、理解していた。
情報部研究施設建設にあたり、最大の懸念は「知られてしまう」とこ。
最初に取り掛かったのは自分達が所属する、情報部の「長」の説得。
この時期の政府特殊部門はまだ三つ。体制は今と変わらずそれぞれの部門に「長」は一人ずつ。
意を決して「長」に相談を持ち掛ける。すると大方の予想に反し意見具申をあっさりと受け入れてくれたのだ。
しかも中央政府にバレない裏技や関係機関への根回、出所不明の資金や入手困難な物資まで用意の仕方を伝授してくれた。
これで部内の
それは全世界で採用されている「AI用基本システム」で、得た情報が自動的に繋がっている機器に伝わってしまうというとても厄介でとんでもない特性への対処方法。
この「並列化」を行うプログラムはアンドロイドやロボットを始め、資材運搬に使う輸送船や建設に必要な機器類にも当たり前に搭載されており、AIがあることからこそ人類社会は成立していると言っても過言ではないので今更排除は出来ない。
大多数の人にとっては頼もしく、なくてはならないシステムなのだが、これらを「管理・統括」しているのは情報部であり、政府機関の中で一番「恩恵を受けている立場」でもある。
だが集まった情報を「取捨選択」できる立場にはない。情報部はあくまでも集まった情報を利用しているに過ぎない。
いや厳密にいえば「取捨選択」はしている。情報部の権限が及ぶ範囲内に関してだが。
今からやろうとしている行為は、誰から見ても文句なしの逸脱行為であり、何の対策を講じなければこのシステムを提案した者達に遅延なく
それは即ち「一連の行為」の再現になってしまうのだ。
ではどうすれば良いのか?
〈輸送に使う宇宙船を改造、または通信不能に改造すれば?〉
輸送船や運搬に使えそうな艦を独自に所有しているのは調査部と整合部のみ。情報部は情報伝達に使う艦艇は持っているが「輸送船」の所持は認められていない。
なら持っているところから借りるしかないが、調査部は共通システムを採用しているので除外すると残るは整合部と政府のみ。
だが整合部の立ち位置を考慮すると協力は望み薄。
ここで一旦問題を整理する。
問題なのは情報連結。
そこで役立ったのは「長」が調達してくれた出所不明な輸送船。
この輸送船は政府から借りる予定の輸送船と同一でAIも同一仕様。つまり現役の輸送船。
この貴重な一つしかない輸送船を有効活用する案はすぐに思いついた。
初めに行ったのは、AIを一切省いた資材運搬の中間施設にあたる集積場の建設。
ここまでは政府の目が届く範囲。なので名目上は廃棄物保管施設とした。
通常、集積場で必須の機器は圧縮倉庫を筆頭に維持管理に当たるアンドロイドも必要となるが、それらは当然AIが管理するので情報漏れの対象となりえる。
そのリスクをなくすため、手頃な小惑星を選別しその中を取り除き巨大な空間を確保した。そこを「集積場」とし、運んできた物資や機材を輸送艦の圧縮倉庫から取り出し「原型」へと戻した上で一時保管とした。
資材の類は人口が多く比較的好景気で情報部と関係性が深い「地方行政府」から恒星等に廃棄する予定の品を幅広くそして根気よく集めた。
運搬元の輸送艦が引き揚げた後「長」が用意した輸送艦が来ると、再圧縮を掛けた上で建設予定
現地の工場で加工、組み立てを行う。
この方法でかなり時間は掛かったが、運搬時の情報連結問題は解決に至った。
因みに建設現場に向かう全ての物資・機材や人員は集積場を通過する決まり。人以外は常に一方通行とし、建設現場で蓄積された情報の漏洩を防いだ。
また建設現場で不要になった機材や物資は手短な恒星に投棄し確実な証拠隠滅を図った。
集積場近辺の警戒対策だが、情報部の得意分野は情報戦。だが悲しいことに最新の観測機器には漏れなくAIが搭載されているので使えない。
なので宇宙空間に漂っていた集積場と同じ岩石を、集積場の周囲何百万kmに渡り輸送艦が通過する範囲以外の全方位に計画的に散りばめた。
万が一に備え「物理的障害兼センサーの役目」として。
それを二十四時間、光学で「人が」観測・監視するという、古代さながらのアナログな方法を取った。
(結果的には無駄に終わったが)
苦心の末、輸送システムが軌道に乗ると研究施設建設は一気に進んだ。
そこは世界から隔絶している領域。なのでAIは使い放題。物資・機器類さえ揃えば自動で作ってくれる。
さらに採掘機材や生成工場が完成し球状星団内での物資の調達・加工が始まると、あれよあれよと施設は完成。人員の移動が開始された。
研究者達の第一目標は「あの方達」の能力である「消失を治める力」について。
「椿」により破壊尽くされた研究データはどこにも存在しておらず、研究者達は一からの研究をも覚悟していた。
だがそちら
初めに「長」に相談した際、
暇になった輸送船を使い、指示された「とある場所」へと向かう。
そこは天の川銀河の外れにある、ありきたりな星系にあった。
その星系を構成している一つ。生物が存在していない赤茶げた大地の惑星に目的の「場所」が。
そこは入り組んだ渓谷の谷間にあり、輸送船がやっと通れる広さしかない、いつ崩れるか分からない空間を抜けた先にあり人工物らしき建物が一つ、残されていた。
センサーにて建物を含めた周囲を確認したところ、広大な空間が地下に認められた。
下船して廃墟に成り果てた建物の内部に入る。
そこにあったのは服を着た状態の遺骨が一人分と「手書きの遺書」が一枚。
その遺言に従い地下空間へと足を踏み入れるとそこには膨大な数の「紙」が収められていた。
この紙が「長」が指示したモノ。
この
ただここでも苦労が。
紙媒体であったがために持ち出すにはかなりの労力と時間を要した。
と言うのも持ち出しを楽にしようと現場で「圧縮装置」を使った場合、書かれてある内容がデータ化されてしまう。
なので
入手した膨大な量のデータを基に一から研究を開始。ある程度研究成果が揃った今から三十年程前、満を持して行動を開始した。
まず、自前で育成した優秀な科学者や研究者を謎の塊であった、レベッカが創設した研究所に
研究所に関しては、優秀な者は出生さえしっかりしていれば苦なく
なにせ出生情報関連は情報部の管轄。その手の操作はお手の物。
それと最近出来たばかりの探索部。
探索部は「表向きの目的」以外は内部の情報も含めて殆ど把握できておらず、情報も少なく謎多き部署。
活動領域は限定されており接触はほぼ不可能。
唯一分かっていたのは「条件」のみ。候補生の発見は情報部の役割だったので、探索者になれる可能性がある者の「条件」だけしか知らなかった。
探索艦の性能や
明らかに「贄」と関係がある「探索部の価値」が「あの方達」にとってどの位置にあるのかが読めず、慎重にならざるを得なかったのだ。
なので時間は掛かるだろうが、
その状態が十年近く続く。
潜入員は未だ帰還せず。候補生も候補生止まりで情報は得られず。
そんなある日、研究所に潜入していた「女性科学者」が見るも無惨な姿で帰還を果たした。
その者は当初は自分の名すら言えない程に錯乱し憔悴しきった状態であった。
後にその者から提供された脳の記憶
そして更に十年の月日が過ぎ去る頃、転機が訪れる。満を持して送り込まれた一組の「情報部出身の候補生」が正規探索者入りを果たしたのだ。
その諜報員が部内上位者と「パイプ」を築けた時点で、これ以上の探索部への浸透行為は「危険」と判断。以後の探索部への浸透作戦は中止とし、その姉妹以外の窓口は全て引き上げさせた。
その後、諜報員の「転機と策略」により「情報連結」への対応策が取られ、更には「探索部」の機密情報をも入手する。
結果、研究施設では
この頃、とは言ってもごく最近の話ではあるが、情報部は探索部支援へと「明確」に傾きはじめる。
それまでは「あの方=椿」の報復を恐れ
裏で探索部へのアプローチを強め今日に至る。
ここは情報部研究施設にある居住エリア。
そのエリアの上級将校専用室が並んでいるとある一室。
室内は来客の対応にも使える二十畳くらいの広さのリビング。隣も同程度の広さがある寝室。
その隣にはこれまたかなりの広さがある浴室&トイレ。
部屋の主の性格なのか家具や調度品は一般に流通しているような、決して派手ではないどこにでもあるような物ばかり。
リビング中央部に置かれた応接セット。
そのソファーに深く腰掛け何かを飲みながら空間モニターを優雅に眺めている女性がいた。
タイトなスカートから伸びたすらっとした
「中佐~お仲間が戻られましたよ~」
突然部屋に響く、緊張感が感じられない女性の声。
「
「了解で~す」
違和感なく品のある声で返答する赤髪の女性。
「さてと……貴方もそろそろ決心ついた?」
独り言のように呟く。空間モニターで見えないが、テーブルを挟んでもう一人、ビシッと優雅に制服を着こなしている赤髪の女性とは対照的な、私服姿の女性が身を縮めて座っていた。
「け、決心? ウチも……」「ウチも?」
「い、いや……何でもあらへん」「それじゃ分からないでしょ?」
「…………」「このままだとルークみたいな扱いを……」
「いいいい、いやや! あれだけは堪忍して!」「全く 駄々ばかりこねて困った子だこと♩ これならマキと
「うっ……わ、分かりました」「貴方はマキのお姉さんなんでしょ?」
「はい……そうです」「マキはあの子の片腕として大活躍〜♪ 貴方妹に随分差をつけられてるわよ〜♩」
「ううう…………」「戸籍弄って妹になる?」
「…………」「シェリーと一緒に行けば面目保てたのに~♩」
「そやかてマキが来るとは思わなんだ」「言ったわよね? サラなら必ず呼び寄せるって♩」
「ううう……確かに」「シェリーは今頃マキにヒーロー扱いされてるでしょうね♪」
マリが言い終えると間髪入れずに畳みかけ、相手に弁解の余地を与えない。
とここで誰かが転送装置から現れた。
「……じゃまする、で〜」
学生服姿のミアだった。
「……あらお帰り。早かったわね~♪」
ここでやっとモニターから目を離しミアに視線を移す。
「うぉ! なんでノアがここにおんの⁈」
「……ミアちゃん、
「そ、そうか? すまん、間違ごうた」
「……分かれば、よい。ていうかまだイジケてた、の?」
「うううスマン、堪忍して」
素直に謝る。この素直さはマリの美点であり、分け隔てなく周りから愛されている要因となっている。
「マリ♩」
呼ばれたので見ると驚いた表情でこちらを見ていた。
「な、なんや?」
滅多に見かけない珍しい表情を見て戸惑うマリ。
「貴方……まあいい♪」
「へ? そ、そう?」
「ところで
表情を戻すとミアに向き直る。
「……一緒に風呂に入ってきた、よ~」
「ウフフ。ラーナとは会えたのよね?」
「……うんにゃ、ラーちゃんとは入れ違いだった、ぞ。でも山ほど情報をかっぱらってきた、ぜ~」
「どれどれ」
早速空間モニターに「かっぱらってきた」情報を映し出す。すると、
「…………あの子、また暴走しちゃって……何度言ったら分かるのかしら♪」
と「仕方ないわね」といった顔つきで呟く。
ローナが真っ先に呼び出したのは
「あの子……姉御け?」
マリが上目遣いでポツリと呟く。疑問符なのは何が映っているのか、マリからは見えないから。
「ラーナで無ければ誰?」
「ううう……マキやと思ったんよ」
「貴方の妹は暴走するタイプなの?」
「い、いや……しない」
「全く……そんなに逢いたいの?」
「…………」
俯いたまま返答すらしなくなる。
ここでミアがマリに近寄り、彼女の前に置かれた、中身が殆ど減っていないグラスを掴むとこれ見よがしにと飲み始める。
そのまま一気に飲み干してからテーブルの元の位置へと
だがその行為にすらマリは反応を示さなかった。
「……相当ストレス溜まってる、ご様子。こりゃ重症、だ〜ね」
視線をローナに向け首を振って見せる。
「分かった。次の作戦で貴方をヒーローにさせてあげる♪」
「え? ホンマか⁉︎」
物凄い勢いで顔を上げる。
「だから今すぐ決心なさい♩」
「……よっしゃ! ウチ、やる!」
「良くぞ言った~♪ なら早速お願いね~♪」
躊躇いながらも、だがしっかりとした足取りでローナに向かってゆく。
空いたソファーに待ってましたとミアが腰掛ける。
「……お、忘れてた、ぞ。ノアから武装を
「ありがと♪ 六ってことは?」
「……私の分はあっちで済ませた、よ~」
「O~K~♪ ならチャッチャと準備を進めて頂〜戴♪」
「……らじゃ~」
「あ、シェリーはまだ帰ってきていないから♪」
「……承知、済み~」
返事をしてから目を瞑る。アシ1号を呼び出し改造の手配の指示を始めた。
「ん……そこ、上手……♪」
ローナの悩ましい声が部屋に響き渡る。
「この位でええか?」
「んん……もう少し……優しくお願い♪ ……んんんん~~♡」
悩ましい声が耳に入ってくる。何事か? と目を開けるとマリが赤髪の女性の肩や腕を丹念に揉んでいる様子が目に入る。
「……そう言えばラーちゃんいないから、ね。マリを(肩揉み役として)
ローナ姉妹はミアノアのような親しい間柄の者を除き、「他人の前」では
ローナ姉妹とは古くからの友人。二人の性格を知り尽くしているミア(ノアも)だからこそ、肩もみという行為で「姉妹のスキンシップ」を図っているのだと理解していた。
ローナは今回、妹の代役として、スキンシップの相手としてマリを選んだのだ。
至福顔のローナと生き生きとした表情のマリを見て思う。
──ローちゃんも心細かったの、かも。
新たな発見にワクワクしつつ、指示出しを続けるため再度目を瞑った。
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