415話 宿すもの

 なんでだよ? いつもであれば、欲しい物を考えて手を入れるだけで触れる事が出来るのに……。


「って、原因なんて分かりきってるだろ。ミコも居なく、手元には無銘もないから……」


「小僧、どうしたんじゃ? はよ出さんかい」


 俺が頭を抱えていると、ガイアのおっさんから催促の声がかかった。

 

「ごめん、ミコが……聖剣の精霊が居なくなって、マジックアイテムの効力が消えてしまったみたいなんだ」


 おっさんに向かい、腰に下げている中身のすっからかんのバックを開いて見せた。


 意図した事ではないとは言え、こんな大事な局面でのトラブル。

 今まで、マジックバックを当てにし続けたツケが回った結果だ。


 後の祭りとは言え、ラクリマから帰ってきた際、鍛冶場ここに置いておけばと後悔をした。


「つまり、資料は無いと言う事なのじゃな?」


「あぁ……すまない」


 マジックバックが使えない以上、資料を取り出すことが出来ない

 つまり近くにミコが居ない現状、永遠に失われた事と均しいのだ。


 俺は申し訳ない気持ちで、顔を上げられずにした。


「別に、小僧が悪いわけでもあるまい。他に手もあろう」


「おっさん……」


 おっさんの言う通りだ、なに落ち込んでるんだよ。

 後悔しても結果は変わらない、そんな暇があるなら他に出来る事があるはずだ!


「に、兄さん、あのな……」


「──おっさん他には何が必要なんだ!? 出来る事から順にこなしてこう!」


 俺も焦りが出てたのだろう、ルームが何か言おうとしてるのを遮り、おっさんに詰め寄るように一歩前に出た。

 

「うむ、その意気じゃ! 元来精霊とは、多くの魔力が特定の物体や植物、つまり特定の万物を好み、宿る事により生まれるらしい。已然作った聖剣とは、ミスリルだけではなく、端から魔力を宿した魔石との合金なのじゃ」


「つまり、魔石を取ってこればいいのか?」


「まぁ落ち着け。しかしじゃ、魔石なら何でも良いわけじゃない。特に、今回は猶更なおさらにの……」


 歩き出したガイアのおっさんは、転がっているミスリルを手に取り、品定めをするように見つめた。


「精霊にも個があり、好みがある。その好みが分からねば、何度金属を打とうがそのシンシと言われる人格の精霊は武器に宿る事は無いのじゃ」


 おっさんの口から淡々と、知らない聖剣とは何か、が語られていく。


 え~っと……。つまり、聖剣の精霊は作りあげるではなく、武器に宿すもの。

 そしてシンシの好みの素材を使う事で、俺が打った刀に宿るか宿らないかが決まると?


「でもそんなの、本人が居ないんだから分からないだろ。どうすれば良いんだよ?」


 つまり手づまりって事じゃないか……。

 でもおっさんは、最初に不可能とは言わなかった、もしかしたら何かほかに手があるのかも?


「そこで小僧。主が斬った言っておったワシの打った聖剣、それを素材に使うのじゃ!」


「あの剣を……素材に?」


 そうか! 元はあの剣に宿ったんだ。当然シンシは、あの剣に使われた素材と相性がいいはず。

 でもあの剣もマジックバックにしまってたよな? まずいぞ、八方ふさがりになる!?


「あ、あのな? 兄さん……」


「──カナデ君、もしかしてコレの事かな?」


 気になって、何処かから話を聞いていたのだろう。

 何かを話そうとするルームを再び遮り、トゥナが腰から何かを引き抜き、俺達の下へとやって来た。


「おぉーそれじゃ‼ 懐かしいわ」


 彼女が手にしていた剣に見覚えがある。紛れもなく、あの時シンシが持っていた刃先の無い、折れた剣だ。


「トゥナが何でそれを?」


 でもその剣はマジックバックの中にあったはず、本来彼女が持っているはずはないのだが……。


「魔王との戦闘の後、カナデ君が握りしめてたのよ? シンシ君の持ち物なのは知っていたから、一緒に持って帰ってきたの」


「そうか……ミコが取られたとき、無意識に取り出した剣か。トゥナ、でかしたぞ!」


 この剣が無かったら詰んでいた、偶然とは言え九死に一生を得たぞ! 


「次ぎは多大な魔力じゃな。当時は響きの奴が底なしじゃったからの」


「えっと……俺はじいちゃん程魔力は無いんだけど?」


「なに、問題はなかろう。何もぶっ通しで作れって言っておるわけじゃない、許す限り時間をかけて打てばよい。むしろ大切なのは、精霊を思う小僧の──心じゃ!」


 シンシを思う、俺の心……。それなら、この世界で指折りの自信がある。必ず成功せて……。


「──あ、あんな、兄さん……」


 背中で両手を組むようにして、前かがみに 三度みたびルームが話しかけてきた。

 いつもと違う、何やら落ち着かない様子。

 なんていうか、悪い事をした子供がその事を親に告白に来るような……。


「なんだよルーム、さっきから……。何か言いたいことがあるのか?」


「実はさっきの話やけど、コレの事いっとんのかな~思ってな?」


 そう言いながら、ルームが自身の後ろから、古びた一冊の本を取り出したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る