第66話 なんじゃこりゃー!

 ・・・・・・



 ──ん?



「お、お目覚めかえ? 良い夢は……見れなかったようじゃの〜」


 ベットの上? で目が覚めた。何だか身体が重い気がする。

 声がした方に目を向けると、椅子に座り天探女の姿が目に入る。


 彼女は制服を着て多分紅茶だろうティーカップを口に運びながら、私をチラ見していた。

 そして紅茶を飲み終えると立ち上がりゆっくりと近づくとベットの端に腰掛ける。それからハンカチを取り出すと私の瞼を優しく拭いてくれた。



 ──え? 私、泣いている?



 ここで先程の光景を思い出す。



 ──そうか……きっとあの夢……いや、夢ではなくて、あの子達の「過去」の記憶を見たから。



 だからだろう、涙が止まらない。


「ん? 少し強すぎたかの……動くでないぞ……」


 持っていたハンカチを顔に被せてから、手をハンカチ越しに私の額の辺りにかざしたまま動きを止める。

 言われた通りに大人しくしているとハンカチ越しに手の温もりを感じた。

 その心地よい感覚に身を任せてみると心が安らいでゆく。


 そして一分くらいだろうか、いやもう少し長かったかもしれない。


「はい、お終いじゃ」


 手とハンカチが取り払われると目蓋越しに明かりを感じたので目を開けてみた。

 すると涙は……止まっていた。

 身体も軽い、って言うかいつもに戻った感じ。

 気分も先程までとは違いすこぶる良い!


 体を起こす。

 お? 私も制服着てる。いつの間に……ま、着てるならいいか!


「どうじゃ? 気分は?」

「うん! ……じゃなかった、はい!」

「よいよい「うん」で。相談なのじゃがわらわもサラと同じ扱いにして欲しいのじゃ!」


 キラキラ瞳で顔を私の顔に近づけてくる。


 ち、ちょっと近いってば!


「え? ……話し方?」

「そうじゃ」

「い、いや〜それは……どうなの……かな?」


 私も一応常識を持ち合わせている。

 サラとは長い付き合いでお互い認め合う仲。なので敬語は使っていない。それでも一応上司なので分別を弁えた付き合いを心掛けている。


「いいのじゃ! はい、決まりなのじゃ!」


 この主任はそんなことは気にしないらしい。

 ベットから降りて手を無理やり引っぱり起こされてしまう。


「ちょ、ちょっと待って!」


 起き上がってからも強引に手を引かれる。その時、私の足がもつれて天探女主任に正面から抱きついてしまう。


 そう、あの壮大な山脈に顔が埋もれて……?

 サラ級の……?


 の? ……の??


 あ、あれ?


 ……すりすりすりすり……すりすり……りり?


「…………?」

「…………」


「うむ……バレてしまった、の。仕方ないの、じゃ」


 天探女が妖しく微笑むと……


「え? えーーーー⁈」


 目玉が飛び出そうになる。


「内緒じゃ、ぞ? を知っているのは、かも?」


 妖しくウインクしてみせた。


「…………はぁーー分かった」

「お? 素直な良い子じゃ、て!」


 満面の笑みに変わる。


「ってなんか話し方がミアノアに似てない?」

「仕方なかろう。あやつらは……………………だから、の〜」

「え? ……えーーーーーーーー⁈」


 またまた飛び出そうになる。今度は動きまで止まってしまう。


「ちょっとでも気を抜くとこうなるの、じゃ。この件はサラも知らない、ぞっと」

「そ、そうだったの……ってあなたいくつ?」

「ん? わらわ、か? サラよりもちーーとだけ年上じゃ、よ」


「……なんか計算合わなくない?」


 確かサラは今は三十三。でミアノアは十八。差し引き十五。

 ってことは……成人直後?


「そう深く考えるではない、ぞよ。女は秘密が多い方がそれだけ魅力が増すというもの、じゃ。それよりほれ、お約束のウバ茶、じゃ。好きなだけ飲むとよい、かもかも?」


「……なんか複雑な心境だわさ」


 二十三歳。彼氏のいない独身の身としては。なのでサッサとウバ茶を飲む。


 うまか~~♡ 


 が吹っ飛んだ。


「今の話は秘密だ、ぞっと。因みにサラも秘密が満載じゃ、よ?」

「それは……なんとなく分かる」

「はははは、分かる、か! ならば今、ここに来ているラーナ達のことも分かる、な?」

「うん。そっちもなんとなく……え? ラーたん来てるの?」

「おお、おるぞ、よ。ついでにお仲間のマキとラン、あとクレア……クレア……くれあ?」


 目の動きまで止めてフリーズしてしまう。


「え? クレアも?」

「…………まったくサラには困ったもの、じゃ。何もかも一人でしょい込みすぎなの、じゃ」

「? でも何でみんなここに来てるの?」

「わらわに会いにきたの、かも?」

「…………」

「冗談じゃて。サラに呼ばれた、から」

「何で?」

「実は宇宙で戦闘があった、のじゃ」

「せ、戦闘⁈ な、なんで⁈」

「……サラからはどこまで話した?」

「え? どの話?」

「お主のこと、じゃ」

「……のこと?」

「……そうか。サラらしいの。まあよかろう。それでお主がベットそこで寝ている間に見たものなのじゃが」

「あ……うん」

「それはの、夢でも記憶でもないのじゃ。わらわが見せた「記録」じゃ」

「……記録?」

「そう記録、じゃ。「あの方々」の数少ない記録……」


 少し悲しそうな顔をして紅茶を一口飲む。そして少し間を開けてから続けた。



「君の夢はなんだ?」

 突然、口調・目つき・表情が変わった。先ほどまでとは打って変わり冷めた表情となる。


「夢? ……なんだろ……」

「……まだ見えていないか」

「見える?」

「……まあいい。君は今後「あの方」の思いに触れ、「あの方達」が何を思い、何を考え、そしてその結果、どういう結論に至ったかを見届けなければならない。その上で「決断」を迫られる。必ずだ。それは絶対に逃れられない「運命」。誰の願いを叶えるかは君次第。その時が来るまでよく考え、答えを出しておくことだ」


「決断? 運命?」


「研究者の立場から言わせてもらえば「運命」という言葉は「過程を軽んじた結果論」なので嫌いなのだが……君の「運命」は君の手の中にある。そしても君が握っている。それは決して「奴ら」によって決められるものではない。それだけは忘れないでいて欲しい」


「…………」


は可哀想だが……私のように……逃げは許されない」


「逃げる? ……あなた昔、何があったの?」

「…………」

「…………」


「願わくば「彼女」を救ってあげて欲しい。私はその為にこの手を汚してきた」


 とても真剣な顔つきだ。



 カップに目を移し考える。


 天探女は『彼女を救って』と。


 ここで色々聞いてもサラ同様、多分教えてくれないだろう……


 サラは『過去を変えて』と。


 過去とは「あの方」、多分「桜」と「椿」に関係していることだと思う。


 私が見た夢では「桜」は光に包まれていた……


「適合者」である「桜」は「贄」……「桜」は「贄」となって光に包まれて「消滅」した……はず。


「消滅」したのならドリーで会ったのは誰?


 あの場にいた妹の「椿」はその後どうなったの?


 彼女達は親元に帰れなかったの?


 二人は行動を共にし、同じ目標を目指していた……


 ドリーにいた「桜」は妹が私達に酷いことしたと言っていた……


「桜」が自らを犠牲にして「消失」を鎮めてくれたのに何故また「消失」が始まったの?



 アルが言った内容が正しければ「消失」が収まったのは百九十八年前。

 多分「消失」を止めたのは彼女達で間違いはないはず。


「遺跡」は道標。

「運命」

「思い」

「過去」


 う〜ん、分からん。

 でも、私の目的は今でも変わらない。

 エリーを、そして仲間を探し出す。


 カップを持つ手に力が入る。


「考えは纏まったか? もうすぐ扉が開く。今のうちにそれを飲みなさい」


 と紅茶を勧められたので紅茶を飲もうと口に近づけて止める。


「……この紅茶には何も混ぜてない……よね?」


 ジト目で主任を見る。


「はははは、それはただの特級ウバ茶ぞよ。安心して飲むがよい!」


 大笑いしたあと、主任の口調・表情が戻った。


 暫くすると隔壁が上がり隠されていた外への扉が姿を現す。


「さあ、出るかの~」


 椅子から立ち上がり扉へと歩いていく。

 私も立ち上がり扉へと向かった。




「え、エマ!」「エマちゃん!」「エマちゃ~ん♡」


 扉の先にはクレアと菜奈、そして満面の笑顔のラーナおり、私に駆け寄ってくる。よく見るとラーナの周りだけ花が咲き乱れていた。


 なんか異様な光景。

 ……ん? 花って事はカルミアに乗って来たのね。


「三人とも待っててくれたの?」


 引きつった笑顔で迎えた、が何故か三人の歩みが途中で止まる。

 視線は私に向けたまま唖然として。


「ど、どしたの?」


 この笑顔が不味かったかな……と思いつつ戸惑っている三人を順に見回していると、


「え、エマちゃん……その髪の毛は……どうしたの?」


 珍しくラーナが戸惑っていた。


「え? 髪?」


 髪がどしたの? 寝ている間にボンバーにでもされたか?


 束ねている髪を掴み、肩越しに前へ持ってきて見てみた。



「…………な、な……なんじゃこりゃーーーーー!」



 ライトブラウンの髪が……何故か真っ黒だった!


 自分でも唖然となる。


「あ、アル!」

「はいよ」


 自分の姿が映った空間モニターが目の前に表示される。顔を近づけマジマジと見入る。


 変わったのは髪の色だけ……

 ん? 分かりにくいけど瞳の色も茶色から黒に変わってる。

 それ以外はとりあえず安心……じゃなーーい‼︎


「主任……どういうこと?」


 私の代わりに菜奈が天探女に詰め寄ってくれた。

 全員の視線が主任に集まる。


「どういうことじゃと? サラから何も聞いてないのかえ?」

「調整と……」


 クレアが不安そうに呟く。

 そのクレアをジッと見つめる天探女。


「エマちゃ~んその髪の色、とっても似あってるわよ~。お姉ちゃんそっちも大好き~♡」


 優しく抱き着かれた。


「ひゃぁぁぁぁんん!」


 突然叫び声? 喘ぎ声? が響き渡った。


「く、クレア?」


 クレアを見るとソニアの時と同様、背後から天探女がクレアの全身を隈なくまさぐっていた。

 その姿を見て思わず見とれてしまう。


 ソニアの時は両手とも身体を重点的に攻めていたような気がするがクレアに対しては、後方からクレアが抵抗出来ない様、上腕の上から手を回し、右手は首筋に当て、左手は立派な山脈を中心にてまさぐっていた。


 特に首筋の方は親指で顎を上に持ち上げ、人差し指は耳の中へ、残りの指は首筋へと伸ばしている。

 その手は忙しなく動かしている左手とは異なり動かさずにいた。


 片やクレアは上を向いた格好で何故か抵抗せずにいる。

 その顔は真っ赤で身体も微妙に捩らせながら何かに耐えているようだ。



 ──な、なんかとってもせくしーだなや……



 目が離せなかったがなんとか我に返れた。


「しゅ、主任! クレアは探索者ではないよ!」

「ん? そうなのかえ? まあ細かいことは気にしていては長生き出来ぬぞ」


 耳を傾けようとはせず、ほんのりと頬を赤らめ素知らぬ素振りで手を動かし続ける。


「いやいやそうじゃないでしょ⁈」


「はい……おしまい」


 またまた菜奈に後ろ手で拘束された。


「い、痛いのじゃ~」

「まだやってたの~? 自業自得ね~。菜奈ちゃん~そのまま首絞めてもいいわよ~」


 私に抱きついた状態で菜奈に許可を出すラーナ。


 他人どうこうよりも、あんたも離しなさいって! それと落とすって……絞め技のことだよね?


 ラーナの発言を聞いた天探女の動きが一瞬止まる。その動きをラーナは見逃さなかった。


「姉さんは……いないわよ~」


「そ、そうか……ならばよし」


 安心した表情に戻る。

 今のやり取り……もしかしてこの人もローナが苦手なのかね。


「クレア大丈夫?」


 拘束? 振り解き近寄る。

 クレアは立っていられない様で、私にもたれかかってきた。


「あ……ありがとう。なんだろう……抵抗出来なかった……力が入らなかった」

「え? そうなの? 大丈夫?」


 顔色は……悪くない、よね? ってゆーか、上気した顔が間近にあったら……こっちの気分が……


「大丈夫じゃて。直ぐに良くなるぞよ」


 一仕事終え満足そうな表情をしている。


「ええ、大丈夫。段々良くなってきた」


 表情もだいぶ良くなってきた。


「そう? 自分で立てる? あ、それと菜奈、ありがとね」

「うん……私よりも……髪、変わっちゃった……ね」

「え、髪? う〜〜ん、ま、いいか!」

「え? いいの?」


 復活したクレアが心配そうに眺める。


「いいじゃん! これクレアや菜奈と(同じ色で)お揃いだから良しとしよう!」


 二人を順に見たあとに天探女と目が合う。

 すると僅かに微笑を浮かべた。

 その笑みを見てこちらも笑みを作る。


「でもどうせならこっちがお揃いになりたかったかな」


 両手で自分の丘を持ち上げながら呟く。


「ははは……」


 クレアは困り顔。


「でもクレアまで来てるのには驚いたわ。戦闘があったって聞いたけど宇宙で何が起きたの?」


 三人を交互に見る。


「「「…………」」」


 三人は黙ってお互い見合う。


「ど、どした?」


「その前に……何で……エマちゃんが知ってるの?」

「へ? 主任から教えて貰ったんだけど?」


 その主任は明後日の方向を見ている。


「まさか……知らない間に……また改造を」


 菜奈が手に力を込めながら天探女を見る。


「……い、痛いのじゃ」


 本当に痛そう。


「な、菜奈。なんだか知らないけど、そのくらいで許してあげて、ね?」

「エマちゃんが……言うなら」

「良かっわね〜主任〜?」

「た、助かった〜エマは優しいの〜。誰かさん達とは違っててててててて!」

「あはは。全く一言多いんだから!」

「そうよ〜このことは〜ちゃんと〜姉さんに伝えとくからね〜」

「ひ、酷いの〜」

「あはははは! 菜奈、手、離して大丈夫よ!」

「え? ……逃げちゃう……よ?」

「大丈夫! ね? しゅ・に・ん?」


「うううううう、わ、分かったのじゃ!」


 意味を理解してくれたらしい。


「「え?」」


 驚く菜奈とラーナ。


 転送装置へと向かう為、そんな二人を放っておいて天探女の手を引いて廊下に出た。

 残された三人は首を傾げながらもついて行くのであった。

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