88話 帝国1-2
ラファルノヴァ帝国は大陸北東に位置する巨大帝国だ。
古代文明の血を引くといわれ、古くからこの大陸に国を構えている。
しかし、帝国皇帝の歴史は血塗られている。
帝国は数百年、あるいは千数百年前から存在するといわれるにも関わらず、直系の血筋は、最も長い期間で四代しか続いたことがない。別に短命、病弱な家系ということではない。帝国皇帝に即位する者は必ずといっていいいほど、前皇帝を殺害した後に即位してきた。
皇帝が変わるたびに国家制度が変化するが、それで帝国全体が混乱するかといえばそうでもない。長い間血塗られた歴史を歩んできた帝国の有力な家ではいつの頃からか、当主が皇帝に即位した場合の政治体制を自前で用意する様になった。仮に武力だけで前皇帝を葬り、次の皇帝に即位したとしても政務や国家行事が滞れば、それを理由に他の有力な家の当主が皇帝の座を奪いに来る。
十分な教育が行き届いた、優秀な吏僚を多数抱えるだけの財力、それらを守り、敵を討ち滅ぼすだけの武力の両方がなければ皇帝に即位できないのだ。
この様に、他の国家に比べれば、短期間に国家元首が入れ替わるが、国家としての新鮮さいつまでも保たれている。その為帝国では、全く無いとはいわないが、汚職や不正といったものが他国に比べて少ない。
それらの行為を働けば皇帝交代のタイミングでいいように理由づけされ良くて左遷、悪いと国民へのアピールも兼ねて大量処刑が行われることもある。
周りの国家にしてみればこれほど迷惑な国家も珍しい。国土は広く軍事力も豊富なくせに、皇帝が代わるたびに外交方針が二転三転する。去年不可侵条約を結んだかと思えば翌年には、「それは前皇帝とそちらの国家の約定、朕は知らぬ」と現皇帝の気分次第で侵略戦争が始まることも珍しくない。
では皇帝交代の帝国が最も混乱するタイミングで、周りの国が帝国に攻め寄せるかといえばそうでもない。
実際過去にこのタイミングで周辺諸国が連合して帝国に攻め入ったこともある。帝国はそれら周辺諸国連合を巨大な国土に引き込み各個撃破していった。数年後、帝国は先の自国への侵略を理由に、周辺諸国に次々と攻め寄せた。今では攻め寄せた周辺諸国が帝国本土となって数世代が過ぎた。
帝国年代記にはその当時の皇帝曰く「朕が皇帝に即位するよりも、諸国との戦争の方がずっと楽であった」とある。これくらいのことが楽々とできないようならば、帝国皇帝の地位を望むべきではない言いたいのだ。
もちろん帝国でも無能が皇帝の座についたこともある。在位数年という短い期間ではあっても周辺諸国からみればいいカモであることにかわりはない。その様なときは帝国も国土を減らすが、元の国土が大きいいだけに、持っている国力はそう簡単には半減しない。何より無能の後に即位する皇帝は世間や有力諸家の後押しもあって有能な事が多い。その有能な者が皇帝に即位すると失地を取り戻し、場合によっては国土をさらに増やす場合もある。そして何世代かあとにまた無能が即位して領土を失うのだ。
ここまで聞けば強力な国家のような気もするが帝国にも弱点は有る。
皇帝は常に次代皇帝の出現に怯えており、それらを排除してなんとか自分の直系の血筋に次代皇帝の座を譲ろうと努力する。そのため身辺の警備強化は元より、帝都を長く開けることができない。つまり皇帝自らが指揮する様な、大規模な軍事作戦は生涯でも数える程しか行えないのだ。これはそのまま帝国の軍事行動力に影響する。帝国と周辺数国を巻き込むような大規模な戦いは頻発しないということだ。帝国はその巨大な国力と軍事力を存分に発揮することは稀だ。帝国は文字通り眠れる巨人であり、眠りから覚めても巨人が本気で活動できる期間は短い。
これは余談になるが、四代続いたと言われる帝国最長の家系も帝国創立初期の頃の話だ。そのため現存する資料は極端に少なく、口伝や伝承の類の方が多い。このことから帝国以外の国家は、帝国がこの大陸でもかなり古くから存在する国家であるにも関わらず、帝国のことを出来星国家と揶揄する。周辺国家は曲がりなりにも血統を守っているが、帝国がそれを軽く見ることから国としては古くても国家としては常に成り上がり者でしかないとバカにしているのだ。だからこそ帝国は強大ということを彼らは理解できない。
さて、この様な異常な国の第三皇女に生まれたナタリアが、普通の皇女として生きてこれたかといえば、その様なはずがない。
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