124話 ドワーフと問題


 そもそも3000人もの大兵力を有するドワーフ達が大禍国おおまがこく本国守護の留守守役るすもりやくとして置かれたのは銀鉱山があるからだ。

 大禍国は盗賊ギルドを通じて銀をラビンス王国に流しており貿易も拡大しつつある。戦争中とはいえ銀鉱山を停止させるわけにはいかないのだ。ドワーフ達が本国に置かれたのも守護と採掘を同時に行える唯一の種族だったからである。そしてドワーフ達は採掘作業の最中に巨大なダンジョン門扉を発掘してしまう。


 ダンジョン門扉を有するダンジョンは通常のダンジョンとは大きく異る。

自然発生したダンジョンは時間をかけて、ゆっくりと遺跡や洞窟の空間をねじ曲げダンジョンを作り出す。ダンジョン門扉を持つダンジョンは何かしらの目的の為にはるか昔に人工的に作られる事が多い。

 生物生成、鉱物生成、知識蓄積あるいは伝授など各種装置などを始めとする、物を守る為に築かれるのが一般的とされている。中にははるか昔に死した王がダンジョンの王となり、いつか復活する日を夢見てネクロマンサーと共にいる例などもある。


 はるか昔いつ誰が作ったかも、孤立して保存したそれらを再びどう活用する気だったのかも、今はもはや知る術はない。1つ確かなことはダンジョン門扉を有するダンジョンは自然発生したダンジョンより厄介だということだ。


 ダンジョン門扉を発見した瞬間に何らかの仕掛けが、時にはダンジョン外へまで発動することもある。

ダンジョン内には各種貴重な装置や品物を侵入者から守る、あらゆる古代の仕掛けが施され、攻略に相当の時間と資金がかかる。


 そうかと思えば普段は簡単に開くダンジョン門扉がやたらと頑丈で、やっと開いたかと思えば中には子供だましの仕掛けがある程度。ダンジョンの階層も浅く最奥にはボロボロの本があるだけ。本開いて解読に時間をかけてみればただの日記だったという例もある。


 一説によればこれは時代の浮き沈みを表しているのだとされる。

かつては日記を隠す程度にダンジョンが気軽に容易に築かれていた時代があった。

それが時代が進むにつれ世の中が荒れていき、ついにはダンジョン内に貴重品を隠さざるを得ないようになるほど世の中が荒れ果ててしまったというのだ。国家が滅亡する際にやがては国家再建ができるよう、敵に盗られらぬようダンジョンを築いてそれの奥深くに貴重品や装置を隠したというのだ。


 旧世界滅亡までは確定した歴史だが、それを根拠にするこの説はかくあるダンジョン諸説の一説に過ぎない。中にはダンジョン門扉を有するダンジョンは神々が戯れに気づいた単なる遊びで、どうやって攻略するか、攻略までの時間などを賭ける遊びの一種に過ぎないという説まである。


 いずれにしても今回のダンジョン門扉を有するダンジョンが、大禍国にとって厄介な存在であることにはかわりない。時にはダンジョン門扉を発見するだけで、ダンジョン外にまで影響を及ぼす存在である。魔導師による調査やある程度のダンジョン攻略が終わるまで、ドワーフ達が銀鉱山の発掘を停止したのは仕方のないことだった。


 しかし、ドワーフ達はそれで終わらせるつもりはなかった。

大禍国にとってのドワーフ達の存在価値は鍛冶と銀鉱山採掘の2つである。その1つを失って黙っている彼らではなかった。銀鉱山停止で生じた大量の余剰人員とその生活補填をするために彼らは密かに戦場にやってきた。義清にいえば技術者の側面をもつドワーフを大量に戦場に送ることにいい顔はしない。


 そこで彼らは密かに戦場に接近して夜襲により手柄をたて、義清に有無を言わさず戦場に加わるつもりだった。これで鉱山労働者の失業問題と自分達の存在価値の証明を一挙に解決してしまおうというのだ。配下が主君に金をたかっている様な状況だが、元々独立した種族の混成集団として始まった大禍国は普通の人間の国とは価値観が異なる。


 ドワーフは当初は先遣隊だけ戦場に接近させ地理把握後に夜襲に移るつもりだったが、先のアクシデントにより不期遭遇戦となってしまった。結果としてうまくいったが、戦場の常とはいえ死傷者でている。しかし、我らドワーフここにありとう存在を戦場で示すことはできた。戦後の論功行賞にかたるだけの働きは十分にできたと言えよう。


 しかし、大禍国にとっての問題は増えるばかりとなってしまった。

巡礼者の襲来とそれから始まる不戦派と好戦派の城内対立。それに加えて今度は銀鉱山の停止である。遠征軍が兵力面で打撃を受け、組織内で権力闘争が起こっている頃。大禍国でも国家運営に対する問題が生じていたのである。


 事ここに至って義清は決断を下する。

ヴォルクス家を通じて遠征軍に和平交渉を申し出たのだ。

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