第71話 お腹空いた!
話を終えると目蓋に光を感じたのと同時に全身の感覚が戻る。
どうやら今までとは異なり今回は副作用? もなく現実世界に戻ってこれたようだ。
目を開ける前に深呼吸を一回。それからゆっくりと目を開ける。
目に飛び込んでくる見慣れた眩しい空間。そして身体が感じる安心感。
そのまま上半身を起こす。するとほぼ同時に三人も目を覚ました。
見守りをお願いしていた三人も横になっていたところを見るに、結構な時間話し込んでいたのかとも思ったが、三人が三人とも同じ状態なのは何かが違う気がする。
これはレベッカかアルテミスの仕業だな、と割り切り、機会があればアルテミスに記録させるかと一人ほくそ笑む。
「う~~ん」
座ったまま声を出して背伸びを一つ。体に異常が無いかを確かめる。
それが済んでから改めて三人を見るが、皆一様に目を見開いたまま指一本、ピクリとも動かさないでジッとしていた。
「みんなお待たせ!」
元気よく挨拶してみたが……反応なし。
「フッ……少しだけ空しくなっちまったよ」と思いつつ時間を確認してみると「げっ、もう夕方。あれから半日以上も経ってるわ!」と。
一人騒ぎ立てても面白くないので、席から離れ三人の様子を順に確認していく。
菜緒と菜奈は同じ顔でたまに瞬きするくらいで一点を見つめたままの放心状態。顔を近づけても「私が見えてない」ようで視線は動かなかった。
クレアも同じ有り様。なので諦めて離れようと顔を背けた瞬間、結構な勢いで抱き着かれた。
不意を突かれた形になり、勢いそのまま上方へと飛ばされる。
慣性の法則に従い背中が壁面に当たる。そこで
因みにコックピット内では
そしてそれらの制御は我々が意識せずとも艦AIがやってくれている。
「く、クレア⁇」
耳元からすすり泣く声が聞こえる。
いったいどしたの?
……ごめんなさい……ごめんなさい……
必死に何度も繰り返し呟いている。回された腕にはかなりの力が込められており、離すというか収まる気配がなさそう。
今まで溜まっていたものが溢れ出し、抑えきれなくなっているように感じる。
「どしたの? 何があったの?」
尋ねながら優しく頭を撫で考える。
最近クレア自身も色々と悩んでいた。
何を悩んでいたかは分からない。慣れない環境のせいもあっただろうし、真面目な性格から心労も多かっただろう。
私的には友人以上の関係になれたのだから、遠慮せずに頼ってくれても良かったのだが。
「……私……どうしたら……いいの……」
顔を離さず独り言のように呟く。
頭を撫でる手を一旦止めてクレアに耳を傾ける。
「何を迷ってる?」
「…………」
返答はない。それでも続ける。出来るだけ優しく、自然に。
「……クレアがいいと思うようにすればいいんじゃない?」
「で、でも! も、もし……」
切なそうにこちらを見る。顔と顔の距離は拳一つ分と目と鼻の先。
私がレベッカと話している間、何か起きたのかのかもしれない。明らかに態度がおかしい。
切羽詰まっている。そんな感じに見える。
「そんな顔しないの。折角の美人が台無しだぞ?」
僅かな間、見つめ合ったがまた肩に顔をうずめて黙り込んでしまう。
そこで再度頭を撫でながらそっと語り掛ける。
「私にとってクレアはとても大事な人」
「私はクレアが大好き」
「何度でも言うけどクレアと出会えて私はとっても救われたんだ」
「それは感謝しても足りないくらい」
「ラングであなたに会った時は苦手なタイプって思ったりもしたけど、もしあそこで貴方に出会っていなければ、悩み事が多すぎて心が持たなかったと思うし、間違いなくここには辿り着けなかったと思う」
「それはクレアがそばにいてくれたお蔭」
「クレアもね、今まで色々とあったと思う」
「今まで良く一人で頑張ってこれたね」
「……これからは私がずっと一緒にいる」
「今度は私がクレアのために何かしてあげる。だから……泣かないで……ね?」
「……うう……うわーーーー」
堰を切ったように大声で泣き出してしまった。
「今まで大変だったね。辛い思いした分、クレアにはこれからいっぱいいっぱい、これでもかってくらい良い事が起こるよ。必ずね」
ここで顔を上げて私を見てくる。
細い目から溢れてくる涙と整った鼻から流れ出てくる鼻水でくしゃくしゃ。
「うん……うん……え…まぁ……」
「うん」
泣く様子は子供のそれ。
その泣き顔に笑顔で応えるとクレアの体の強張りが薄れ、腕の力が緩んだ。
そこでハンカチを取り出し顔に近付ける。すると目を瞑り顔を上げた。
涙と鼻水を丹念に拭いてあげると素直に受けてくれた。
ご褒美にと目を開ける前に唇に軽くキスをする。
「はいお終い。綺麗になったよ」
唇の感触に驚いたのか、勢いよく目を開き私を見る。目と目が合うと頬を緩ませ再度首元に抱きついてきた。
「……私……決めた」
暫くすると吹っ切れたような、どこか決意が感じられる声が聞こえてきた。
「ん? ……そう。分かった」
何を決めたかは敢えて聞かない。そう、クレアの決意を尊重するため。
聞いてしまったが故に起こりえるかもしれない「新たな後悔」をクレアにさせない為。
だから聞かない。
「私に手伝えることが有れば言ってね」
頭を撫でながら言う。
「……うん」
「……遠慮は禁止〜」
「……うん」
やっと落ち着いたみたい。最後の返事の後で強く抱き着かれた。
素直な返事、そしてその返事に込められた思い。
私と同じくクレアにだって言えない事はあるだろう。だから無理に言わなくていい。
私はクレアを全てを受け入れるから。
そんな私の気持ちが伝わったのか、私に委ねるように身体を預けてきた。
肌と肌との触れ合い。感じるお互いの温もり。
前回とは異なり服を着ているにも関わらず
二人の距離が0になり、遮るモノが無くなった。
どうやらクレアだけでなく私自身も心の中で燻っていた「拘り」も消えたらしく、腕にいる女性が愛おしく思えてきた。
こんな感情は初めてと思いつつ、気付けばクレアを強く抱きしめていた。
僅かな時間「新たな境地」を堪能する。
それから未だ動かずにいる二人に目を向ける。二人ともキョロキョロと周りを見回しながら上半身を起こそうとしているところだった。
「今のは……事実……なの?」
落ち着きなく目線と頭を動かしながら菜緒が呟く。
「…………」
言葉は無いが菜奈も同様な反応。
──その言い方、もしかして……
「みんな……何か見た?」
すると腕の中にいるクレアの身体がピクッと反応する。
「え? ……ええ。桜? ……さんと」
「椿……ちゃん」
菜緒と菜奈がお互いに見合う。
──えっ? 今、桜と椿って言った? もしかして……
(アル?)
(はい、先程のレベッカ様との会話も含めて、三人にもエマが見ていたものを同時に見て貰いました。ただエマとは違い、彼女達は情報量が圧倒的に少ないので私なりに補足をしながら、でしたが。それとエマの心配事ですが……大丈夫です。三人とも「覚醒」はしていません)
(そう。でもどうしてそんなことしたの?)
(
(意思? レベッカではなく? 椿でもなく?)
(はい。今、
(そう……)
それよりみんなを巻き込んでしまった。
いやそうじゃない。仲間が真実を知ってしまった。もう私だけでは済まされなくなった。
この三人も後戻りは……もうできない。
正直言えば自分のことで手一杯。だけどこの三人を放って置くことなんて私には出来ない。
それに今の私は一人では無い。
サラもいる。ラーナやノアや後輩達。そしてあのローナも陰で私達の事を守ってくれている。
私もただ守られているだけではダメなんだ!
もうそんな状態から抜け出さないと!
自らの手足で足掻き始めないと!
クレアを抱いたまま二人の目線の高さまで降りていき、出来るだけ自然に、あまり深刻にならない様な口調・表情で今まで起きたこと、今の現状、そしてこれから成すべきことを三人に話すことにした。
「みんなに大事な話しがあるの」
「……………………」
「これが……今までみんなに話せなかった……私の秘密」
あの草原惑星から始まりからここに至るまでの出来事。そしてレベッカの存在を私なりに纏めた上で簡潔に説明した。
やっと包み隠さず他人に話せてだいぶ気が楽になる。
だがこの後のみんなの反応が気になりまた気が重くなる。
「ウソ……それ……ホント……なの?」
「エマ……ちゃん」
驚愕の表情で菜緒も菜奈も私を見つめたまま固まる。
クレアは身動ぎ一つせず抱きついたまま。私も手を回したまま離さずにいたので表情までは分からない。
ただ話の途中、
「私の望みは……エリ姉を取り返す。それと預かり物を椿に渡す。世界だの何だのはその後」
「決意」を述べた後、改めて二人を見る。
菜緒は思い詰めた表情で考え込む。
菜奈は菜緒に視線を向けた後、徐に席から離れるとクレアの隣りに回り込み、私の側面から抱き着きクレアと同じ様に顔を寄せてきた。
「私……エマちゃんが……大好き。だから……いつまでも一緒だよ」
今までとは少しだけ異なる「感情が乗った声」で囁いた。
「ありがと菜奈。私も菜奈が好きよ」
「うん!」
元気を与えてくれる
「なんか色々と腹立ってきたわ!」
ドスの利いた声。
「……あ、
菜奈の行動を目で追っていた菜緒。奈菜が私に抱き着いた瞬間、眉間に皺を寄せたのを私は見逃さなかった。なので私に対して怒っているのかと思ったが、笑顔で否定してきた。
「……なら何に対してお怒りで?」
「私にも色々あったの!」
私とは……関係ないらしい。
「それはそうとこれからの
シートから離れこちらに移動してくると二人を抱えた見えない位置にある私の手に自分の手をさり気なく重ねて聞いてくる。
「プランか……う~ん、取り敢えずは……お腹空いたかな?」
「自分とは関係ないならいいか!」と正直に答えると菜緒が盛大にコケた。
「ま、全く貴方って人は」
怒りながら赤面するという珍しい状態。
「えへ♡」
気にせずトボけてみた。
「主任達と話を詰めないと。先ずはここから出ましょ?」
「分かった。アル?」
「了解」
返事と同時に
確かにこのまま抱き合っていても事態は進展しない。
「さあ、行きましょう」
と菜緒が私の手を握ると率先して通路へ入って行こうとするが、二人はそれでも離れてそうになかった。
仕方ないので菜緒には先行してもらい、私は「両手に花」の状態で通路に潜り込み。
「花」の二人はどんな顔をしているか残念ながら拝めない。特にクレアは離さないぞ、との意気込みが感じられる力の入れよう。
まあ私もここまで来たら離す気はない。
(エマ。一つだけ重要な補足事項があります)
普段よりも大きな
(ん? 何?)
(エマやエリーが桜の思いに触れられるのは、貴方達姉妹が「桜のDNA」を受け継いでいるからです)
(……うん)
それは説明を受けたので理解している。
(当然ながら他の三名には桜の思いは届きません。そこにはご注意を)
それは……そうよね。なら……
(……と言うことは)
(はい。今あなたが抱いた
(そう……)
──
私達は桜。菜緒達はあの少女。そしてクレアは……
(特にクレアさんにはペアとなる姉妹がいません。補助してくれる探索艦もいません。私とのリンクは一応出来てはいますが、エマとは比べるまでもなく脆弱です。今後、彼女には「最大限の配慮」をし、決して目を離さないようにした方が良いかと)
──そっちの心配もあるのか。姉妹間の感情の共有。こればかりは手の打ちようがない。
(うん、分かった)
──でもクレアなら……大丈夫。悪い方には向かわない……絶対に。
(……そうですか。今後の
(あいよ。それとその話し方はもう固定?)
(変更出来ますが?)
(フレンドリーな方がいい、かな?)
(りょうか~い! こんな感じ~?)
(……そんでいい)
(はいよ!)
……桜が旅立つ「元」となった願い。それは今となっては
艦から出てタラップに向け飛び立つとちょうどランとソニアがタラップ端にある転送装置から現れた。
二人は私を見つけるや否や笑顔で手を振りながらこちらに向けて勢いよく飛び立つ。
次にシャーリーとラーナが現れ二人に続く。
最後にムスっとしたシェリーとニヤケ顔のマキが現れ、馴染みの仲間の顔が全て揃った。
──流石に倒れてから一日近く経ってるからみんな復活しているようだわさ! しかも全員制服着用済だ。なんかすっごい新鮮~!
シェリーは私と目が合うと立ち止まり、細めた目で私をガン見してくる。
──そういえばなんか話があるんだったっけ? 怒ってる……のかな?
「お姉様ーー!」「エマ姉様ーー!」
と考え事をしてたら、両手を広げたランとソニアが言葉通りの「フライングタックル」をしてきた。
「ぐ、ぐぇ」
思わず変な声が出てしまう。
正面はクレアと菜奈が占拠しているので、
二人とも反重力シューズの扱いがお上手だこと。
「お、お待たせ〜」
「ほ、本当に髪、黒くなってしまったんですね!」
「とっても似合っているなの! 素敵なの!」
「あんがとね」
声色から私の変化を受け入れてくれたみたいで、どちらかは判らないけど髪で戯れていた。
それはそうと結わくの面倒だから解かないでね~
ここでシャーリーとラーナがそばまでやって来た。
完全に出遅れてしまったシャーリー。今回は自制しているラーナとは異なり抱きつく場所が見当たらずオロオロしていたが、最終的には一番無難なランとソニアの上から被さるように抱きついてきた。
「「ギャー」」
ランとソニアの尋常でない叫び声。
「ちょ、ちょっとみんな〜」
私の体に鈴なりに人が生えている状態。
無重力なので重くはないがちょい苦しい。
「エマちゃん〜お疲れ様〜。ここの艦は動くようになってるわよ〜♡」
ラーナの声が聞こえる。だが聞こえるだけで姿が見えない。
「それは良ござんした。でもちょっと時間掛かっちゃった」
両脇には美人さんの顔。離れたくないので大きな声で答えた。
「大丈夫よ〜。それより休憩してきたら〜?」
三人娘とは異なり空気を読んだ大人の対応。これが本来のラーナで、他エリアさらに後輩の前ということで自重している。
これがBエリアの探索者だけとか、私とラーナの二人だけとかだったら本能丸出しで襲われていただろう。
「うん、あたしゃお腹空いちゃっただよ」
「それなら〜みんなで食べておいで〜。私は菜緒ちゃんに〜ちょっと用があるから借りてくわねぇ〜」
「へ? 私ですか」
名を呼ばれ振り向く。
「菜緒が良ければ……」
ラーナは「自分も行く」とは言わなかった。なので真面目な話でもするのだろう。
「じゃあ決まり〜菜緒ちゃんかも〜ん」
「は、はい」
名残惜しそうに離れるとドナドナと連行されていった。
さて、私の身体は未だに自由が聞かない状態で艦とタラップの丁度中間点で浮いている。
ここにいてもしょうがないし、シェリーと話をしてみたい。
なので転送装置へと移動を始めた。
──ちょ、ちょっと君たち物理的に重たいからそろそろ離れなさいって!
転送装置ではマキがこちらを見て手を振り待ち構えていた。
その隣では仁王立ちをしているシェリーが見える。その姿は新鮮でちょと可愛く見えてしまう。
ドックの床には「お月様並みに」軽い重力がかかっていて、着地すると抱きついている五人分の体重が私にのしかかり耐えきれず崩れ落ちてしまった。
当然だが抱きついていたみんなも一緒に倒れてしまう。
「「「キャー!」」」
一斉に上がる叫び声。それでも誰一人、手を離さないかった。
「ほ、ほれみんなもうお終い」
手を離すように促す。すると全員やっと手を離してくれた。
ヨロヨロと起き上がると目の前に仁王立ちをしたシェリーがこちらを見て立っていた。
「あ、シェリー久しぶり! 元気だった?」
だが問いかけには答えずこちらを睨み続ける。
「し、シェリー? どしたの?」
こりゃ重症だな。
「エマ殿、話があります」
威圧しながらやっと口を開いた。
「な、何?」
「ニ人だけで」「お、お姉様!止めて下さい!」
突然シャーリーが割り込んできた。
「貴方は黙ってなさい」
目だけをシャーリーに向ける。当然ながら妹に対しては威圧は使わずに。
「い、嫌です! 黙りません!」
珍しく? 一歩も引かないシャーリー。オドオドしながらも姉の前に立ちはだかる。
「ちょ、ちょっと二人とも……」
喧嘩はダメだよ、と言おうとしたら
「お、ホンマ黒いの〜」
緊張感の全く感じられないマキの声で遮られる。彼女は私の髪を見ながらシェリーに近づいていく。
「似合ってるでしょ?」
少し自慢げに言ってみた。
「そやな。似合っとるで!」
と言ってシェリーの肩に手をおいてニヤけてみせる。
「ありがと」
「でな、エマ。こいつ何で怒っとるか言うと、エマがな、シャーリーのこと
「……は、はぃーー?」
誑かす?
「…………」
シェリーの目に力が入る。私に向けていた威圧が周りに漏れ出す。
「えーーと」
「…………」
瞬き一つせず見つめるシェリー。
威圧は気にならないが誤解は解いてほしい。
「お姉様がそんな事するはずがありません!」
「そうなの! みんなエマ姉様の事が好きでやっていることなの!」
ランとソニアが勢いよく割り込んでくる。
シェリーはそんな二人に顔と向け、無言の威圧を放つ。
「「ひっ」」
二人は呆気なく怯んだ。
ひと睨みで済ますと視線を私に戻す。
「……分かりました。二人の言を信じます。その代わり責任を」
「せ、責任⁈ 責任って?」
「弄んでいないのであれば、我が妹の意思を汲み取り添い遂げて下さい」
「!」
全員がその発言に驚く。
そ、添い遂げるって?
「しゃ、シャーリー。姉公認や。えがったの」
「「よ、良くな〜い!」」
ラン&ソニアが私の前に割り込みシェリーに立ちはだかった。
そしてシャーリーだが……頭から湯気出して顔を真っ赤にして俯いていた。
「ここで今、お約束下さい!」
鬼気迫る勢いだ。
同時に私に向けハッキリと分かる位の威圧を向けてきた。
周りの者達がその威圧の煽りを受け半歩後退る。
だが、
エマは今までシェリーよりも更に上位の荒ぶれる者達を散々相手にして。なのでそれなりの耐性ができている。
そのお陰? で冷静にいられたエマは、会話の内容よりもあの温和で常に冷静沈着であったシェリーの変わり様に興味を惹かれていた。
こんなシェリーは今まで見た事がない。
いつも自信に満ちていた目が、今では何か深刻そうな、余裕が無いように見受けられた。
「シェリー……どうしたの? あなたらしくないよ?」
「…………」
気持ち渋顔になる。
「せっかく再会出来たってのに。訳……訳、話して」
「…………」
黙したまま目線を下げる。
この態度から先程の態度は「意図してやっていた」と分かった。
「なんやシェリーらしくないわ〜」
脇で事の成り行きを見守っていたマキが割り込む。
「な〜シェリーや、隠し事多過ぎやで? 結局マリの事も一切喋らんしの〜。そのくせ誤魔化すのはメッチャ下手ときとるし」
「ん? マリ? マリって? 居場所知ってるの?」
「シェリーや、マリは今どこにおる〜?」
質問にピクりと反応、複雑そうな顔でソッポを向く。
「な? 分かり易いやろ?」
「……なるほど」
「…………」
さらにバツが悪そうに顔を背けた。
「……そうだ! お腹空いた!」
「へ?」
「みんなご飯食べいこ!」
振り向き皆に向けて叫んだ。
「行く〜!」「お腹空いた〜!」「早く行こ〜!」
「よっしゃ! 行くど~!」
「おーー!」
シェリーを無視して皆が一斉に転送装置に向け歩き始める。その中にはシャーリーの姿も。
「ちょ、お待ち……」
慌てて声を掛けるシェリー。
「ほれ! シェリーも行くで〜」
マキがシェリーの背中を叩き移動を促す。
「くっ……」
「何が「くっ……」やねん、シェリーらしくないの。ほれ行くで」
とシェリーの首に腕を絡めて無理やり連れて行った。
結構な人数になってしまったので、全員が入れるどこか良い店はないかと菜奈に聞くと、Bエリア基地にある「居酒屋
入るとこれまたサラ似のアンドロイド店員が複数体待ち構えており笑顔で愛想よく席へと案内してくれた。
薄暗い店内の通路を抜け、奥の畳部屋へと通される。
靴を脱ぎ入ると部屋の端の方に誰かがいるのが目に入る。
探索者の制服を着ているので探索者であるのは間違いないのだが……
──あれ?どこかで見たことがあるような……
その者はお猪口を口に運びお酒? を一気に飲み干すとこちらを見ずに一言呟いた。
「……遅かったな~、っと」
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