73話 強襲1-1

 ゼノビア率いる北方方面担当軍である土蜘蛛部隊の先行部隊は、首尾よく敵の警戒部隊を撃破していた。

密かに敵の警戒部隊に接近したあと、警戒部隊の兵隊の一人二人を誘い出して始末する。

ガシャ髑髏に始末した兵隊の鎧を着させ、残りの警戒部隊を誘き出して殲滅する。

敵の貴族軍は無警戒で歩哨の任に着いているので、作戦がバレなければ楽に敵を撃破できる。

 ゼノビアたちはオアシス外周を突破。内周の中程で敵の警戒部隊を発見すると、これも難なく撃破することができた。始末した敵の死体を路地奥に隠していると、突然低い角笛の音がオアシス中に響き渡った。

その音のした方を見ながらゼノビアが舌打ちしながら言う。


「チッ、どうやらしくじったみたいだね」


「あれは南‥‥尾白おじろ部隊のいる方から聞こえますな」


ヴェアヴォルフの戦士がゼノビアに答えた。


「死体の始末はもういいよ。バレちまったんだ。派手にいくよ!!」


「そうですな。どうせなら景気よくやりませんとな」


「後方の敵兵に偽装したガシャ髑髏に強襲作戦に移行したことを伝えな!!後から侵入してくる本隊に敵と間違われないようにしとくんだよ。隠密作戦が失敗したうえに同士討ちにでもなったら恥の上塗りもいいところだからね」


「さっそく伝えまする」


そう言うとヴェアヴォルフの戦士が何人かガシャ髑髏へ伝令へ走るべく、後方の闇へと走っていった。

 そうこうしていると南の方から尾白部隊が放ったと思われる、鏑矢かぶらやが勢い良く天へと駆け上がっていく。特徴的な音がオアシス中に響き渡った。


「今更強襲作戦へ移行の鏑矢放ったってことは尾白部隊も派手にいくつもりだね」


ゼノビアが再び南の方を見ながら言うと、瞳蒼遠どうそうえんの術を使う映伝士が叫んだ。


「八咫烏より報告。尾白部隊が現地民と接触!!救助の過程でやむなく敵と交戦。コレを撃破するも隠密作戦の継続は不可能と判断。強襲作戦へ移行するとのことです」


本来であればヴェアヴォルフ族の指揮権ゼノビアにあるが、先行部隊の指揮をしているため、こういった緊急事態のときは八咫烏を率いる副官のアルターが代行することなっている。

ゼノビアが即座に聞き返す。


「被害は!?」


「ありません。現地民も尾白部隊も無傷とのこと。逆に敵は全て討ち取ったそうです」


「それならいいね。よし、アタシたちも本隊と‥‥」


 そのときオアシス南の砂丘から大勢の怒号が鳴り響いた。

続いて砂丘の上に松明の火が揺らめく。それは見る間に増えていきあっという間にオアシスの南は明々と照らし出た。大量の火のゆらめきから再び怒号が響き渡ると、その火は砂丘を下ってオアシスに迫ってくる。

 この火に照らし出されたた大勢のヴェアヴォルフ族の戦士こそ、南方方面担当軍の尾白部隊本隊だ。

砂丘を下りながら尾白部隊指揮官はアセナに騎乗して部隊の指揮を取っている。

その指揮官がオアシス中に響き渡るほどの大声で叫んだ。


「我ら尾白部隊、いまこそ討ち入りの時!!ともがらである先行部隊の失敗を、いまここで挽回せん!!進め進めっ一番槍は我らのものぞっ!!突き進めいっ!!」


それを見ながらゼノビアはニヤリと笑った。


「失敗した尾白部隊に最初の手柄を立てる機会をやったのかい。アルターめ、わかってるじゃないか」


 そうしているとオアシスの西の砂丘で同じように怒号が上がった。

先程と同じようにあっという間に砂丘の上に大量の火のが揺らめいていく。

西方方面担当軍のおおとり部隊を照らしだす火だ。

こちらも一気に砂丘を駆け下りてオアシスになだれ込もうとしている。

鴻部隊の指揮官も尾白部隊の指揮官の口上を聞いたのだろう。こちらも負けてなるかと大声を発して兵を鼓舞しようとする。


「他の二隊に負けるな!!オアシスへの突入が遅くとも、先に敵に槍を突き立たてた者が一番槍ぞっ!!

 一番槍も兜首も我らがさらうのだ。我ら鴻部隊こそ功一番、第一武功部隊ぞ!!、駆けろ駆けろ!!追い抜け追い抜け!!」


鴻部隊指揮官はオアシス一番乗りを尾白部隊に取られたが、敵に最初に攻撃する武功である一番槍まで尾白部隊に譲る気はないようだ。盛んに声を発して兵を鼓舞しては少しでも部隊の歩みを早めようとしている。


ゼノビアの横にいたヴェアヴォルフの戦士がそれを見ながら言った。


「二隊目は鴻部隊ですな。あの速度ならオアシス突入は遅れても、尾白部隊より先に一番槍を上げるのも夢ではありませんな」


「それはいいけど、そうなるとアタシらは‥‥」


 ここで北の砂丘で大勢の怒号があがった。

待ってましたと言わんばかりのその声はまたたく間にオアシス北の砂丘に現れると、今や遅しと松明の火の元に一斉に砂丘を下ってオアシスに突入していく。ゼノビア率いる北方方面担当軍の土蜘蛛つちぐも部隊が動き出したのだ。例によって土蜘蛛部隊指揮官は大声で叫びまわる。


「他部隊に出し抜かれたことは気にするなっ!!我ら土蜘蛛部隊は一気にオアシス中心部を目指す!!

 敵に構うなっ、オアシス中心部に部隊旗を掲げた部隊こそ第一武功の部隊ぞ!!一番槍も兜首もくれてやれ!!我ら土蜘蛛部隊が大一番おおいちばんの大武功をもぎ取るのだっ!!」


土蜘蛛部隊指揮官は速度では他二隊に敵わないと判断したようだ。しかしヴェアヴォルフ族でも精兵を集めた土蜘蛛部隊ならば敵の兵など、ものの数ではないと判断したのだろう。他隊が敵と交戦中にいち早く自隊は敵を撃破して、その勢いのままオアシス中心部一番乗りの武功を上げるつもりにちがいない。


 それを見たゼノビアは再び舌打ちした。


「チェッ、アルターめアタシの部隊に一番最後に連絡したね。おかげで手柄を上げる機会が減ったじゃないか」


「しかし、恐らく我らが一番オアシス中心部までの敵警戒部隊を撃破しております。土蜘蛛部隊指揮官が言うようにオアシス中心部への一番乗りも夢ではありませんぞ」


「そうだね。少なくとも南の尾白よりは早そうだね。よおし、急ぎ本隊に合流するよ!!」


ゼノビアは勢い良く指示を飛ばして駆け出した。いました舌打ちも先程のものよりはいくらか冗談が混じっているのを、その場にいた誰もが感じている。


 こうしてオアシス奪還は隠密作戦が失敗に終わり、強襲作戦へと移行した。

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