178話 思案


 ヘプラーは一向に進まない戦闘を見て思案していた。

こういう時にイライラしないのが、この男をボア族の副族長たらしめている。


(このままではいかんな)


 戦況は押しては引いてのまさに一進一退だ。


(やはり、闇夜では連携がとれん)


 敵味方とも隣の部隊と足並みがそろわず、ほとんど前進できていない。

このままでは無駄に時間が過ぎて兵が疲労するばかりだ。

ほとんど戦果らしい戦果も上がっていない。


(先にしくじった方の負けだ。時間をかけていいなら、いくらでもやりようはあるが)


 こういう戦いの場合、先にミスをした方の負けだ。

例えば、敵の部隊を深追いして敵中で孤立したとする。

その部隊を助けようと援軍にきた部隊も包囲されて、芋づる式に部隊がやられていく。


 こういった部隊単位でのミスは昼間の戦場でも起こり得る。

今は闇夜でそれが行われているので、1つミスが起これば全軍崩壊に繋がりかねない。


 加えてヘプラーには時間がない。

ヘプラーは最悪の場合、義清たちは暗殺されていると考えている。

その場合は目の前の近衛師団をさっさと撃滅して、王宮に攻め上らなければならない。


 グズグズと戦って夜明けになってしまうと、王宮と近衛師団が連携して攻撃してくるかもしれない。

そうならないためにも、今夜中に近衛師団を撃滅させてしまいたい。

それも、大禍国が王宮を攻撃している時に側面を突かれないよう、近衛師団を完膚なきまでに叩きのめす必要があった。


 大禍国本陣では、現在暗殺計画が進行中で近衛師団はそれに加担しているという、とんでもない勘違いがほとんどの者に浸透しつつあった。


(鍵は騎兵だな。あれをうまく使った方の方の勝ちだろう)


 ヘプラーは大禍国の戦列の両翼で、戦闘に参加していない騎兵を見て思った。

騎兵は衝撃と突破力に優れる。

難点は一度突撃すると、どこかで旋回して戻らないといけないことだ。

もし戻らなければ敵中で孤立してしまう。


 力技として、敵の部隊を次々と突破して敵の後方まで一気に突き破るという戦術もある。

敵の隊列が薄く、後方に部隊を配置していない場合は可能だ。

しかし、今は闇夜で敵の部隊の位置がわかりにくい。

貴重な騎兵をむやみに突撃させられる状況ではなかった。


(だが、ここ一番での活躍が騎兵の花よ。闇夜で始めた戦闘だ。どうせなら敵の度肝を抜いてやる)


 ヘプラーは伝令を呼ぶと、両翼に展開するボア族とヴァラヴォルフ族の騎兵に作戦を飛ばした。

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