第24話 シャーリー復活!


 早速四人揃って医務室へと向かう。

 途中、アルテミスからシャーリー艦の点検も終了したとの報告を受けた。

 AIも含めた全項目を念入りにチェックしたが、ソフィアの時のような「異物」は見当たらなかったとの事。

 今回は基地設備を使用したので、探索艦が行う「検閲」とは比較にならないほど早く終わる筈……だったのだが予定よりも時間が掛かった。

 後にそのことをアルテミスに尋ねたところ、例の「信号」を調べていたからと教えてくれた。

 シャーリー艦を発見するキッカケとなったあの「信号」だが、元来探索艦には設定されていなかったものらしい。さらに「何か」に反応して作動し始めた形跡が見つかったとのことで、それに対する検査・試験に時間を要してしまったとのことだった。


 調査の結果、判明したのは正体不明のプログラムの作動による「ただの信号」だったという事だけ。

 探索艦搭載の電波発信機を利用したものでいつ仕組まれたのか、さらに作動条件や目的などは不明なままであった。


 医務室に入ると一番手前のカプセルに上半身を起こしたシャーリーが目に入る。

 白色の薄い病衣を着てボーと俯いているシャーリー。


「「「シャーリーーー!」」」


 名を呼びながら駆け寄る周りを囲む

 呼ばれたシャーリーはゆっくりと顔を上げ私達に焦点が合っていない目をこちらに向けてくる。

 順番に一人ずつ、確かめるように私達の顔を見回した後に、部屋の中に目を向けた。


「ここは……基地?」


 最後にポツリと呟く。


「そうここは基地ホーム。帰ってきたの!」


 シャーリーの手を握り、力強く答える。


「私……何で基地に……いるの?」


 握られた手に目線を移し小声で聞いてきた。



 ──そっか、事情が分からないんだね。どこから説明しようか……



「どこまで覚えてる? ゆっくりでいいから教えて」


 尋ねると握られた手を見つめたまま暫く黙り込む。


「……跳躍を終えて……エリスと……目標の探査を開始して……エリスが「遺跡」の数値取りで、私が惑星全体の撮影をするのに……周回を始めた……の」


 一つ一つを思い出しながら小声で話す。その間も握られた手に視線を向けたまま。


「……丁度惑星の裏側に来た時に……エリスの叫び声が聞こえて……急いで向かったんだけど……姿が何処にもなくて」


 話の途中から握られた手が手が震えだす。


「エリスから……送られてきていた数値は……始めは「外れ」の値だった……けど叫び声の後に突然数値が跳ね上がって……でもエリスが心配だったから……先にエリスを探すことにしたの」


「いっぱい探した……星系内を全部……主星の中まで……でも……どこにもいなかった」


「それでお姉様を通してサラ主任に聞いてもらったら「気にするな。お前は作業を続けろ」って」


「だからお姉様に判断を仰いだら……お姉様も「気にしないで探査を続けなさい」って!」


「みんな……エリスが……仲間がいなくなったのに……「気にするな」って!」


「どうしたらいいか……でも「命令」だしお姉様も続けなさいって……だから……探査を続けたの……」


 ついには涙を流し始める。それでも話しは続けた。


「それで……仕方なく撮影を再開したところで……突然球体内コックピットが真っ暗になって……艦が動かなくなって…………あ、あれ……? な、何か……違……う? ……そうエリスは? エリスはどこ⁈ 何で私ここにいるの⁈」


 話の途中で動きが止まり何かを思い出そうとしていたが、思い出す前にエリスが気になったのか泣きながら縋り付いてきた。


 シャーリーにとって姉であるシェリーは絶対的な存在。彼女が姉を心の底から尊敬しているのを、ここにいる四人は知っている。

 またシェリーも妹の模範足ろうと日々努力している姿を見ている。

 そおおなシェリーが「仲間」の異変を放置するような「異質」な発言を妹に対してした。


 これは今までのシェリーではあり得ない発言であり、同時に妹の「望み」を無下にした行動。

 一途の望みをかけて期待を寄せた姉に裏切られる形に、真面目なシャーリーは大いに苦悩したことだろうし、その時のシャーリーの気持ちを思うとたまれなくなってくる。


 もしその場にいたのがシャーリーでは無く私だったらエリーやサラの命令なんぞ無視してでも探し回っていたに違いない。


 だが同時にシェリーの言動に疑問が湧いてくる。

 不義を嫌う彼女は疑問に感じたら主任であろうと、あのローナでさえも、正面切って自らの意見述べる気丈な性格の持ち主。

 サラの立場なら何かしらの事情で「そんな発言」をするかもしれないが、清廉潔白を「地」で行くような性格のシェリーがその命令に追従するとは思えないのだ。



 ──何か裏がある。だが今は落ち着かせるのが優先。



 震えるシャーリーの手を優しく握る。


「シャーリー落ち着いて聞いて? ここが基地ホームなのは分かるよね?」

「……うん」


「私達の事も分かるよね?」

「うん」


「あなたはエリスと一緒に探索に行った」

「うん」


「私達通常任務の四人は別々に出掛けた」

「うん」


「あなた達の班は途中ではぐれた」

「……うん」


 ここまでは間違えようのない事実。ここから先は判明している事実を伝えてゆく。


「私達はちょっと事情があって私の所に集まった」

「…………事情」


「私達は派遣先で長時間待機してから基地ここに戻ったの。そうしたら基地がめちゃくちゃでね。あれから三日経ってる」

「……めちゃくちゃ? 三日?」


「そう三日。昨日はマキとノア、今日は私とノアで貴方達を探しに行ったの。そうしたら偶然貴方を見つけた」

「…………」


「「遺跡」がない方の惑星の海底で貴方を見つけた。それとエリスは……見つからなかった」

「……海底……」


「そう。そしてあなたを連れてここに戻ってきた」

「…………」


 混乱しているのは深く考えすぎだから。

 相手に合わせ、考えなくて済む簡単な話題から始め、一旦思考放棄をさせた上で事実のみを伝えるのが落ち着き取り戻す近道。その際、何が原因かが分かっていればその原因には触れないように注意する。

 よく言われる、気を紛らわしたり、関係の無い話題を振ったり、脅したりするのはその場凌ぎに過ぎず根本解決にはならないし、一歩間違えれば事態の悪化に繋がるのでお勧めしない。

 なので基本通り、詳細は言わずに掻い摘んで説明した。

 因みにこのやり方は新人教育担当を任された際にラーナから「手取り足取り」教えて貰った。


 その成果が出た様で、シャーリーの表情に落ち着きが出てきた。

 シャーリーの性格を考え最後の一押し。


「貴方も色々あったよね。でも貴方は基地ホームに戻っているから安心して。私達の方も色々あってお迎えに行くのがだいぶ遅くなっちゃた。三日も待たせてゴメンね」


 微笑みながら手をゆっくり、そして握り直す。


「……ううん。いえ、あ、ありがとうございます。エマさん、そちらは一体何があったの? い、いえ何かあったんですか?」


 やっといつもの口調、そして気遣いが出来るまでに戻ってくれた。ここまできたらもう大丈夫。シェリーが絡まなければ大抵の事は自力で乗り越えられる。

 その証拠に同期で親友のマキの頬が緩んでいる。


「いや〜戻ったら基地がボコボコでな。サラ達は瀕死でウチらも分けわからんのや〜」

「え? 主任が?」


「も〜マキさんったら〜それ言わなくても~。シャーリーさん、今はもう大丈夫ですよ」

「そうなの?」


 マキだけでなくランも笑顔で接してフォローしてくれた。


「……少しは状況が分かってきた、な」

「そうね」


 私にだけ聞こえるようにノアが呟く。それに頷き返す。


「……あの……他の人達はどこに?」

「「「…………」」」


 四人共顔を見合わせて黙りこむ。

 教えないワケにはいかないので代表して口を開けた。




「私達が戻って来たときには既にいなかったの」




 シャーリーは筋力が僅かに筋力が落ちていただけで、肉体面に問題は見当たらなかった。

 元々体を鍛えていたのと持ち前のポジティブ思考も幸いし、夕方には依然と変わらぬ姿に戻っていた。

 なので心理面を考慮し自室に帰る許可を出した。


 ただ無理をしている可能性を考慮し、アルテミスには二・三日の間はシャーリーを「二十四時間監視」し、僅かでも異常が見られたら直ぐに報告するようにと頼んでおく。


 それとは別に就寝とトイレ以外は誰かしらが付き添うことにした。

 向こうでの話を聞いて、一人にするのは良くないと判断しての措置だ。

 出来るだけ本人の意思を尊重し同行者をする者を選ばせたら何故か私を選択する事が多かった……


 その日の夜は早めに夕食を食べた。その際「翌日は丸一日休息日」とし、今日は帰還祝いになどはせずに自室で休むようにと指示をする。

 その際にマキがシャーリーのフォローをしておきたいと言ってきたので「早めに就寝するなら」と条件付きで許可を出す。


 居住区エリアで皆と分かれ、自室で風呂に入ってから私服に着替える。

 皆には早めに休むようにとは言ったが私にはまだやる事が残っているから。

 なので部屋を出て、一人通路を歩いて目的の部屋へ向った。







 翌日。とある事情が判明し数日間は基地から離れられなくなった。



「はぁはぁはぁはぁ、み、みんな早いやんけ〜」


 息を切らしながら私の後をヨロヨロと付いてくる。


「前のソレが重たすぎるんじゃないの?」


 先頭で器用に後ろ向きで走るシャーリー。最後尾のマキの胸を見ながら揶揄う余裕。


 うん確かに重たそう。


「ハァハァ、いや、マキさんはただの運動不足です」


 私の前を走っているランは汗をかいてはいるが疲れていなさそう。


「……若さの勝利~だぜ~」


 ランの前を走るノアはまだまだ余裕がありそう。


「そんなにキツくないですよね〜? もう一周行きません?」


 腕と腰におもしをつけているシャーリーが一番余裕がありそう。


 ってゆーか、それ付けてよく後ろ向きで走れるな……



「とある事情」だが、アルテミス達がメインAIの仕上げの作業に入ったため、今日と明日は宇宙に出れなくなった。

 朝食後のミーティングで伝え、それを知ったシャーリーから「午前中は全員参加でのトレーニングをしましょう!」との提案が上がる。


「突然どしたの?」と理由を聞くと「皆さん太りましたよね?」と……


 このままではシャーリーにと大慌てで反対したのは、マキ(20)と私(23)の年長組。

 というのも二人、ではなく二組とも根本的に運動が大嫌い。

 ましてや常軌を逸したシャリーの鍛え方では瞬殺されるとその場で頑なに抵抗したが、ラン(18)とノア(18)の二人が賛成に回ってしまい、抵抗虚しく多数決で押し切られてしまう。


 まあ探索者は身体強化が出来ない上にメインの活動の場は無重力空間。筋力低下や体重増加は怪我や事故に繋がるので日々のトレーニングが義務化されている。


 その探索者になるには「一部の例外」を除き、探索者候補生育成施設の卒業が前提条件となる。

 その育成施設では訓練開始初日から「習慣」になるようにとカリキュラムにトレーニングが取り入れられているそうで、誰もが例外なくトレーニングの基礎を叩き込まれるそうな。

 ここにいる四人は皆そこの卒業生。なので訓練を怠った際のデメリットを知っている。

 なのでマキも渋々ながらも受け入れていた。


 だが「一部の例外」である私達姉妹だけはトレーニングの重要性を、探索者になってから「優しいラーナ」に教えられた。

 その辺の経緯は追々話すが、基地ホームに来てから「優しいラーナ」に基礎を叩き込まれたので、マキの「運動嫌い」と異なる。


 ただ重要性は身をもって体験しているので訓練をすること自体に異論はない。

 だが人には得手不得手が存在するしそれぞれ体質も異なる。

 例えば先頭を爆走していたシャーリーは運動が得意。片や殿でヨロヨロと追い掛けるマキは運動が大の苦手。かくいう私もマキ程ではないが運動嫌い。

 運動が苦手な私やマキが後先考えずに飲み食いしていれば、程なく指摘通りの体に変わってしまう。

 ランもどちらかと言えば運動が得意な方ではない。ただ文句も言わずにやる事はしっかりとこなす頑張り屋さん。

 今回はここ数日、甘いものや酒を飲み過ぎで体重が増えただけで、若いのだから軽い運動で簡単に減らせる。


 だがノアは我々とは違った。

 三食とも健康に良いとされる「ワショク」を選び、食生活に気を使っているように見えるが、間食は例外なく甘いモノだらけで酒も飲む。

 トレーニングにしても過激とは程遠いペースで、澄まし顔にて淡々とこなすだけ。なのに太る気配は一向に見られない。


 そしてトレーニング大好きっ子シャーリー(20)だが、普段の訓練内容は姉と同じで体に重しまでつけて毎日欠かさずにトレーニングをしている。

 かなり前、カンカンと基地内にデカイ音が響き渡ったので皆が何事か? と調べたら、鉄下駄履いた姉妹が通路を軽快に走っていたのを目撃した。

 同じメニューをこなす姉妹だが、シェリーの腹筋は割れており、シャーリーの腹筋は割れていない。


 何が言いたいかというと、トレーニングは必要だが、やり方は人それぞれであり、適切なトレーニング量も人それぞれ。全てをひとくぐりにして「同じ土俵」で訓練されたらたまったもんじゃ無い! と声を大にして主張したい……


 だが悲しいかな、私は先輩であり新人教育担当と我儘を言えない立場。正直、ふくよかになった二の腕もなんとかしたい。だから後輩の善意を無下には出来ない。


 だが運動はしたくない。


 葛藤の狭間で揺れ動いたが最後は目に炎を宿した脳筋娘に根負けし、嫌々ながらもトレーニングをすることにした。


 上機嫌なシャーリーの提案で、全員同じ「体操服」を作ることになり、ファッションショップに皆で出掛けた。

 そして「お約束」とのことで、胸の部分には名前が書かれた白い布製のネームプレートが強制装着された体操服を自腹で作らされた。


 この体操服に関して、シャリーは普段着に近い割合で着ているので彼女に関しては違和感はない。

 他の四人だが、小柄で起伏が殆どないランには凄く似合った。

 小柄だが出るところはしっかり出ているノアは……若いし色気が無いので問題ない。

 私は……歳に目を瞑れば我慢出来る、と思う。


 問題はコイツ。マキが着ると……かなりヤバかった。

 色気が無いのを差し引いても……かなりヤバかった。


 まあ基地には私達しかいなし皆、同性。良しとした。


 ってゆーか、運動しないであの体型は反則! サラはもっと反則‼︎ みんなもげればいいんだわさ!



 準備が整い軽い準備運動をしてからスタート。

 先ずは走り込みからと基地外周を走り終えたところ。

 外周とは基地外装の「内側」に沿って作業用通路が張り巡らされており、訓練やイベントに気まぐれ程度で使われていた。


 その外周を迷うことなく突き進む脳筋娘シャーリー

 思うにこのルートは姉妹のトレーニングコースとして普段から使っているのだろう、わざと険しい道を選んで進んでいるように思えた。

 そのせいで私とマキはゴールに辿り着けずに救助を待つことになる……




 午後は当初の宣言通りに安息時間とし、基地内限定だが自由行動とした。


 時間になったので皆で夕食を一緒に食べてそれぞれ自室へ引き上げてゆく。

 そして夜も更けたタイミングで部屋を出る。

 行く先は昨日と同じサラがいる医務室。

 昨日と同じ道を歩きながら明日の予定を考える。


 予定では明日の夕方には、待ちに待ったメイン電源とメインAIの二大柱が完全復活する。

 電源炉は既にフル稼働に備えた試運転の真っ最中で各部に電力を供給を再開し出した。それに伴い今まで全力運転状態だったサブ電源三系統も協調運転へと移行、出力が絞られ負荷が大幅に軽減された。

 胃現在は様子見の試運転。本格稼動に移れば転送装置が使える下地が整い、今まで制限されていた活動が一気に改善されるだろう。


 メインAIも本体の修理・交換は済んでおり、現在はシステムの新構築が急ピッチで行われている。

 この作業の補助でアルテミスを頭に各探索艦のAIがサポートに当たった為に基地を容易に離れられなくなった。


 本来ならシステムの再構築には探索部本部から専門の技術者が「基本システム」を携えて来て貰うのだが、運良くDエリア基地から「基本システム」が貰えたので本部に行く手間が省けた。

 これが済めば転送装置を始め、ドリーにいる分身との接続実験や「異物」の本格解析、さらにはノアが秘密裏にやっている色々な装備の開発が一気に進むと思う。


 廃墟から見つけた毛髪の解析は大した手間もかからず数分で終了したが、照合の方は未だに始まってすらいない。

 この件に関しては敢えて作業の優先順位をかなり下げて調べさせていた。

 理由としては劣化していた二本の毛髪は、対象になる人間が数百年分も遡る必要があるし、該当がなければさらに数千億人分まで対象を広げることになる。

 いくら基地AIが高性能とはいえ、関係あるかないか分からないモノにリソースを振りたくないので優先度を下げた。


 金髪に関しても同様。

 先ず探索部が探査中の領域に、他部門や民間人が立入るのはあり得ない。

 あり得ないといえば今回の依頼の発端に「採掘団が……」と言っていたが……このご時世に「有り得ない偶然」が重なるのはどう見てもおかしい。

 なのであの毛髪は探索者のモノと見て間違いない。


 その探索者だが皆、通告なく他エリアに行かないし、行くなら事前に該当エリアマスターに願い出る筈。

 独断だと仮定しても、所属エリアマスターが許可していない宙域に艦を向かわせようとしたら艦AIが従わないし、調査中の惑星に堂々と立ち入る様な奴は始めから探索者に選ばれることはない……筈だ。


「筈」と弱気になったのは今まで他エリアの探索者と大して接点が無かったから。

 今までいち探索者でしかなかった自分は他エリアを知らないのだから、自エリアと同じとは言い切れない。

 ましてや不信感が募っている現状では信じろというのは無理がある。


 毛髪の主は限りなく探索者の可能性が高い。だが探索者ではない可能性も考慮せざるを得ない現状では、対象を絞って調べさせては意味が無い。


 ただこの手の「オチ」は想像がつくし「あの方」に関係している者の毛髪には違いない。だが仮に判明したところで何か出来る訳でもない。


「あの方関連」と言うことは照合結果オチはどうせ「お教えできません」となるに決まっている。

 つまり、急いでも急がなくても結果は一緒。

 そしてDエリア基地から貰ったデータの中にあった「あの方」や「消滅」に関する情報はアルテミスから教えて貰った情報と差異はないらしく、こちらの件も成り行きに任せるしかなさそうだ。


 それらの理由からリソースを割いてまで調べさせる気が湧かなかったのだ。


 基地の修理もほぼ終わっており、原材料不足もエマのお陰で? 解消された。

「消失」により失われたアンドロイドやロボットの製造も明日以降に開始の予定。

 ついでにスパや娯楽施設の大外装も実行中。

 おばちゃんがいる職員食堂と個人的お気に入り施設以外で自分が行く可能性がある店舗は、エリアマスター権限を行使して手を加えてしまった。


 サラの居ぬ間に全ての改修を終えないと……



 気付けばサラが入っているカプセルの脇で座っていた。

 基地職員の班長達の怪我は完治しているのだが、何故か未だに目を覚まさない。

 強制的に覚醒させられる事も出来るが、アルテミスが無理に起こさない方が良いのでは? と助言してきたので、本人達には悪いがそのまま寝かせている。

 理由はドリーに家族がいる者もおり、起きた時の精神的ダメージを考慮した方がいいと。


 その辺のサポートは、悪いがサラにやって貰うつもり。

 正直そこまで面倒見切れないし、どうせサラが目覚めればエリアマスターの肩書はサラに戻る。

 責任は上司サラが負うべき。その為に高い給料を貰っているのだから。

 ってことは給料減るのか……


 そのサラは私の不在中に切断部の移植は済ませてあり、外見上は依然と変わりない姿まで戻っている。

 今は復帰後にすぐ動ける様に、カプセル内で低電圧を利用した筋力のリハビリを実施中。

 リハビリ中は肢体がピクピク動くので見ていて飽きがこない。


 しかし相変わらずの「ないすばでぃー」だ。早めにお約束のイタズラ書きをしてしまおう。


 カプセル内に満たされている治療用薬液の色も、ピンク色から透明に変わり、治療は済んでいるのが一目で分かる。

 モニターを見ると、後二日くらいで覚醒させられそうだ。


 ここに来たのは自分に課した日課。その日の出来事をサラが起きるまで毎日ここに来て報告すると決めたから。

 日一日と良くなってくるサラを見ていると元気づけられるのも理由の一つ。

 変わった事といえば、あの「所属不明艦」が前日の夕方以降、頻繁に基地周辺に出没する様になっていた。

 出没位置や時間に決まりはなく、滞在時間も数分から1時間くらいと幅がある。


 基地自体はノアが新たに開発した隠蔽迷彩/改Ⅱ(面倒くさいので隠蔽迷彩で言い方を統一した)をシャーリー発見前に施したので、多分だかこちらをロストしていると思う。

 相手からしてみれば基地がなくなっている様に見えている筈なので、不思議がっているかもしれない。

 向こうから接触してくる様子は見られないし余計な手間は増やしたくないので、こちらからの接触は一切を控えている。


 つまりは放置。


 基地に入ってこようとした場合の対策も一応は考えてあるが、探索艦相手にどこまで通用するかは疑問が残る。なのでそのような行動に移らないことを祈るばかり。

 ただアイツは幸いにも基地から半径五光秒以内には絶対に近寄ってこなかった。

 企みが成功している証と思おう。

 この件は皆も当然知っているが、余計な不安を与えたくなかったので来訪をいちいち伝えてはいない。

 その不明艦も夕食以降見掛けていない、というかもう来なくていいって。


(エマ、また来たよ)


 言っているそばから。

 全く就寝間際だというのに、一体何が目的なのやら……


(あ、帰った)


 そうですか、そりゃ良ござんした。今度来る時はアポ取ってからにしてくれ……

 全く、ちょくちょく来るもんだから精神的に休まる暇がない。

 救いは就寝中には現れなかったこと。



 ──そうか。なら



 今に見てろよ〜

 さて、今日はもう現れないだろう。そろそろ引き上げて寝るとしますか。





 さらに翌日。シャーリーの精神面を考慮し今日も午前中は前日と同じくトレーニングに勤しむことにした。


 昨日の疲れが抜けきらなかったのか、それとも別の理由からかは分からないが、年配二人組のタイムは「予想通り」に落ちた。

 筋トレ自体は三日おきに行っているが実際の道を走るトレーニングは昨日は久方ぶりだった。なのでタイムが伸びないのは致し方ないのかも知れないが、それは残りの二人も同じ条件。

 残りの二人はランもノアも前日と同じペースで走り抜く。

 特にノアで終始マイペースで息を乱さず走り抜いた。


「さ、汗をかいたのでサッパリしに行きましょう!」


 五位ビリがゴールに着くと、待っていたシャーリーが先頭を切って歩き出す。


「はあはあはあはあ。お、お願い〜もうちょっと休ませて〜」


 もう体力の限界! とちょっとだけ駄々をコネてみた。

 ビリだったマキは私以上に深刻で、到着と同時に床で大の字になり肩で息をする酸欠状態。


「仕方ない」


 シャーリーがランとノアにアイコンタクトをする。

 すると二人は探索部式の敬礼をしてからマキの足を一本ずつ持つと引きずりながら連行してゆく。

 その間にシャーリーは私に近寄り立ち上がる手伝いをしてくれる。

 さらにフラつく私に寄り添い一緒に歩いてくれた。


「な、なしてウチだけこんな扱いなん~~~~」


 上着が捲れて「ぶらじゃー」丸出し。抵抗出来ずに連行されていった。

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