138話 最後まで


 ここで時間を少し戻そう。

義清がシュタインベックに非礼を注意された少し後のことになる。エカテリーナを王の間に残したラインハルト、ベアトリス、ゼノビアは使用人が集まる部屋へと向かった。そこで3人は国王の気遣いで待っている貴族に料理を振る舞うことになったと告げた。怪しむ使用人たちに金を渡すと使用人たちは驚くほど従順になった。


 一方そのころ、王の間ではエカテリーナが魔導を練り終わり発動していた。

魔導はごく単純なもので、玉座付近から貴族の列を見ると何事もないように見えるというものだ。録画された映像をループして見せられているものを想像するとわかりやすいだろう。玉座付近からは貴族たちが整然と並ぶ封土祭が始まったばかりの頃の様子が見える。これで実際は料理と酒で騒ぐ貴族を隠すのだ。


 当初貴族たちはテーブルや料理が運ばれてくることに疑問を持った。

しかし、国王やその周りに控える者はなにも反応しない。これで貴族たちは予定された行事なのかと思い成り行きを見守った。


 やがて大貴族を中心に食事や飲酒が始まり談笑する声も大きくなり始める。魔導によりまるでカーテン1枚で隠すようにしているだけなので、玉座付近から離れれば実際の光景が目に入ってくる。シュタインベックはこのタイミングで義清の元へとやってきたのだ。


 当然シュタインベックは怒り心頭だ。

彼は国王に対しての不敬よりも、自分の面子めんつを潰されたことに怒っている。自分一人がこの事態を知らずピエロのようにされていたのが気に入らないのだ。


「義清公、爵位も持たぬ貴様がこの場にいることすら恐れ多いものを、このような振る舞いををするなど陛下に対して何たる無礼な行為か!!」


「いやいや、宰相代理殿とんだ誤解ですな。私は何も知りはしませんぞ。ただ運ばれてきた料理を楽しんでいるだけでしてな」


「貴様おぼえていろ!!この事態の責任は必ず取ってもらうからな!!」


 そう捨て台詞を吐くとシュタインベックは玉座へと戻っていった。

エカテリーナがシュタインベックの後ろ姿を見ながらつぶやく。


「だいぶ怒っておいでのようでしたわね」


義清がデザートへと手を伸ばしながら言う。


「まあ、面子の問題だろうな。しかし、食事で時間が潰れるかと思ったが、この行事は本当に夕方まで続くようだな。昼になったというのに、まだ貴族の半分も国王への挨拶が終わっとらんぞ」


「これに続いて晩餐会もあるようですし、先は長いですわね」


その言葉に義清はピクリと反応した。


「言っておくが晩餐会になってもお主らには付き合ってもらうぞ。自分たちだけ引き下がろうなどと思うなよ」


4人はギクリとして義清の方を見た。


「当然のことであろう。ついてこなくてもいいと言ったのに無理について来たのはお主らだ。最後まで付き合ってもらう。まさか、自分の楽しみが済んだら帰れるなどと思っておるまいな。別室での待機は許すが晩餐会までしっかり付き合ってもらうぞ」


 4人は食事が済んだら適当な料理をつけて別室に待機して、酒でも飲みながら暇でも潰そうと思っていたがどうやらその企みは義清に看破されてしまったようだ。4人はこのくだらない行事に参加したいと言い出したことを後悔し始めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る