第17話 コント1?


「みんな準備はOK?」

『おう』『はい』『……いいよ〜ん』


 現在、基地の前で二艦ずつ計四艦が漆黒の円錐型にて待機している。


(アル、出発前に言っておく)

(はい?)

(Bエリア以外では私の権限レベルは「3」にしておいて)

(何故ですか?)

(出来ない?)

(可能です)

(私が指示しない限りは「ただの美人な探索者お姉さん」で通して)

(……了解)

(それと昨日の約束忘れないでよ)

(エマも)

(OK。それと昨日お願いしといたヤツは終わってるよね?)

(完璧に)


 よし、それじゃ行きますかね。


 マキとノアを順に見る。


「じゃあそっちは任せた」

『『了解』』


 次にランを見る。


「こっちもいくわよ。ランちゃん?」

『はい』


「それじゃ……GO‼︎」


 打ち合わせ通り、マキノアはシェリー達の痕跡探しに。私とランはDエリアが担当した宙域に向かった。




 ・・・・・・




「ランちゃん、ボーとしてどしたの?」


 目標領域に到着直後、声を掛けたが反応が薄かった。

 二度目の問い掛けでやっと我に返る。


『ご、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていて』

「そう? それならいいんだけど」


 跳躍自体は三十分程度。その間に何かあったのかな?


 先ず星系の外縁ギリギリに跳躍。

 彗星の卵となる岩石の影でノアが施してくれた「イナイイナイバージョン君(隠蔽迷彩「改」)」を作動した状態で(漆黒の卵型)にて隠密行動中。

 さらに念には念をと適当な大きさの岩石に身を隠し、通信や電波の一切を遮断。そこから艦の一部を延ばしてラン艦と物理的に接続。「手」を繋いだ「有線状態」にてお互いの情報のやり取りをしている。


 肝心の情報収集だが艦の外装を構成している流体物質の特性を利用。一部をカタツムリの目の様にニョキニョキっと伸ばして様子を伺う。

 勿論、反重力炉の出力を最小まで絞った上で。


 この過剰とも思える行動には理由がある。

 対象領域はここから遥か彼方と距離がある為、各種電磁波や重力波がここに届くのには何日もかかるのはご存知の通り。

 それを踏まえた上で作戦開始から日が浅く、ここまで届いている該当領域の情報はあの二重惑星が「確かに存在している」という証拠だけ。

 なのでここまで過敏になる必要はないのかもしれないが、昨夜のような「所属不明艦」がどこに潜んでいるかは分からないし、もしかしたら「運悪く」傍に浮かんでいる岩石の裏側で待ち構えていたかもしれない。

 そいつに見つかるまえに見つけられるかは運次第。


 仲間がいない、これ以上の損害は出せない状況。

 初っ端さえ乗り越えられれば「詰み」にはなりにくい。なので用心するに越したことはない。


 データではこの星系は主星と対象となる二重惑星、その外側に巨大な木星型ガス惑星が一つの合計4つだけで、外縁(カイパーベルト)まで全く遮る物が見事に無い。

 その外縁付近には他星系と同様に星のなり損ないの巨大岩石や氷が他の星系同様に大量に漂っていた。


 現在その一つに隠れている。

 そばにはそこそこ大きな氷の塊等が漂っていて、主星の僅かな光をキラキラと反射させ、私の心を和ませてくれていた。


「う〜ん。流石にちょっと遠すぎるよね〜」


 対象区域に誰かがいたとしても、そこの状況がここまで伝わるのを待っていられるほど暇ではない。


「仕方ない。取り敢えずあのガス惑星までこのまま行きましょう」

『はい』


 運が良い事に主星を軸に惑星がほぼ一直線に並んでいる。それを利用し反重力推進の力で光速よりも早く駆け抜けようという作戦に打って出る。

 難点は反重力炉から発生する重力震が漏れ出てしまう点。出力を上げれば上げるほど周囲に撒き散らす。

 だがあのガス惑星が邪魔してくれる。遮りきれない重力震はどうしようもないが、光速に比べればゆっくり伝わるので調査を終えるくらいの余裕は有るだろう。


 判断が鈍らない内に「手」を繋いだまま隠れている岩石から艦を横スライドさせると一気に最大加速。僅か十秒程の一瞬でガス惑星の影に到達した。


「エマ、二重惑星そばに


 到着と同時にアルが呟く。


「何だか分かる?」

「不明」


「何か」がある、のは分かったが余りにも早すぎて、アルテミスをもってしてもその「何か」を判別出来なかったのだろう。


「ランちゃんそっちはどう?」

『こちらも同じです。ね? シャルロット』

『はいお嬢様』


 ラン艦AIの「シャルロット」も同意見らしい。


「見えた範囲に動きは?」

「他は何も」

「ま、ここにいたらいつまで経っても分からない。とりあえず反対側に抜けようかね」


 そのままガス惑星の表層にあたる気体の中へと入っていく。この時点から進行方向だけでなく、全周囲探査に切り替える。

 ガス惑星の中心部にある核を避け、重い気体と流体金属の部分を通り抜け、二重惑星側の表面付近で停止する。

 この位置を選んだ理由はこの先に誰かいた場合、これ以上「上昇」すると光学観測で発見される恐れがあるから。


 隠蔽迷彩「改」を継続しつつ、念のため艦表面もガス惑星と同色のブラウンにして迷彩効果を上げておく。

 ここで「目と耳」となる各種センサーを纏めた「触角」を限界まで伸ばす。

 ここまで来ればかなり正確に状況が掴めるはずだ。


「どう? さっきの「何か」は分かった?」

『……残骸……ですかね。探索艦の』


 データからランが推測する。

 位置は二重惑星のそば……からかなり離れており、どちらかと言えばこちらにかなり近い。


『オーホホホ! 皆様、他にも「活きの良い探索艦」がウロチョロしておりますわ!』


 シャルロットが独特の言い回しでその「活きの良い」探索艦をモニターに出してくれた。


「活きの良い探索艦」は丁度、跳躍してきたばかりでここからはだいぶ離れている。残骸とは約十光秒とこちらに比べれば遥かに近い距離。

 その艦は三十秒程漆黒色の卵型で停止していたが、やがで白色へと変わり残骸のすぐ傍まで行くと球体へと形状を変化させて停止した。


 その数1。


 この艦は私達の所に来た奴か、その仲間かのどちらかだと判断。その直感に従いリアクションは起こさず様子を伺うことにした。


『いったい何をしているのでしょうか……』


 ランの呟き声。


「分からない。接触は……していないみたいね」


 流石に百五十光秒の距離だと如何な探索艦の機器であってもだいぶブレている。

 因みに三種類の観測機から得た情報に補正を掛けて何とか色や形が分かる程度。

 それでも二つの間に距離があるのが見てとれた。


 眺めること約一分。

 漆黒の円錐型に変形、先端をへと向けると跳躍した。

 因みに今見ている光景は二分以上前の出来事。なので実際には何者かが去って二分は経過している。



 ──消えた方向は……やはり総本部や探索部本部がある母星、つまり「地球」がある方向。まあ今は関わるのはやめておこう。



「アル、他に動くものは?」

「特にありません」

『プッ』

「?」


 ランが何故だか吹き出した。


「どしたの?」

『な、なんでもありません‼︎』


 笑いを堪えている。どないした? ま、いいか。


「それじゃ行こう!」


 戻って来る前に行動を起こそうと、艦を漆黒色に変えてから一気に銀色の残骸の傍まで飛ぶ。


「ランちゃん、トラップに注意しつつ残骸を調べて」

『はい了解ですぅ!』


 機嫌良さげが継続中。


「アルは周囲警戒と「遺跡」の探査を。動かずにここから」

「了解」


 矢継ぎ早に指示を出す。

 可能な限り素早くここから立ち去りたい。一応隠蔽モードで「手」は繋いだままだがここに来るまで盛大に「反重力推進」を使い「重力震」を撒き散らしてしまったので、隠れて観察している者がいれば見つかっているだろう。それとさっきの奴が戻って来ないとも限らない。


 ついでに球体内の全方位モニターを作動させる。

 脇にはラン艦と円形に、だが幾つかに。そして小さいがクッキリと「二重惑星」の姿が映っていた。



 ──この惑星にも遺跡が……



 空間モニターに映し出されている観測報告につい見入ってしまう。

 そこに沈んだ顔のランから報告が入る。


『エマさん。この艦は……うちのエリアではない……ですね』

「……もしかしてAIが?」

『見当たりません。動力も搭乗員も……』


 ランは一目でこの結果を察していたんだ。だから残骸って言ったんだ。

 流体物質を制御しているAIが無くなれば、その時の状況にもよるが艦の形状の保持は不可能。つまりラン自身も目を背けたくなる予想が正しかったと。


『オ〜ホホホ! 宝箱を発見しましたわ! 今、トラップ解除を……この程度、わたくしにかかれば造作もない……と開きました! これより内部を調べますので少々お待ちくださいませ‼︎』


 空気が読めるあるじに比べてコイツは普段にも増して……

 多分「倉庫」に圧縮保管されていた持ち物を調べているのだろう。未だにシャルロットの言い回しには慣れない。どうしてランはこんな性格にしたんだ?


「ランちゃんもしかして中心、いや搭乗員がいた辺りが丸々無くなってない? 基地みたいな感じに」

『……そんな感じですね。何か可哀想……』


 そうだよね。ここでは人が被害に遭っている。

 あ、そういえばサラ達も被害者か……


 モだが沈んでばかりもいられない。搭乗員がいない探索艦を見付けたことにより、やならければならないことが一つ増えた。

 その前にこの艦がDエリア所属だと確かめなければならない。AIが健全な状態で残っていれば確認など直ぐに済むが、無いとなれば残骸から手掛かりを探すしかない。

 ただ確認さえ取れればDエリアへ行く「口実」となる。


 各種の数値が並ぶ空間モニターから残骸へ。気持ちを切り替え二重惑星が映ったモニターへと目を向ける。

 ここの惑星は山と森林と海がほぼ等分。いくつかの山の標高は1万mを超えている。

 気候は安定しているようで、海岸線ギリギリまで森林が延びているのが見えた。

 もう一方の惑星は海が大半だが、陸地も点々と存在しているのが見えた。


 さて、ここの遺跡はどこにあるのかな……


「「遺跡」の反応があるのはここですね」


 アルがモニターで目的地付近を表示する。


「……どこ?」


 映っているのは一際大きな山の三合目付近の岩肌剥き出し、結構険しい崖が写っていた。

 その部分や周囲を拡大しても「遺跡」らしい建造物は見当たらない。


「現在位置からでは見えません。目標は山の内部にあります」

「ん? 山の中ってこと⁈」

「はい」

「そこまでどうやって?」

「地上に降りれば」

「いやそうじゃなくて山の中なんでしょ? 「遺跡」までのルートは?」

「問題ありません。直ぐ脇に目的地まで続く横穴があります。ただし入口が急な斜面にあるのと通路が上り坂となるので目的地に辿り着くには少々時間が掛りますが」


「あ、そう……」


 初めからそう言ってくれ。ここは得意の穴掘りの出番や! とか期待しちまったよ。

 でも私の穴掘りの場合、満足した作業を終えた後は跡形もなくなるやり方だからね。遺跡もろとも……ここではやりたくない。

 ……まずい。暫く掘ってないんでウズウズしてきたよ。


 そんな私の精神状態を知ってか知らずか、地下空間の構造を簡易的に表した図にモニターが切り替わる。


 アルテミスの言う通り入口から目的地となる山の中心付近にある一際大きな空間まで地下の通路? らしき穴が五百mほど延びており緩やかな上り坂となっていた。

 因みにこの簡易図は「趣味」に使われているモノを「まんま」流用している。


「一番奥に人工物はある?」

「形までは分かりませんが木質の反応はあります」


  現時点では確定には至らないが、今までの流れなら「遺跡」だろう。


『オ〜ホホホホ、つつつつ遂に埋蔵金を見つけました‼︎ お嬢様とエマ様、わたくしを誉めて下さいまし‼︎』


 ビックリした。突然の大音量で会話に割り込んでくるんだもん。

 全く、ランは何でこんな設定にしているんだ? 探索艦の宝箱の中に埋蔵金ってマリマキじゃないんだからもうちょっと真面目にやりなさいって。


『シャルロットよくやったわ! これで一歩リードね!』


 りーど? 一体何のことやら?


『はいお嬢様! このシャルロット、お嬢様のためであれば、一肌でも二肌でも、いえいえいくらでも脱ぎましょう‼︎』


 脱ぎたければいくらでも好きなだけどうぞ……じゃなかった。


「え〜と……ちょっといい?」

『……はい? 何か御用でございますかエマ様?』

「……結果が聞きたいんだけど」

『結果? ……何の? でごさいますか?』


「埋蔵金? 中身、報告」


 アルテミスが助け船を出してくれた。


『……そうでした、私とした事が! えーラン様はここ三日で1kgほど……』

『は? はぁー⁇ エマさんの前で何をバラして……ハッ!』


 急いで口を塞ぐラン。

 顔が耳まで真っ赤だ。口を押さえている手まで。


(アル、シャルロットから結果抜き取って)

(了解)


 はぁ~なんだかな~。


 仲良く「漫才」をやっている二人は放っておき、残骸の中にあった圧縮倉庫のデータをモニターに表示させる。

 リストの中に予備の宇宙服がありそこから身元が判明した。

 その宇宙服に内蔵されている個体ナンバーを基に、登録してある探索者リストと照合するとDエリア所属の「ソフィア」という女性の詳細が表示された。


 データから黒髪ロングでランと同じ「スレンダー」な体型の十八才。身長はローナより少しだけ大きい。

 第一印象はとても大人しそうな可愛らしい女の子。


 他にも倉庫の中にはぬいぐるみがいっぱい入っていた。大きいのから小さいものまでかなり色褪せているものもまで様々。

 多分ずっと大事にしてきた思い出の品なのだろう。


「……どうしようか、これ」

『一応この領域は侵入禁止措置扱いとなっているので、荒らされる心配はないですけど』

「……このままっていうのもね……まだ死んだと決まった訳ではないし」


 基地ホームの惨状を思い出す。

 大体応援なり救助なりが来たらこの状態で放置はあり得ない。

 痕跡が見当たらない、ということは所属元が後続を出せない状況なのではないか、と。

 だとしたらこの残骸の届け先となるDエリアにはもう誰もいないかもしれない、と。


 ……確かDエリアは最近出来たばかりでまだ人数が揃っていないと聞いたことが。


 さて、どうしたものか……

 先ほどここに来ていた所属不明艦はまた来るだろうか……来たときに残骸が無くなっていたらどう思う?


 ここに「遺体」がある訳ではない。

 冷たい様だがを届ける「義理」は無い。

 残骸を放置したら機密保持違反? 今の私には仲間以外を守る気はない。



 ──いや確定したら行く、と決めた筈。



 ………ダメだ。どうしてもネガティブな方に発想が向いてしまう……


『エマさん?』


 遠くからランの声。顔を上げモニターを見る。


『どうかされました? だいぶ思い詰めた顔をしていますよ?』

「う……ん、この「元探索艦」をどうしようかってね」

『どうするって……届けましょう? Dエリア基地へ』

「でも……ね」

『エマさんらしくないですよ? 向こうではパートナーが待っているかもしれないじゃないですか』


 ……うん、そだね。先ずは行ってみよう。行って誰も居なかったら倉庫内の私物だけでも置いてこよう。


「ありがと。ラン」


 笑顔で素直にお礼を言う。

 いきなりお礼を言われたのと、初めて「ラン」と呼び捨てされた嬉しさのあまり大きき目と口を見開いたまま固まり大粒の涙を流しだす。そのまま無い胸の前で手を組んで「神さま」に感謝の祈りを捧げだした。


 モニターからは「お嬢様! おめでとうございます‼︎」などと聞こえてきたのでボリュームを下げておいた。

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