170話 地響き


 これにはアルターも苦い顔をせざるを得ない。

自分が黒母衣衆を指揮することで、回り回って自分たちの部族が損することになるのだ。


 しかし、アルターは義清の護衛大将という役目を負っている。

義清が黒母衣衆を再武装させろと言えばするしかない。

それも、ボア族とヴァラヴォルフ族に気づかれないようにやれという注文だ。


 後々損するとわかっていてもやるしかない。


 アルターがため息をついて義清に返事をしようとしたまさにその時、下のくるわで凄まじい地響きが鳴った。


 驚いた義清は城塞が崩れた崖際まで走った。

アルターも後に続いたが、途中で足先を変えた。


崖下の郭からはモウモウと土煙が上がり、まったく様子がわからない。


「一体何があったのだ?」


 義清は直ぐ側に立っていた戦士に聞いた。


「あっ!!これは大殿様……」


「挨拶口上はいいから何があったか言え」


かしこまろうとする戦士に義清はせかした。


 戦士が言うには三つ首竜は先程まで近衛師団を押しに押していたという。

気前よく息吹ブレスを吐き兵士を焼き殺したかと思えば、巨体を存分に使って兵士を轢き潰した。

そうして、ひとしきり近衛師団をすり潰すと三つ首竜の周りに兵士がいなくなった。


 もうこの頃には近衛師団は組織だった抵抗ができておらず、我先に郭の出口めがけて殺到していた。

逃げる近衛師団を追いかけ三つ首竜が数歩前進する。


 すると突然、三つ首竜の下の地面が崩れ落ちて、三つ首竜が地面の中に飲まれてしまったのだと言う。


「地面が脆かったのか?崖下を走って来る時に何か感じたか?」


「いえ、特段これといって何も感じませんでしたが。なあ?」


 戦士は周りの戦士にも聞いたが、みんな撤退時に通ってきた時は特に何も感じなかったという。


「円陣のようなものが見えた気がしないでもないですが……」


 横から何人かの戦士が円陣を見たような気がすると報告があった。

聞けば、三つ首竜が少し歩くと三つ首竜の下の地面に三つ首竜より巨大な魔導の詠唱円陣が出現し、直後に地面が崩れ落ちたという。


 ただ、三つ首竜が近衛師団を追って前進した時には、近衛師団はほとんどが郭の出口めがけて逃げ出していた。

だから、近衛師団が持つ松明は当然不足していて詠唱円陣の全てを見たわけではない。

ポツポツと地面に落ちていた松明に照らし出されて、詠唱円陣らしきものが見えないこともなかったという程度だ。


 三つ首竜の巨体が落ちたとあって、土煙は簡単には消えることなく、なおもモウモウと崖上の郭まで立ち上っている。

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