43話 娘たちの純血



ゼノビア達は森の中にいる。


ゼノビアに文字通り叩き起こされたダーリアがいうには、

前方100mほどの距離に森が開けた場所があり、そこが山賊の寝蔵になっているという。


ゼノビア率いるヴァラヴォルフ族とラインハルト、ユライとダーリアそして商人は

山賊の寝蔵の手前で待機している。

ヴァラヴォルフ族の斥候が山賊の寝蔵の様子を偵察にでている。

今は全員でその帰りを待つために待機しているのだ。


別にダーリアの話しを疑うわけではないが、全面的に信用するわけでもない。

ここで焦る必要もないので、念には念を入れて斥候を放ったのだ。




ゼノビアは小声でヴァラヴォルフ族の主だった戦士たちに指示を伝達している。

小声なのは万が一にも山賊に気づかれないためだ。

やがて戦士たちは散ると、それぞれが指揮する小隊に戻り、

山賊の寝蔵襲撃の段取りを部下に指示した。


ラインハルトのすぐ後ろにはゼノビアの副官が控えている。

ラインハルトは嫌そうな顔をしながら時々、副官の方をチラチラと振り向いた。

その度に副官はニコリと笑顔で返す。




やがて斥候が戻ってきた。



やはりこの先に山賊の寝蔵があるのは間違いないという。

人数は30人ほどで村から誘拐された娘たちも確認できた。

こちらは50人いるので人数差は問題ないだろう。


報告を聞いたゼノビアはヴァラヴォルフ族の戦士達に前進を命じた。



森を音を立てないように進むと開けた場所が見えた。



ゼノビアは前進を止めて待機する。

ヴァラヴォルフの戦士たちはゼノビアの背後を左右に別れて森を進んでいき、

やがて見えなくなった。

戦士たちが所定の位置につくまでの間、ゼノビアは山賊の寝蔵を観察する。



森が開けた場所には山賊たちが思い思いの場所で陣取っている。

中央に焚き火があり、昼飯を作っているのか煙が上がっている。


他にも3つほど焚き火あり煙が上がっており、大方の山賊がその周りに集まっている。

山賊は汚れてはいるが脱走兵というだけあって装備が良い。

鎧を着ていないものは1人としていなかった。


焚き火の奥には人が辛うじて寝られるだけのテントが幾つか設置してある。

そしてテントの奥には荷馬車が4台ほどあり、馬もいた。

おそらく馬車は軍の部隊から脱走するときに、ついでに盗んできたのだろう。

脱走兵が見つかれば最悪死刑になる理由がこのあたりにある。

彼らは脱走するときに必ずといっていいほど、食料や物資、金目の物を盗んで逃げる。

脱走に対して罪が重くされているのは、これらの不正行為を抑止する狙いもある。

もっとも、脱走する側からすれば、脱走した後の生活のための金が必要であり、

いままで従軍した分の給与もほしいいのだ。

どちらにもそれなりの言い分がある。


しかし、大陸中央からわざわざ東方の地に来て、体を剣で貫かれた挙げ句に

その傷から蟲を体内にいれられるほど運の悪い者がいるのも事実である。

ゼノビアの目の前にいる山賊たちも、その運が悪い部類に入ろうとしていた。


ゼノビアが寝蔵の右手の森に目をやるとヴァラヴォルフの戦士が1人、

顔をだして拳を握って腕を上げて小さく回した。

配置完了の合図だ。

あとは寝蔵左手の森からの合図を待つだけだ。


すると大半の山賊たちがいる焚き火の奥、テントの方から悲鳴が上がった。

大半のテントは高さが80cmもなく寝るのが精一杯だが1つだけ大きなテントがある。

悲鳴はその中から上がったようだ。

テントの入口をかき分けるようにして1人の金髪の娘が飛び出してきた。

服は身にまとっておらず、シーツを一枚だけあてて体の正面だけを隠している。

その様子から、山賊から何をされようとしているのか想像するのは容易い。


娘はテントから飛び出して少し走ったところで、山賊に捕まった。


娘がでてきたテントから男がでてくると、娘を捕まえた山賊を褒めている。

察するにあの男が山賊の親分だろう。

褒められた部下は揉み手をしながら、あとで自分もヤりたいと言った。

親分は俺がもう一巡したらお前たちに回してやると言っている。

どうやら娘たちの純血は昨夜の内に失われたようだ。

少し遅かった。


やがて左手の森からも合図があった。


ゼノビアは襲撃開始の角笛を吹いた。


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次回更新予定日 2019/12/27

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