443話 帰り道

 シュピーレン村へと戻る道中、海上を進む、各国の軍艦らしき船。

 その中でも、こちらをよく知るリベラティオの船に、魔王を討伐した事を説明しておいた。

 半信半疑のようだが、後は向こうで勝手に判断して動くだろう。


 そしてその後の帰り道は、平和そのもの。

 俺の心とは裏腹に、何事も無かったかのように空は澄み渡り、とても静かだ。


 ククルカンは心を読める。きっと俺達二人に気を使ったのだろう、時折こちらの様子を伺っていた。


 そして、帰路に着く直前──。


「このような事態になってしまったのは済まぬ。ただこれだけは言わせてくれ、お主が居てくれて誠に助かった、ありがとう」


 俺は色々と考えっぱなしで、食事も喉を通らない程だった。

 だから、中々お礼も言いづらかったのだろう。言葉を掛けてきたククルカンの表情は、どこか不安げだ。


「神様がそんな風に軽々しく頭を下げないでくれ、お互い様なんだから。ククルカンがいなければ、何もかも間に合わなかった。こちらこそありがとう」


 ミコや父さんの事で頭が一杯だった。

 そう言えばククルカンは、目的があって俺を頼ったんだったな。

 そしてその問題も、他人事ではない……。


「なぁククルカン、父さんに操られてたあの魔物達だけど……」


「うむ、命を失うまで、あのままだろうな」


 自分の父親が起こした過ちは、多くの人の命を奪っただけではなかった。

 沢山の魔物達も意思を奪われ、眠っているかの様に動けずにいる。

 否応いやおうなく、気持ちが重くなる……。


「そう……だよな」


「──だがしかし」


 少しは責められると思った。

 だが彼の続けた言葉は、否定から始まったのだ。


「しかしそれは、どんな形であれ弱肉強食の世で敗けた者達の末路。それにあの子等の命は無駄にはならぬ。生きとし生けるもの、あやつらはその者達の糧となり命は廻るのだから」


 父さんの過ちは、無かった事にはならない。それでも彼の言葉に少し、ほんの少しだけ気持ちが楽になった気がする。


「一度しか言わぬ。我は禁則事項もあるため、主の悩み、苦悩には直接は関われぬ。しかしこれだけは……。諦めるな友よ、お主ならきっと辿り着ける」


「なんだよ急に、辿り着ける? ククルカン、それはどう言う意味なんだ」


 しかしククルカンは、俺の問いに答えることはしなかった。

 彼にも立場がある。返事がないと言うことは、きっと答えれないのだろう。そんな気がした。


「目的地が見えたぞ。これで御別れだ、もう二度と会うこともあるまい」


「もう、会えないのか?」


 突然の別れの言葉。

 今の精神状態では、中々受け入れることが出来なかった。


「我は今回の事で、しばらくこの世界を離れ天界へと向かう。今回の件も、どこぞやの神が後ろで糸を引いている気がするからな」


「そうか……」


 状況は違うが、自分の元から次々と親しい知り合いが離れていく。

 それが不安で不安でたまらない……。


「──下を向くな、顔を上げろ、胸を張れ! お主が落ち込んでる顔など誰も見たくはない。我を含め、今はまだ世界に溶け込んでおるあの小娘もな?」


「今はまだ世界に溶け込んでる……。ミコが?」


 さっきから、ククルカンの言い回しに違和感を感じる。

 まるで俺にヒントでも与えているかのような……。


「さぁ、着いたぞ。主の帰るべき場所だ」


 気付くと、すでにシュピーレン村の上空だ。

 建物からは、こぞって村人達が出て来る様子がうかがえる。

 

「さよなら、ククルカン。神様にこんなこと言うのも変かもしれないけど……。元気で」


「あぁ、主も達者でな」


 ククルカンの巨大な瞳は、俺を写し出していた。

 きっと、これ以上の言葉は無粋だ。


 後ろ髪を引かれるが、これ以上は目の前の大きな友に心配をかけるだろう。

 最後に強がりでも笑顔を見せ、その後俺は、上空から皆の元へと飛び立ったのだった。

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