第353話 懐かしの朝食風景

「はい、カナデさん。おかわりですよ~」


 ハーモニーから俺は、おかわりの米を受け取った。


 彼女の居る、懐かしの朝食。

 最近はもっぱら、自分で作る事が多かったのだが、家族が作ってくれる手料理が、こんなにも空腹と心を満たすもだとは……。


「カナデ様、お口を開けてください。あ~んです」


 左に座るティアが、俺に向かいおかずを差し出す。

 あぁ~コレはダメな展開だ、この後きっと……。


「──ティアさん! なに抜け駆けしてるんですかぁ~!!」


 ほら始まった。

 揉めるのは火を見るよりも明らかだからな。


 それにしても、左からは知的美人。右からは可愛い合法ロリっ子が俺を奪い合う。

 この姿を見たら、世界中の男が羨ましがるだろう──彼女達の中身を知らなければ……の話だが。


「うむ、色々と美味じゃのう」


 そしていつもの展開だと、こちらに飛び火してただでは済まないのだが……今回は無罪だ、きっと大丈夫。


「ティアさん少しは譲ってくださいよ~! 私、久しぶりなんですよ!」


「そんなの関係ありません! むしろそこそこ長く居たのに、ほとんど何もされてないんですよ! ──どう言うことですか、カナデ様!!」


 …………はっ?


「おいティア、こっちに話を振るな! ってかハーモニー、さっきまでしゃもじ持ってただろ? なんでユグドラシル持ってんだよ!?」


 ちょっとまて。いくらなんでもこの展開、刃物を向けられる覚えはないぞ!?


 しかしあの様子、俺の意見は聞き入れてはくれないだろう。


 俺は必死に視線を動かし、助けてくれそうな人を探す。

 ミコは……食事中には無理だし、ルームは機械をいじりながら──って、お行儀の悪い!

 ミスリンは……なに? 砂を食べるの? 知らなかった……って言ってる場合じゃない!!


「カナデさん……。ティアさんが言ってた『ほとんど何も』って、どういう事なんでしょうか~?」


 ……え? ちょっと待ってくれ。


 あの一瞬でそのワードだけ拾い上げただと!?

 そもそも別に、ティアとは何も…………あれ? ほほチューは罪ですか?


「──ハーモニー。痴話も良いが、わっちにもおかわりをくれ」


 場の空気を無視して、正面から茶碗を突き出すキサラギさん。そもそもなんで──。


「え~っとキサラギさん? 普通に馴染んでますけど、どうして俺の家に泊まり込んでるんですか。宿があるでしょう」


 エルフの来客達は、こぞって宿に泊まっている。

 それなのに何故かこの人は、さも当たり前の様に家に泊まった訳でして……。


「なんじゃ連れないのぅ、奏。いくら二人としっぽりしたいからと言って、わっちを追い出すつもりか?」


「──しません! しっぽりしーまーせーん!!」


 ほら、二人とも顔真っ赤になってるだろ!

 どうすんだよ、この空気。なんでかな~この人、いつも平気な顔で爆弾投下して……。


「いや、主にちょっとした頼みごとがあっての」


「このタイミングでですか? ……今手一杯なので今度にして下さい。刺されそうです」


「むぅ、わっちの孫は冷たいのぅ……」


 流石に怒る空気でも無くなったのか、ハーモニーはユグドラシルをしゃもじに持ち変えた。

 複雑ながら、キサラギさんに助けられたらしい……まぁ、礼には礼か──。


「──分かりました。それで、頼みってなんですか?」


「うむ。この頼みが、わっちがわざわざ来た理由の一つでもあってな? 少々面倒ではあるが、破格の報酬もある。……主にも関係ないとは言いきれんしの」


 キサラギさんはおかわりを受けとると、一口だけ口に含む。

 咀嚼そしゃくし、飲み込むと、食器と箸をちゃぶ台に置いた。


「実はの……グローリアが落ちたらしくての」


「…………えっ?」


 今……なんて?

 何かが落ちたって聞こえたけど。


「ん、聞こえんかったか? じゃから、あのグローリアが、と言ったのじゃ」


 …………はぁぁ!?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る