397話 できる限り
「私達がここにいるのも、カドモス様のお陰なのです………。彼が身を投げうった事で、多くの命が救われた……とても勇敢でした」
「カドモスさん、貴方本当に歴戦の冒険者だったんですね?」
話しかけても、返事が帰ってくる事は無い。
息遣いは聞こえず、触れた頬からは熱が失われようとしていた。
真っ白の拭い紙をマジックバックから取り出すと、俺はカドモスさんの顔に、ゆっくりとかけた………。
「でも、死んでしまったら何にもならないじゃないか!!」
死んでしまった相手に文句を言ったところで、どうにかなるわけじゃない。
それでも、俺は叫ばずには居いられなかった。
「──悲しい話ですね。彼の様な正義感の強い方が、真っ先に亡くなられてしまうのですから」
声に気づき振り向くと、修道服に身を包んだ女性が悲しいそうな表情を浮かべ、歩いてくる。
「聖母様……」
黙ったまま俺のすぐ隣に膝をつき、彼女は胸の前で十字を切る。
そして目を閉じ、両手を組み……。静かに祈りを捧げた。
「勇敢なる英雄よ、今は安らかに御休み下さい」っと。
彼女に怪我等は見られない、ハーモニーを悲しませずに済みそうだ。
見つめていた事に気付いたのだろう。
こんな悲惨な状況にも関わらず、俺に向かい微笑みかけた。
「お久しぶりですね、カナデさん。もしかして、ハモニもここに?」
「お久しぶりです。ハーモニーは連れて来て来ていません、安全な所に居ます。彼女、聖母様の事を心配しておりましたよ……?」
「そう、元気でやっているのですね」
ほっとしたのだろう、聖母様は安堵の息をつく。
最初の質問がハーモニーの事……母親なんだな。
俺達が軽い挨拶をしていると、ずっと我慢していたのだろうか。
ファーマの義父はボロボロと涙し、その場に崩れるよう座り込む。
そして「私が……あの時私がもっと!」っと言いながら、悔しそうに地面を叩きはじめたのだ。
「自分を責めないで下さい、貴方も充分頑張られたそうじゃないですか」
カドモスさんと、ファーマのお義父さん、二人に何があったのかは分からない。
でもこれだけは言える。カドモスさん、貴方は天涯孤独なんかじゃ無いじゃないか。
俺が 、カドモスさんの意思をついで見せる! なんて大それた台詞は言うつもりはない。
でも、彼のような犠牲者を見るのは、もうこりごりだ。
「……立ち止まってる場合じゃないな」
行こう。この先に何が待ち構えていようが、全てが手遅れになって後悔はだけはしたくない!
「聖母様、リベラティオの騎士の方に許可を貰ってきました。トゥナを追いかけるために、馬を一頭御借りしたい」
「やはりこの元凶である、魔王に立ち向かうのですね?」
「──ま、魔……むぐっ!?」
俺は慌てて、ファーマのお義父さんの口を塞いだ。
こんなところで大声を出してみろ、更に混乱するのは目に見えている。
「……魔王の事、知っていたのですか?」
聖母様は振り返り、ゆっくりと歩き出した。
そして、勇者の像台座に手で触れる。
「ただの憶測ですよ。勇者様に似た貴方が、ミコ様と共に大きな危機に現れる。他に相手の見当がつきませんので」
「本当は気付いていたんですね? ミコの事」
前に彼女が、ミコとここで話した、きっとあの時には気付いてたんだ。
「言っときますが、俺は勇者なんて大層なものじゃ無いですよ? でも、目が覚めました。出来ることはしたいと思います」
じいちゃんと違って全部守れるほど、俺は立派じゃない。俺は勇者では無いのだから。
だからと言って、他の人を見捨てる気はもうない。
全てとは言わずとも、トゥナを含め助けれるだけ助けてやる──俺は欲張りさんだからな!
「彼等の許可が出ているのでしたら、ご自由に連れて行ってください。後、御無理だけはなさらないように。貴方に勇者様とミコ様の祝福があらんことを」
「ありがとうございます。それでは……あっ!」
今更ながら、肝心なことを忘れていた。
どうしよう、完全に想定外だ──。
「馬車なら動かせるけど俺……一人で馬に乗ったことが無かった!」
ユニコーン達ならともかく、普通の馬じゃ一人で乗れないんじゃないか?
かと言って、今さら走って行くじゃ……。
「──お客様……私に任せてください!」
先ほどまで落ち込んでいた男が名乗りを上げた。
その瞳には、強い意思が見える。
「ファーマのお義父さん?」
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