416話 目指す先


 それを見たガイアのおっさんの表情が、みるみる驚いたものへと変わって行く。

 そして──


「そ、それじゃ! アランの奴が残した書物じゃ!」


 っと、大きな声を上げたのだ!

 

 それってつまり、さっき言っていた資料の事か?


「──って、なんでルームが持ってんだよ‼」


 マジックバックからはアイテムが出せないはずだろ!?

 ルームの奴、とうとうスペアポケット的な物でも開発したのか?


 しかしどうやら、そうではないらしい。


「ラ、ラクリマからの帰り道やけど、兄さん軽く目通し取ったやんか? そん時お師匠さんの名前があった本を見かけたからな。移動時暇やったし、つい拝借してたんやけど……」


 っと、ただ手癖が悪いだけだったのだ。


 なるほど、こっそり持ってってたのか。

 だからばつの悪そうな顔で、こちらにお伺いを立てて。でも……


「──ルーム、良くやった!」


 俺は手に持っていた剣を置き、彼女の腰を掴み持ち上げた。


「に、兄さんやめえや! ごっつはずいわ‼」


 小さなルームを、俺は軽々と持ち上げる。

 そして上がったテンションにかまけ、ぐるぐると回って見せたのだ。

 

 嬉しそうな様子を見てだろう、トゥナだけではなく、ハーモニーやティアまで現れる──。


「ほら皆、これでシンシを打ち直せる……」


 ──バシン‼


 俺の頬に、トゥナの平手打ちが決まった……。

 おかげ様で冷静になった俺は、ゆっくりとルームを地面に下ろす。


「イテテ……」


 左頬に感じる、ジンジンとした痛で一気に冷静になった。

 そして言われなくても理解した、この後も怒られるだと……。


「今のは、カナデさんが悪いです~」


「そうですね。カナデ様、完全にセクハラです」


 案の定、ハーモニーとティアの小言が始まった……。


「ご、ごめんなさい。それにしてもこの世界でもあるんだな、セクハラって単語……」


 久しぶりにやらかした……。


「ごめんルーム……。嬉しくてつい舞い上がっちゃってな?」


 自覚があるので、早々に謝った。

 いくらそこそこ親しい間柄とは言え、異性の腰に軽々しく触れ持ち上げるなんて、流石に粋じゃない。


「ええんやええんや、ウチも悪かったんや。子供みたいに辱められても……うぐっ、泣かんで……」


 ちょっと、本当に泣かないでくれよ!?

 ちびっ子泣かしたみたいで後味悪すぎだろ‼


 慌ててルームを落ち着かせていると「ほら小僧、ウチの娘にちょっかい掛けるでない!」っと、今度は後頭部に痛みが走る──。


「いて! 別にちょっかい掛けてたわけじゃ……」


 娘に手を出すんじゃない! っと言わんばかりに、おっさんのが俺に睨みを効かせる。 


 おっさん、怖いから……。おっかない顔がさらにおっかないから……。

 俺は顔を寄せてくるガイアのおっさんから、逃げる様に鍛冶場の外へと出た……。


「まったく皆、こんな状況なのに平常運転すぎないか?」


 外は、相変わらずどんよりとした空模様だ。

 絶望的な状況は、何一つ変わらないのに。

 

「それでも、お前を諦めるにはまだ早いよな? ミコ」


 空に向かい、ポツリと独り言を漏らした。


 俺の仲間は、誰一人としてうつ向こうとはしない。

 寄せ集めだが、絶望にも負けないほど希望も集まってきた。

 偶然が重なったご都合主義な展開だけど、これはこれで……悪くはない!!


 そして俺は振り返り鍛冶屋を見つめた。


「シンシ、待ってろよ。今から起こしてやるからな? そしたら一緒に、ミコを助けに行こう」


 建物からは、信頼できる仲間たちがこぞって出てくる。

 その誰しも、瞳は陰ること無く未来を写し出しているようだ。

 さぁ行こう、最高の結末を目指して──。

 

「さっそくそのマジックアイテム制作に取り掛かろう。ルーム頼むぞ!」


 各々が出来る事を成し遂げるために、俺達は動き出したのだ。

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