135話 違和感
時刻は昼近く封土祭も半分が終わろうとしていた。
間もなく昼食会に移ろうとしている。王の横にいる宰相代理であるヒンネルク・シュタインベックは違和感を覚えた。
王の前で挨拶する貴族の様子がおかしい。
膝を折って王の前で口上を述べる貴族は、時折ふらついていた。
(まさか、酔っているのか?陛下の御前であらせられるのに、こやつ程度の身分でなんと恥知らずな!!)
いま王の前にいるのは中級貴族だ。
既に大貴族は王への挨拶を済ませている。その大貴族でさえ王への挨拶前には酒を飲まない。彼らでさえ一応の理由付けをして王の間を退出してから別室で酒を飲む。今目の前にいる中級貴族程度が、王への挨拶前に酒を飲むなど不敬を通り越して不忠ですらあった。
口上を述べ終わって去っていく貴族を見ながらシュタインベックは思った。
(あやつ程度の貴族にあのような舐めた態度を取られるとわ。王国の没落ぶりも極まってきたかな)
そう思ったあとにシュタインベックは無性に腹が立ってきた。
彼自身は王国対する忠誠など薄かった。しかし、王の横にいる自分を舐められた気がした。多少酒が入っていてもシュタインベック程度には気づかれまい。そういう貴族の腹の内が見えた気がしたのだ。シュタインベックの宰相代理としての面子を潰された気がした。
シュタインベックは王国の宰相代理だ。
国政に対して無能な王にかわって事実上国を動かしているのはシュタインベックである。そんなシュタインベックにかかればあの程度の中級貴族などいつでも始末できる。その程度と考える貴族に舐められたのでシュタインベックは腹が立ったのだ。
脅し文句の1つでも言ってやろうと思いシュタインベックは列に戻る貴族を追った。そうして整然と貴族が並ぶ列の間近まで来た時である。ドッとあふれるような人々の笑い声や話し声が聞こえてきた。驚くシュタインベックの前に先ほどとは一変する光景が飛び込んできた。
貴族の列にはテーブルと椅子が置かれみんな酒を食らっている。テーブルの上には豪華な料理が山のように並んでいる。貴族たちは酒を食らってだらしなく椅子に座り、大貴族を中心に大声で笑いあっていた。大貴族だけではない。料理が山盛りなテーブルは中級貴族を通り越して末席の小規模貴族まで続いている。
床にはテーブルからこぼれ落ちた料理が散らばっている。
それを気にすることなく踏みつけて貴族たちは移動して談笑していた。もはや整然と並ぶ貴族の列はそこにはなかった。大貴族が話す内容に必要以上に大げさに反応する中小貴族。酒に酔って椅子で眠っている者。大貴族に興味がなく仲間内で優雅に談笑する貴族たち。
「こ、これはいったいどうしたことか!?」
さっきまで王の横にいて見ていた景色とは場が一変している。驚いたシュタインベックは思わず独り言を言ってしまった。
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