第37話 第四の部署! 賛同者?

 


 調べるとカルミアは定位置である二番ドックにて「検閲」を受けている最中だった。

 作業自体は順調に進んでおり、問題が見つからなければ今日中には終わるだろう。


 残骸の回収はとっくに済んでおり、一つに纏めて球体にした上で、艦に取り込まずにビリアードのように鼻先で「突きながら」運んでいた。

「検閲」も済ませたようだし、危険はないと確信しているからこその遊び。

 まあノアだし任せた以上は口は出すまい。


 残骸球体だがよく見るとアシ艦と比べて一回りほど小さく感じる。取りこぼしが無いとすれば逃げられた可能性がある。

 ただ艦の大半を残して逃げたのであれば、大した脅威にはなり得ない。

 まあどちらにしても残骸には何かしらの情報が残されていると思うので今は焦る必要はない。


 ところで……あれ減速するのにはどうするんだろう?





 ラーナだが医務室にて精密検査の真っ最中だった。その検査が終われば治療に移行する。

 クレアに任せきりも悪いので医務室へ向かう。

 医務室に着くと裸のラーナが入った治療用カプセルの蓋が閉まるところだった。

 治療モニターにてラーナの容態を見ると「衰弱」以外は外傷もなく、休養を兼ねた栄養摂取に専念すれば数日で復帰できそうだ。


 カプセルの両脇には「ないすばでぃー」の二人がこちらを見て立っており、そのうちの一人であるクレアの隣に行き、向かいのアンリちゃんに一声掛ける。


「何か異常が見られたら教えてね」


 笑顔のアンリちゃんが軽く会釈する。

 カプセルの中のラーナの寝顔を見たあとクレアに向き直りお礼を言った。


「クレア、ありがとう」

「どういたしまして」

「この後ちょっと話さない? 二人だけで」


 クレアに聞きたいことがあったのを思い出した。


「ん? いいよ」

「それじゃ私の部屋に行こう」

「いいの?」

「うん。あの子達には内緒の話なんだ」

「……そう。分かった」


 ノアには戦利品玩具を与えてあるし、浮かれていたマキには釘を刺しておいたの少しの間は留守番役に集中してくれるだろう。残りの二人はまだ帰って来ていないので、周囲に内緒話をするなら今が絶好のタイミング。

 なので急ぎ自分の部屋に転送装置で移動する。

 自室に着いた時点で一時的にアルテミスとのリンクを受信のみとした。


 探索者専用の自室空間は電波コントロールが完璧に施してあり、部屋の主が希望すれば位置情報以外の各種情報の遮断も可能となっている。

 つまりエマの部屋は今「外から見れば」完全な密室状態ブラックボックスとなった。


 この部屋に姉のエリー以外の人を連れてくるのは初めてかもしれない。

 自分で言うのもなんだが、相変わらず質素で殺風景な部屋だと思う。

 何かを飾っている訳でもないし、ベットの布団から歯ブラシに至るまで支給品だらけ。

 大事な物はここには置かずアルテミスに積んである。

 部屋替えしろと言われたら今直ぐにでも応じられる自信がある。


 クレアも見るものがないと、隅のソファーに真っ直ぐ向かい座った。

 私も向かいのソファーに座り、ティーセットを「呼び」出す。


「何か飲む?」

「それじゃ……レモンティーお願い」

「あいよ」


 茶葉をアルテミスから取り寄せる。

 この部屋ではよくティープレスを使って紅茶を入れている。

 勿論砂時計で時間を計りながら。

 レモンの輪切りと角砂糖を添えてクレアの前へ。

 二人揃って一口飲んだ。


「まずこれを見て」


 クレアの前に記録媒体を持ち出しそれを使い空間に映像を映す。

 そこには帰還初期から姿を見せいている、あの所属不明艦が映っていた。


「……これは探索艦よね?」

「そう、ちょっと前からここに来てる」

「何をしに?」

「それが何かする訳でもなし、通信には応じない。多分、偵察……かな」


「偵察?」


 細い目が更に細くなる。

 そう「偵察」とは対照に身バレせずに観察するのを指し、自らの存在を明かした上で敵戦力を計る目的での偵察は「威力偵察」と言う。

 だがこの不明艦の行動はそのどちらにも当て嵌まらない。


「クレアはから何か聞いてない?」

「……何も」

「そう……可能性の一つだったの」

「……これを? 情報部が? ないない!」


 片手をブルブル振って否定する。


「どうして?」

「だって探索艦だよ? あんなもの情報部が造れる訳ないし、ましてや搭乗者なんて用意出来ないよ」

「そうなの?」

「えーと、エマはあまりその辺詳しく無さそうだから教えてあげるね」


 笑顔で紅茶を飲んでから話を続ける。


「まず探索艦。これは「探索部本部」で製造しているのは知ってるよね?」

「うん」

「で、政府の特殊機関が四部門あることも知ってるよね?」

「うん。は知ってる」

「OK。それぞれの機関の成り立ちは?」

「……知らない」

「ま、普通はね。で、初めに立ち上がったのは情報部。情報部が一番の理由は……教科書にも載っているから知ってるよね。次は……」

「調査部?」

「ではないんだな。次は整合部」


「整合部……」


 実は初めて聞く。四部門あるのは知っていたけど……

 名は多分レベル4以上でないと知らないと思う。


「その顔だと知らなかったみたいね。整合部は情報部の直ぐあとに設立されたの。ま、整合部自体は特殊機関の中でも更に特殊な部門だから、情報部でも将校以上の階級でないと「実態」は知らないんだけどね、って偉そうな事言ってるけど、私もあまり詳しいこと知らないし、実際に見たことないのよ」


 特殊機関の中でも更に特殊……


「四賢者は知ってる?」

「最近知った。名前だけ」

「その四賢者と、それぞれの特殊部門のおさとが繋がってるの。その中で一番権力があるのが……」

「整合部?」

「そう。整合部の役割は、目的を遂行するのは勿論だけど、各部の「調整と監視」も行っているそうよ」

「ふ〜ん」

「で、話は戻るけど調査艦と探索艦は一部を除き、それぞれの部門が独自開発した占有物だから、他部門は艦の技術、素材から機器類に至るまで手出しや入手は出来ないの。もし、それらを手に入れようとしたら……」

「……整合部が出張ってくる」

「そう。ルーシーの所で、チラッと話した荒事専門とはこの「整合部」の事。これも聞いた話だけど、探索艦並みの破壊力があるをした艦を持っているみたいよ」

「武装してる……の?」


 そんな奴らがここを襲ってきたらひとたまりもない。


「あくまでも噂だけどね。それに比べたら調査艦なんて紙同然。ただ頭数が揃ってるだけの無人艦だし。で、その後は皆さんご存知の調査部が出来て、ごく最近に探索部が誕生した。なので昔から整合部が目を光らせていたお陰で各部の独立性が今でも守られているワケね」

「…………」

「あと搭乗者である探索者だけど、これは情報部も絡んでるよね。情報部が集めた「情報」を元に候補者を探し出し探索部に通達する。その後は探索部が本人に面会しスカウトする。情報部がやるのはあくまでも通達までで、実際に探索者を育てるのは探索部の仕事。育成方法は知らないし関与も一切していない。だから情報部としてを育てることは出来ないし、ましてや探索者と探索艦との繋がりリンクの方法なんてことは探索部の最高機密だから、他部門が偶然にも「探索艦」を手にしたとしても運用、なんてことは出来るワケがない」

「…………」

「なので、この正体不明艦? は探索部所属の探索艦であるのは間違いない」

「……そうか」


「ただし、これが「探索艦」であれば、だけどね」


「?」

「どこからどう見ても探索艦、だとは思うけど、乗っているのはあくまでも「人」だからね」


「…………」


 エマの表情が曇っていく。


「艦は「探索艦」だけど…………それでか! って言ってたのは!」

「うん」

「そうなると……ちょっとやっかいね」


 そう、操っているのは探索者。これは揺るぎようのない事実。


「分かった。今度本部に調べさせる」

「お願い」

「任せて!」


 笑顔でウインクしてレモンティーを一口飲んだ。


「それともう一つ」


 真剣な顔でクレアに聞く。


「クレアは「遺跡」の件はどこまで知ってる?」


 一瞬考えるが直ぐに、

「エマはレベル4だったわね。なら大丈夫か。「あの方」のもとに辿り着く手掛かりが残されている道標」

 と答えた。


「辿り着く?」

「そう聞いているよ?」

「それ以外は?」

「私はそれ以上は……」

「「あの方」については?」

「「消失」を防ぐを知っている人、とだけしか……」



 アルが言ってた事とほぼ同じ。

 ということは……確定か。



「その「消失」が最近発生した事のは知ってる?」

「……へ? 本当? どこで?」

「一番近い場所はここ」


 下を指差して言う。


「……え? えーー⁉︎」

「気付いてないようだけど、基地の側にあった「ドリー」も巻き込まれて消えてるの」

「……そういえば無かった気がする」


 おいおいその程度なのかいな。ドリーの情報部とは連携を取るつもりは無かったのかね。

 その事を聞いてみたら、ドリーに関しては情報部員はとのことだった。

 理由は軌道上に探索部の基地、地上には探索部関連施設があるからとのこと。情報部のアンドロイドもおらず、政府貸出のアンドロイドか「探索部製のアンドロイド」のみで事足りるから、とのことだった。

 つまりドリーに関しては完全に探索部管轄となっているらしい。


 そんなこと初めて知ったよ。


「ねえ……探索者の本当の役割って……知らないよね?」

「? 「遺跡」を見つけること、でしょ?」

「……ハハ、そうよ」


 もう笑うしかない。クレアなら、私が知らない「何か」を知っているかもと期待していた自分に笑ってしまう。とっても悲しいけど……


「ど、どうしたの?」

「ううん、何でもない」


 泣くほど悲しいけれど涙は出てこない。


「ねえ、本当にどうしたの?」

「ううん、ありがと。大丈夫」


 無理やり笑顔を作る。


「そう? 大丈夫そうには見えないよ?」

「そんなことよりもクレア! 貴方は「探索者候補生」だったよね?」


 クレアの動きが止まる。そして瞬きの回数が増え、更に目を合わせようとしない。


「もう分かってるんだぞ!」

「えへ♡ バレてましたか」

「別に隠さなくてもいいと思うけど?」

「別に隠してた訳ではないよ?」

「……ふふ」

「……ふふ」


 二人は顔を見合わせて笑い出す。


「何で分かったの?」

「ナノマイクロチップ」

「いつ調べたの?」

「探索艦に乗り込む時は必ず全身スキャンされるのよ。私も毎回ね」

「へ〜凄いね〜」

「でね、貴方のそのチップを再使用出来るかどうかの実験をしたいの」

「無理でない? 例え出来たとしても、相手がもういない……」


 クレアの表情がみるみる暗くなっていく。

 この様子と返答から相方は既にこの世にいないのだろう。


「そ、そうでは無くて、私達探索者とのが出来る様にしたいの」

「どういうこと?」

「フフ、詳しいことは……秘密♪」

「な、なに? 人体実験?」

「まさか。貴方にとっても、私達にとっても、成功すればとても素晴らしいことに」

「……分かった。優しくしてね」

「何かいやらしい言い方ね」

「いや、本当マジでお願いします」

「分かった。お姉さんに全て任せなさい!」

「益々いやらしい言い方」


「「プッ、ハハハハ」」


 二人揃って笑い出す。


「それとこの実験がするまでは、貴方の過去は秘密ね」

「……そうして貰えると助かるかも」

「サラは知ってる?」

「多分……バレてる」

「よし、なら遠慮はいらない!」

「分かった」


 お互い笑顔で約束を交わす。


「あともう一つ……もう一つだけ」


 これは言うかどうか、散々迷った。今でも迷っている。


「クレアに……貴方に協力して欲しいことがある」

「?」

「カルミアが言ってた事覚えてる?」

「ん〜大体は……」

って言ってたでしょ?」


 賛同者と聞き表情が引き締まる。


「こんな事態になる前から、たまに……たまにだけどある人物に「違和感」を感じる事があったの。それは普段の何気ない会話、何気ない仕草、何げない動き」


 一点を見つめ、一つ一つずつ心の中で思い出しながら話ている。クレアも先程とは打って変わった雰囲気を察して、真剣な表情でエマの話を聞いている。


「別に何かあったわけでもない。だからと言ってを疑う理由にもならない……」

「…………」

「でもこんな事態になってから、彼女の顔がちょくちょく思い浮かぶの……」

「…………」

「カルミアが……途中で言うのをやめた人って……」



「多分…………アリス……それとあともう一人……」




 …………




「…………分かった」

「ごめんね。巻き込むみたいで」


(……エマ〜、ちょっといいかい、な?)


 丁度区切りが良い所にノアからの通信。回線を元に戻す。


(どした?)

(……ボツ郎が鹵獲した気象コントロール装置なんだけど、な)

(うん)

(……政府が使ってる機器を改造した物だった、のだ)

(正規品の改造。という事は「辿たどれない」ね)

(……うん。あと残骸だけど、ね。これも手掛かりは残ってなかった、ぞ)

(そう。残念)


 ノアが言うのだから間違いないのだろう。


(……ただし、跳躍関連装置と艦AI以外の殆どが手に入った、よ)

(楽しみが増えたんじゃない?)

(……いい、の?)

(有効活用してね)

(……わ〜い。嬉しい、な〜)

(あ! 後で話がある)

(……分かった、よ〜)


 ノアとの会話を終えるとほぼ同時にクレアも紅茶を飲み終えた。

 私も急いで自分の紅茶を飲み干す。


「んじゃ、協力よろしく!」

「あいよ、可愛いエマちゃんのためだ、任せなさい!」


『ただいま〜!』

『今戻りました〜!』


 ちょうどシャーリーとランも帰ってきた。


「んじゃ、みんなを出迎えに行きましょうか!」




 この時エマもノアもクレアでさえも、普段なら気付くであろう「貴重な情報」を聞き流してしまうという「凡ミス」を犯してしまう。

 数日後、この凡ミスによりエマは災厄に見舞われるのであった……

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