431話 聖刀の武器精霊 シンシ

「そう……。ミコ姉ちゃんにそんな事があったんだね?」


 ミコに関する今までの出来事を、俺はシンシに伝えた。

 ミコが、ずっとシンシが復活するのを待ち望んていた事。

 仲間救出のため魔王に挑み、あえなく負けて帰ってきた事。

 そしてその際、まんまとミコが入っていた無銘を魔王に奪われた事。


 思い出せることは全て、洗いざらい……。


「すまなかった、シンシ。俺が不甲斐ないばかりに……」


 肩を落としシンシ直視出来ないで居ると、彼は俺の空いている手を取る。


「カナデ兄ちゃんが悪い訳じゃないよ。それでどうするの? 助けに行くんだよね?」


「あぁ、この刀を仕上げた後ミコを助けに行くつもりだ。シンシ、すまないが付き合ってくれないか?」


 俺の問いかけに、シンシは「うん……良いよ」っと答える。

 しかしその返答は、どこか歯切れが悪く感じられた。


「シンシ、もしかして震えているのか?」


 よく見ると魔王が恐ろしいのか、彼の小さな体は小刻みに震えていた──。

 

「だって、その剣で魔王を倒すんでしょ? また僕、誰かを斬ったり、刺したりして、頭がごちゃごちゃになっちゃうと思うと……」


 そうか、軽率だった。

 あんなことがあったんだ、怖くないと思う方がどうにかしている。

 何で気付いてやれなかったんだよ……。俺は馬鹿か。


 心の中で自分を責めているときだ。

 シンシは笑顔で「でも大丈夫だよ。ミコちゃんの為だもん! カナデ兄ちゃん、僕頑張るからね!」っと、強がってみせる。


「……シンシ」


 ミコを助ける上で、この刀は必要不可欠だ。

 だからと言って、シンシが宿る刀に血を吸わせる事を、ミコは許しはしない……。そんな気がする。


 俺は必死で頭を悩ませた。

 ミコを助け、魔王を倒すことは絶対条件だ。

 かと言って、シンシの心を犠牲にしていい理由など、一つもない。


「……分かった、このまま仕上げるぞ!」


 魔王は無銘を手にしている。

 対抗するには、今作っているシンシの器は完成させる必要がある。


 俺は砥石を準備し、研磨を開始することにした──。



 「──出来た……。完成だ!」


 艶のある、銀色に輝く刀身。

 直刃の波紋に、均一に入ったゆったりとした反り。


 刃こぼれ一つ無い……。っと言うよりは、刃自体、ついて無いのだが。


「すまない──ガイアのおっさん、オルデカさん!」


 俺は二人に深く頭を下げた。

 刃をつければ、間違いなく名刀と呼ばれる仕上がりになっていた。

 だが、俺の勝手な判断でこのような形に収まったのだ……。頭を下げずにはいられない。


「小僧、本当にそれで良いのじゃな?」


 責められると思った……。

 しかしおっさん達は、俺を責めようとはせず。本意を問いて来たのだ。


「魔王を倒す上で、刃無くして戦うのは馬鹿馬鹿しいと思う。でもこの刀に刃を付けることは出来ない。俺の流儀に反するんだ!」


 そう、この刀を使っているシンシに合わないものを、刀匠の俺は許せはしない。

 持ち主の事を考え打たれる武器、それは帯刀が掲げるルールでもある。


「じいちゃんを越えることはできないし、刀とは言えなくなった。でも、俺は後悔してないよ」


 俺が出した答えに、シンシが申し訳なさそうな顔をしていた。

 そんな彼の肩に手を乗せ、真っ直ぐに見つめる。


「全てを救うって決めたんだ。だから気にするなシンシ。お前の心を犠牲にしてまで助けられても、ミコは喜ばない。安心しろ、例え斬れなくても魔王の魔石を砕けば良いんだ!」


 俺の答えを聞き、シンシは涙を瞳にためた。

 その姿に、魔剣堕ちした彼の姿は一欠片も見えない。


「……僕、もう誰かを斬らなくても良いんだね?」


「あぁ、斬らなくても良い。この刀を殺すためには振らないと誓うよ。命を守るために振るうさ!」


 うつむいたシンシからは涙がこぼれる。

 小さく拳を握ると「そっか……。僕でも誰かを守れるんだ」っと、呟きをもらした。


「ありがとうカナデ兄ちゃん。僕は魔法でサポートするから……。絶対、ミコ姉ちゃんを助けようね!!」


「あぁ、頼りにしてるよ。頑張ろうな、シンシ!!」


 今の彼は出来損ないなんかじゃない、今や立派な聖刀の武器精霊だ。

 ミコにも見せてやりたい、そんな日溜まりのような笑顔を俺に向けていた。

 


 

 

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