第41話 帰還! サラとラーナ!

 声がした方を振り向くとそこには露出魔サラが仁王立ちでこちらを見下ろしていた。


 相変わらず隠そうともしない……っていつものことか。


 寸前の緊張が解けた直後に不意を突かれた登場で皆、思考が停止してしまう。だが切り替えが早い者もおり、私と同じくサラに対して冷めた視線を向ける者もいた。


 一方のサラは「自分に向けられた悪意」にはとても敏感で、普段であれば即座に小言を言い返してくるのだが、今回は何も言わずに私の無言で入ってきた。

 その煽りでランが慌てて横へとズレる。


「主任~洗ってから入らないと~」


 ラーナのツッコミが入る。


「ん? んーだ、大丈夫。私は純潔……」

「それは知ってる~ここにいる子はみんなそう~。私が言いたいのは~そういうことじゃ~ないでしょ~」

「……次からはそうする」


 ラーナを見ずに視線を正面に向けたまま受け答えをしている。

 まあ帰ってみれば行方不明だったラーナがいたら緊張はするわな。ましてやローナがいないのはラーナの様子で一目瞭然だし身の危険を感じるのは致し方ない。

 だから反論せずに私の隣に入ってきたんだな。


 一人増えてただけで大分手狭に感じるが、まだ隣の人と触れる程ではなく若干の余裕はある。


 だから左隣は密着せずに離れんかい!


「で、どこ行ってたの?」


 早速聞いてみよう。


「野暮用……と言っただろう?」

「…………」


 返答の瞬間、左隣から妙な気配が。見れば眉間にシワを寄せ私越しに右隣を可愛く睨んでいた。

 その視線に対し意地でも目は向けまいと前を向くがその先にはマキがいた。

 サラに凝視されて挙動が落ち着かないマキ。可哀想に、これも試練だと思って耐えてくれ。


「……一つは探索部本部への報告だ」


 あちゃーとうとう知られてしまった。

 もう逃げ回る事は出来ないのかな……


「かなり時間が掛かったがこちらの要求は全て呑ませた」

「へ? 要求?」

「ああ。今後は部がお前らを全面的にバックアップする。手始めに基地ホームの改造を行う」

「そ、そうなの?」


「まあ〜主任ふぁいんぷれ〜!」


 ラーナの周りに花が咲き乱れる。

 湯舟全域に花が咲き乱れ、全員の顔が隠れてしまう。


「……カルミア」


 サラの一声で花が順に消えてゆく。


「だが代わりに新たな問題が起きている」

「問題?」

「Aエリア基地と連絡が取れない」

「…………」

「連絡艦が帰って来なかった」

「もしかして……」

「可能性は0ではない。むしろ高い」


 Aエリア基地は四つのエリアの中で最大の規模を誇り、所属している探索者や職員の数も段違いに多い。

 探索者が多いということは探索艦も同数必要なワケで結果、艦を収めるドック数も多くなる。

 なので基地の直径もBエリア基地の倍の大きさなのだ。


 そしてサラが言った「可能性」だが、考えられるのは主に二つ。

 我々Bエリアと同じく「ハッキング」を受けたか、それとも「所属不明艦」の仲間? が現れ襲われたか。

 どちらにしても全ての面で我がBエリアの倍以上の規模を誇る基地と連絡が取れない。それが意味するところは……かなりヤバい事態だと。


「他の部署に依頼……」

「言っただろう?「探索部としてバックアップする」と。は現在最高機密扱いで一部の者しか。だから他部門に気取られる訳にはいかない」

「…………」


 ……私が原因?


「安心しろ。探索部にお前を売るような輩は一人もいない」

「……本当?」

「全く……お前は勘違いしてる」

「?」

「お前は自分可愛さにエリーを見捨てられるのか?」

「……ううん」

「その気持ちは皆同じ。我々職員は探索者は全員仲間であり家族だと思っている。だから誰一人としてはさせない。絶対にだ。そこだけは信じろ」

「……うん。ハンク主任にも同じこと言われた」

「ふん! 全くあいつは昔から!」


 声は怒っているが顔はそうでも無さそう。


「サラちゃ〜ん大好きよ〜♡」


 いきなり私を乗り越え、先程私にしたように今度は自分からサラの顔に抱きつこうと飛び掛かるが、捕縛寸前で逃れる。


「ハアハア、いきなりやめんか!」

「だ~て~嬉しかったんだも~ん」

「全く……お前ら早くローナを見つけてこい!」


 全員困り顔。嫌なら人任せにせずアンタが指揮を取れって。


「それとエマ、あの本部長堅物に昇給認めさせたぞ! 」

「わーい」

「なんだ? 嬉しくないのか?」

「ん? 嬉しいよ」


 私としては色々と複雑な気分。

 部やサラは私達を守ると言ってくれている。それはそれで嬉しいが、裏を返せば「事情を知っている」からこそ出る言葉。


 そしてサラは言った。

『見捨てる』だの『犠牲』だのと。

 つまりどの程度かは知らないが「そうなる可能性がある」と自らバラしたことになる。


「ならもっと喜べ。これも苦労したんだぞ?」


 サラはこの手の感情には結構鈍感。私の気持ちを勘違いしている。

 ただ浮かない笑顔の私とは異なり、興味津々な周りの顔には気付く。


「安心しろ。お前らの分も確保してある」


 またまた全員の目の前に一斉にモニターが現れる。出ていないのは私とラーナだけ。クレアまで出していた。

 暫くしてまたまた全員の瞳から涙が流れた。


 まあネガティブに考えてたら状況が良くなる訳がない。ここは気持ちを切り替えよう!

 給料か……今は使う時間がないのが難点よね。

 取り敢えずは貯めときますか。

 使い道は……「生き残れた」ら何処かの島でも買ってエリーと毎日温泉にでも浸かりながらヒッソリ暮らしますかね。


「私も頂いてよいのでしょうか?」


 感動の涙を流すクレアが聞いてきた。


「お前の件は「上」から話しを通した。情報部やつらの思惑と一致したらしく許可は取ってある。まあもあるし「長」も協力してくれた」

「あ、ありがとうございます!」

「ただし! 私と交わした約束は忘れるなよ?」

「は、はい! 勿論です!」

「それと情報部に報告を上げる前に私に知らせること」

「りょ、了解です!」

「ここだけの話、情報部にはある程度までは。情報流出も止めさせた。だがな、クレアお前ならこの意味は分かるよな?」

「はい」

「よし」


 納得した様でクレアの表情が引き締まって見える。


「でも……こんなに貰ってよいのでしょうか……」

「何だ足りんのか? 全くエマといい、この強欲娘が」


「え? ち、違います……えーとありがとうございます」


 もうサラの天然に慣れたのか、素直に引き下がる。


(クレア、もっと貰っちゃえば?)

(……サラがボケてるんだ、ここはツッコむべき、だぞ?)

(二人ともやめて〜)


 秘密の脳内通信とアイコンタクトで煽るとクレアが苦悩しだす。

 周りはそんなクレアをみて首を傾げている。


「お前ら……やっぱり減らすか?」


 サラの呟きに私とノアは顔を背ける。


「「ごめんなさ〜い」」


 何で分かったの⁇ ホント悪意には敏感なんだから。

 事情が分からない者は更に首を傾げていた。


「で、二つ目は?」

「すまんがそれは言えない」

「…………」


 再度ラーナの視線がサラに突き刺さる。

 だが今回は「……悪いな」と言って口を開こうとしなかった。


「ラーたん止めて」

「う、うん。エマちゃんが言うなら……」

「ありがと」


 サラだってみんなの為に動いてくれてるんだ。これ以上は困らせるべきではない。


「それでドリーはどうしたんだ?」

「それが……突然現れた」

「何だそれは?」

「多分……私が原因だと思う」

「何があった?」

「分身との接続実験をして、アルに導かれて……「あの子」にあったの」


「…………」


 サラの瞬きが止まる。


「それで「あの子」が妹に渡してって光の球を私に渡してきた」

「…………」

「それに触れた途端、また気を失って……気がついたらドリーが元の場所に戻ってた」


 静まり返る浴槽にラーナのすすり泣く声だけが聞こえる。


「……そうか」


 深刻そうな表情のサラ。浴槽に寄りかかり瞬き少なく天井を見つめる。

 そこにマキが恐る恐る手を挙げた。

 全員の視線がマキに集まる。


「あ、あの~ちょっとええ?」

「ん? 何だ?」

「……エマどうしたん? 最近おかしい……よね?」


 サラ、ラーナ以外の視線が私に集まる。


「じ、実は……」「お前たちには教えていない事がある」


 サラに遮られる。

 サラは全員を見回してから話を続けた。


「我々は何を探している?」

「な、何って「遺跡」を……」

「そうだ「遺跡」だ。何故「遺跡」を探している?」

「理由は……知らへん」

「ではつい先日、ここで何が起きた?」

「……「消失」?」

「そうだ。実は今から二百年程前にも「消失」が起きていた」

「…………」

「「消失」が何故起きるのかは誰にも分からない。だが「消失」を防ぐ手段、手掛かりは残されている」

「……それが「遺跡」に?」

「そうだ。「遺跡」はある人物がいた場所でな。その人物が「消失」を防いでくれた」

「「「…………」」」

「ただ、防ぎ方の記録が残っていない。唯一残っているのは、彼女たちのだけ」

「……思い……」

「ああ。その思いに唯一が出来る存在が……」

「エマか?」

「そうこの姉妹だけ。我々だけでは防げないのは私の体をもって証明している。なので今はエマだけが頼りなんだ」


 クレアが言ってた内容と一致している。


「我々は仲間だ。エマ一人に背をわせる訳にはいなかい。だからお前達もエマを助けてやって欲しい」


 初めてかもしれない。サラが人に対して頭を下げたのは。

 私だけでなく皆も驚いている。ラーナでさえ。


「何だ……そうだったんだ」


 初めに口を開いたのはシャーリーだった。


「私は今までと何も変わりません! これからもエマさんを支え続けます!」


 力強く、自分に言い聞かせるように話す。


「わ、私も……大好きなお姉様の為にこの身を捧げます!」


 い、いや捧げんでもええねんて……


「……私もエマについていく、ぞ。もう「約束」なんて関係ない、な」


 ノアは私とラーナを交互に見ながら話している。

 ラーナもノアを見て満面の笑顔だ。



 ──ところで前からよく「約束」って言葉を使ってるけど、それって私と交わした「遺跡探検隊」のことだよね?



「……私は自分の意思でここに来ました。エマを守るため」


 私と目が合うと笑みを向けてきた。


 残るは一人。皆の視線がマキに向けられる。


「ウチは……ウチは……我慢できへん!」

「何が?」


 唯一不満そうなマキ。隣のシャーリーがマキの顔を覗き込む。


「もう……「ポロ」がない生活なんて我慢でけへーーん!」


「で、ラーナは何処にいたんだ?」


 サラだけにさらっと話題を変えた。

 マキは口を開けたままサラを見て呆然としていた。


 ……慣れないボケをかますから滑るんだって。それよりみんなありがと!


「ん〜と、これまた偶然に見つけたんだ!」

「ほ~」

「途中までアイツらだと思って酷い扱いしちゃた。ごめんね♡ 特にカルミアには」


「いいえ。気にしてませんよ」


 すかさずカルミアが割り込む。


「だ~か~ら~エマちゃんなら~何をされてもいいわ~よ~ん♡」

「あの時はごめんねラーたん♡」


 二人だけのラブラブモードに突入。すると二人の顔の周りに花が咲き乱れる。



 ぐぅ〜〜〜〜



 誰かの腹の虫が鳴った。


「お腹空いたーー!」


 そう言えば腹減ってたんだった!

 立ち上がり叫ぶと咲き乱れていた花が一瞬で消えた。


「「「私も〜」」」


 皆も同じく立ち上がる。


「そんじゃ朝ごはんに行きますか!」


「「「おーーーー!」」」


 誰一人恥じいもなく堂々と湯船から出て行く。

 その様子を見てサラは大きなため息を一つ。

 それから残ったラーナに話し掛けた。


「あいつも随分と成長したな」

「そうね~あれからもう七年~?」

「ああ、二人が来た頃は……」

「主任~昔話は全てが片付いたらゆっくりしましょ~? それより私もお腹空いちゃった~」

「ふっ……そうだな。我々も行くとするか」


 サラが立ち上がろうとした時にラーナに呼び止められる。


「支部だけど~ハッキングされてたって~」

「…………それは本当か?」

「ノアちゃんが行ってるから~間違いないかな~」

「それは……かなり不味いな」


 考え込むサラ。


「フフ~そろそろミアちゃんの出番かしら~」

「私は何処にいるか知らん! お前らの方が詳しいだろう?」

「フフフ、それとお友達には~会えたの~?」

「……いや、来なかった」

「そう~残念ね~」

「ラーナ、には拘らん方がいいぞ? 今のあいつなら容赦無くぞ?」

「ん~そうもいかないのよ~。私も姉さんも~エマちゃんとエリーちゃんが大好きだから~♡」

「全くどいつもこいつも……勝手にしろ」

「大丈夫~サラちゃんが~守ってくれるから~」

「……私にも優先順位がある」

「うん知ってる~」

「どちらにしてもアイツを止める手段はない。それだけは心得ておけ。さあ我々も行くぞ」

「はいは~い」




 そのまま揃って職員食堂へ。全員が揃ったところで食事が始まる。


「いや〜しかし見事に「妹」だけ揃うたな〜」

「そう言われればそうね!」

「誰の姉様が一番に戻ってきますかね~?」

「……多分マリじゃない、かい?」

「う、ウチのが⁈ その根拠は?」

「この中で一番仲がいいもんね!」

「そないなことない!」

「アハハ照れてる! だっていつも一緒にいるじゃん!」

「それ言うたらシャーリーのとこもいつも一緒に走っとるやろ?」

「残念! あれはトレーニング限定でプライベートはお姉様とは別行動なの!」

「そ、そんじゃノアんとこはいつも手、繋いでおるやん!」

「……昔からの習慣、でね。仕事以外では別行動、だぞ。君達みたいにいつでもどこでも「どつき合い」なんてことはしてない、ぞ」

「な、ならランとこは?」

「私の姉様はご存じの通り自由奔放を絵に描いた様な人ですからね〜。一緒にいることは案外少ないですよ〜って言うかこちらから近付くと鬼ごっこと勘違いしてニコニコしながら逃げ出します!」


 微妙に離した席で食後の雑談を楽しんでいる四人娘。


 先ず先に上がった六人で食べようとしたところに遅れてサラとラーナが到着。ラーナが私の隣にので皆が譲るように立ち退く。そこにすかさずサラが乱入。逃げ遅れたクレアが巻き込まれた。

 結果席順は私の左隣は椅子を密着させて座るラーナ。

 正面にはサラでサラの右隣にはクレアが座る。

 サラなんか「うむ、すまんな」とか言って遠慮なく座るし。

 私は慣れているから良いがクレアが可哀想。


 その影響で卓を二つに分けることにした。

 その結果、こちらの卓の会話には「花」が全くない。


 ……実はサラは寂しがり屋? いやラーナ効果か。


「そうそう! やっと班長達の状態確認が終わったよ。体力的には全く問題なさそうだけど、何故か精神にまいっているみたい」

「サラちゃんが~こき使ったせいね~」

「え? そ、そうなんですか?」

「…………」


 ラーナのツッコミに言い返したいが我慢している、という顔。


「エマお前が行って全員連れてこい! 根性叩き直してやる!」

「それ可哀想じゃん。いい機会だし少し休ませてあげたら?」

「それもそうか。しかし支部まで手を出していたとは」

「実は接続実験時の目的地だったんだな」

「なら計画通りに行っていたら数日は早く解放出来たんじゃないのか?」

「い、いや主任、あの状況では無理ですって!」

「全く軟弱者め!」


 サラの無茶振りにクレアが狼狽えている。


「サラちゃんは~度重なる自分のミスを~誤魔化そうとしてるだけ~」

「そ、そんなことは……ないぞ?」

「でもこれで~基地とドリーは問題解消ね~。ここらで一回旅行に~行きましょう~」

「そうだ! ちょうどボーナスと休暇をもぎ取ったって言ってたよね?」

「…………」


 乗って来るかと思ったら難しい顔をし出す。


「ドリーの保養地~予約しとく~?」

「…………」

「勿論こ~ん~よ~く~」

「…………行くか!」

「よっしゃーー!」

「けって~い~」


「混浴」という単語に弱いサラ。


 早速、今日の午後に出発する運びとなりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る