14話 評定



「これより評定をはじめる」




広間に居並ぶ家臣たちを前に義清が宣言した。


広間の義清が座る上座は畳がひかれている。

義清はそこに脇息きょうそくに右手を乗せて体重を預けゆったりと、いわゆる殿様スタイルで座っている。


広間の家臣がいる下座は板敷にっており、オスはみんなアグラをかいて座っている。

そこにエカテリーナ、ベアトリス、ゼノビア、ラインハルト、と、小柄な男、ガルムがいる。



 ガルムは老けて見えるが筋骨隆々で豊かな茶色いヒゲを蓄えており、

茶髪は耳を覆っており髪とヒゲの間にわずかに皮膚が見え、背は小さかった。

 ガルムの種族はドワーフである。

金属、鉱石に明るく鍛冶も得意で機械もある程度扱える。

種族全体の数も多く、性格も多種族から見れば偏屈だったり頑固だったりする。

義清との関係は配下であると同時に、一種の同盟とすることで種族全体が納得している。

その為、ドワーフの何人かが義清と対等な口を聞くことに、他の者は不満を感じる者もいる。

義清自身はそれくらいで済むならば、と良しとしているのでそれで収まりをみせている。




「まず、儂らドワーフからいいかの?」




ガルムが言うと義清が答えた。





「鉱山は我が国にとっても最重要である、そこで働くお前たちも、また重要よ。はじめてくれ」




偏屈で知られるドワーフだがこういう、ドワーフをたてた発言をされると気持ちよく喋ってくれるようになる。





「まずは儂らと鉱山の被害からだが、これはまったく無し。貴族連盟は全兵力で城を奇襲したようで

 儂らのことはあとから片付けるつもりじゃったんじゃろ」


「最重要の者たちが共に無傷とは嬉しいかぎりよの」




義清の発言に気をよくしたのかガルムは得意げに懐から

黒い石を取り出すと鼻をふくらませて続けた。




「さらに、良い物が坑道から出た」


「なんだ、その黒い石は。その辺の石と違ってツヤがあってキレイだな」


「これをキレイと見えるということは鉱夫の才能があるかもしれんの。これは黒壇の石だ。

 優れた金属でな、金属のランクで言えば間違いなく上から数えた方が早え一品だ」


「銀に加えてそれほどの金属がでるとは思わぬ幸運だ」


「それよ、今回のもう1つの大事な報告は、この石が既に彫り尽くした坑道、なんなら単なる通路用の坑道からも出たいうことだ。

断っておくが儂らドワーフ、1回掘った穴でそんな見落としを、しかも複数箇所でするほどマヌケじゃねえ。これは間違いなく転移後に現れたもんだ。」


「現れた物があるということは、銀が消えたり何らかの変化があったりしたのか?」


「そっちの方はなんとも言えねえが、今の所かわったところはねえ。悔しいがいかに鉱山が俺たちドワーフの聖域だとしても、ここは1つ魔術師に見てもらいてえ」


「承知した。後ほどベアトリスかエカテリーナを遣わそう」


「そう言えば、エカテリーナの婆さんは、ちょっと背が伸びたんじゃねえか?エルフってのはそんな年になってもまだ成長するのか?」




疑問を感じながらガルムがエカテリーナの方を見て首をかしげた。




「他にも色々かわったところがあるわよ!! ラインハルトといいアンタといいどこに目つけてんのよ!!」


「ガハハハ、怒るな怒るな。儂らからすれば小さな黒い大根が人参にかわったくらいにしか違いがわからん」


ラインハルトがうんうんと頷く。


「焼き殺されたいの!! これだから美的感覚の違う種族とはわかりあえないわ!」


「美的感覚の違いにおいての意見だけは儂らも同意見じゃの。さて、これで儂らドワーフからの報告は異常じゃ」





義清がやや大げさにうなずき御苦労であったと言った。


次にラインハルトが言った




「城の修復はほとんど終わっております。唯一の出入り口である大手門の橋の修復も今日で終わります」




ゼノビアがそれに続く。




「ただし、城自体はまだ未完成です。完成しているのは本丸のみ、大規模な工事を行わなかればこれ以上に進めるのは難しい状態です。ですがそれにはかなりの人手が必要かと思われます。」




「二人共、城の修復ご苦労だった。とりあえずは城は修復だけにとどめておこう。」




義清が二人の労をねぎらうとエカテリーナの方を向いた。




「エカテリーナよ、見違えたな。出会った頃の様に美しくなった。」




エカテリーナは微笑を染めて照れながら答えた。




「いつでも御身に尽くす準備ができてございます。」


「若返りも含めて、お前の力が使えるようになった件は違う機会に話すとしよう」




義清は改めて全員を見回して言った。




「皆、それぞれ役目を果たしたこと、改めて礼をいう。それから各自に褒美を授ける。

 ベアトリスについては褒美として、すでに我が子種を授けている」




ベアトリスは両手を頬にあててデヘヘとヨダレを垂らした。




「皆も聞いているかもしれんが、現時点ではその種は芽吹くことはない」




義清の言葉に全員が目を丸くした。



ラインハルトが驚きながら言った。



「それは一体どうゆうことですか」


「ベアトリスが望んだのは子種を授かることだけ、芽吹くのと授かるのは別の事だ」




やや屁理屈な気もするが当のベアトリスが納得しているのだからいいのだろうと

みんな納得したように思えたが、エカテリーナは違った。




「ちょっと、あなたどういうことですの!?食堂で口はつかっただの後ろの穴まではどうのと言ってたではありませんか?」


「それは、義清が一瞬で子種を授けるだけでは悪いからと、触手も出してくれたんですよ」


「なんてまぎらわしい!!」



プリプリと怒るエカテリーナに義清が言った。




「エカテリーナについての褒美であるが‥‥」


「ぜひ、ワタクシにも子種を!!」




やや食い気味にエカテリーナが答えると義清はよろしいと答えた。




「先の戦での一瞬で敵を壊滅させた力とその力が戻った褒美として、我が子種授ける」




義清はエカテリーナに向けて手をかざすと、手からピンクの小さな玉を出し

エカテリーナへゆっくりと飛ばした。

玉はゆっくりとエカテリーナの下腹部へと吸い込まれていった。


エカテリーナはウットリとしながらお腹をなでる。




「おお、これが御方の子種」


「ただし、エカテリーナ、そなたの召喚した巨大火球が皆に危機を招いたのも事実である」




エカテリーナの顔がサッと青くなる。




「よって、先程そなたに授けた子種を取り上げる事で巨大火球に対する罰とする」




義清が再び手をかざすとエカテリーナのお腹からピンクの小さな玉が浮きでた。

その玉はゆっくりとゼノビアの方へと飛んでいくと

そのお腹へとゆっくりと吸い込まれた。


驚くゼノビアに義清が言った。




「ゼノビア、そなたを今日からワシの余った子種の守り役とする」


「あ、ありがとうございます」


「特別な手柄を立てれば、その子種そなたの物になる日もくるかもしれん。励んでくれ」


「必ずアタシの実力で手に入れてみせます!!」




ゼノビアは目を輝かせて答えた。

エカテリーナは血の涙を流しながらハンカチを食いしばり、それを見ていた。




「次にラインハルトであるが、何か欲しい物があるか?」




ラインハルトは当然の働きをしただけで自分が褒美をもらえるとは思っておらず戸惑った。

やや間があいて答えた。




「神の恩恵を受けたく存じます」


「神の恩恵?」





義清の疑問にラインハルトは先日、書物庫でみた信濃の、越前のなどの神々の戦いを

描いた書物を読んだことを話して、是非自分もその恩恵に預かりたいと説明した。




「しばし、時をくれ」




そう言って義清は骨がむき出しのアゴをゴリゴリと手で撫でて考えた。

しかし、そんなに考える時間をかけられるわけではない。

少し焦りながら義清は考えた。



(こういうときに表情出にくいのはいい)




義清は狼でしかも半分は骨がむき出しである自分の顔の事を思いながらさらにに考えた。




(おそらくラインハルトは信濃のや越前のと勘違いしているのだ)

(説明するのは簡単だが、本人を悲しませるのは心苦しい)

(しかし、アレは朝廷あたりが任命する役職ではなかったか?)

(しかも、場所に守と言う名前がつくだけで大名あたりが適当につけていたはずだ)




チラリとラインハルトの方を見ると

どんな名前の神の恩恵が貰えるのかとキラキラした目でこっちを見ている。




(いかん、なにを付けてやるにしろ相応の説明がいるな。これはこまったぞ。)




義清はしばらく思案にくれてようやく切り出した。




「よし、そなたに備前のという神の恩恵をやろう」


「それはどんな恩恵が貰えるのですか?」


「う、うむ。備前の備とは備えることでな。常に何事が起きても対処できるようにすることである。

 そして前はそれらの備えを持って、前に出て敵を打ち払うの意だ。戦いの神の恩恵だな」


「おお!! まさに戦いを好むボア族の戦士としてたいへん喜ばしい恩恵です」


「そ、そうか。これからも働きを期待しているぞ」


「はい! その恩恵に恥じぬ働きをしてご覧にいれます」



嬉しそうにするラインハルトに嘘を言っているわけではないが

正しいことをしたわけでもない義清は、少し心が傷んだ。




「ドワーフについては被害はないが働きの機会もなかったのでこのままとするが、異論はないか?」


「ない。俺たちにとっては黒壇の石が今回の件での褒美みたいなモノだ」



義清は他になければこれにて評定を終えると一同を見回した。



ラインハルトはチラリと義清の腹を見た。

割れた腹筋の筋からは赤い光がわずかに出ているがそれがチラチラと時々またたいている。

視線をゼノビアの方に移したあとラインハルト深く息を吸って言った。




「いささか公平性に欠けるかと存じます」


「なんですって?御方の采配に不満があるの?」


「よいのだエカテリーナよ。ラインハルト続けてくれ。ワシも意見を聞きたい」




宰相であるエカテリーナが自分は与えられるどころか取られただけに

褒美を与えられたラインハルトにこれ以上望むのかと怒った。

しかし、ラインハルトの次の言葉で声色が優しくなった。




「子種の件について、もう少し公平に見るべきかと存じます」


「そ、そうね。いいことを言うわねラインハルト!! 続けて!!」




嬉しそうにするエカテリーナ。反対にゼノビアは余計なことを言うなと

ラインハルトをにらんだ。

しかし、ラインハルトの言葉は二人の思いとは真逆の事を言った。




「私は今回、神の恩恵を預かり個人としても部族の長としても褒美をいただきました。しかしゼノビアはいささか事情が異なります。」




いいぞいいぞとエカテリーナは目で応援する。

ゼノビアは奥歯をギリギリといわせながらもう口を閉じろとさらにラインハルトをにらんだ。




「ゼノビアの貰った今回の義清様の子種を守るというのは本人に取っては褒美に思えるようですが

 部族としてみれば子種を守るという責務。

 褒美をもらう場で責務のみをもらい、褒美をやらねば部族としては役目が増えただけにみえます。

 ここはゼノビアにも褒美をやるのが公平かと存じます」




エカテリーナとゼノビアは事態が自分の思っていたものとは違い理解が追いつかずポカンとしている。

やがて理解が進むと、今度はエカテリーナが余計なことをと奥歯をギリギリといわせ

ゼノビアがよく言ってくれたと目を輝かせている。

義清も納得してウンウンと頷いた。




「何か望むものはあるかゼノビアよ」




義清の質問にゼノビアはここで答えを間違えてはいけないと悩んだ。

ゼノビアはチラリとベアトリスを見た。




(アタシも子種がほしいと言おうか?)

(いやいや、既にアタシの中には子種があるんだ。預かりものとは言え2個も貰って、 片方を芽吹かせずに片方だけ産むなんてできるのか?)




ゼノビアはギリギリという音で自然とベアトリスから

横にいるエカテリーナへと視線がいった。

このとき、エカテリーナが何もせずに平然としていればゼノビアに考えは浮かばなかったかもしれない。

羨ましがるエカテリーナをみてゼノビアは子供っぽくなり、もう少し羨ましくさせたいと思った時に考えが浮かんだ。




「よ、義清様と夜を共に‥‥SEXがしたいです!!」




それを聞いてエカテリーナが奥歯をギリギリと言わせるのに加えて

唇を噛んで血を流してゼノビアをにらんだ。


義清が少し考えながらチラリとラインハルトを見た。

ラインハルトは一瞬だけ視線をあわせたが気まずそうにすぐにそらした。

義清様はため息をついたあとゼノビアの方を向くと言った。




「言っておくがワシとSEXするのと子種が芽吹くのとは別問題だぞ」


「かまいません!! 自分より強い戦士と交わるのは種族の長としても光栄ですし、それに‥‥」




ゼノビアはチラリとエカテリーナを見たあとに続けた。




「メスとしても大変うれしいことです!!」




それを聞いてエカテリーナは噛んだ唇からでる血の量を増して

若干体から黒紫のオーラをこぼして目をこれ以上ないほど開いている。


ラインハルトは複雑な表情をしている。



「ならば今宵、ワシの寝所に来るがよい」




義清は再びため息をついて言った。

そして再び他にないかと広間を見回したが意見はないようなのでさらに続けた。




「大手門の橋の修理が今日で終わるとのことなので、明後日から周囲を偵察する。場合によってはワシも同行する」


「明後日? 明日ではなく?」




義清はため息をつきながら発言したラインハルトの方を見て言った。




「偵察はゼノビア率いるヴァラヴォルフ族が主力になるからな」


「そうでしたな。明後日か場合によっては明々後日がよいですな」




ラインハルトは気まずそうな顔をすると義清に同意した。




評定を終えて義清は退出した。




途端にエカテリーナがラインハルトに食って掛かった。




「ラインハルト!! どういうことですの!? あんな発言をしてゼノビアは2つも褒美をもらったも同然!! 何を考えているの!?」


「な、なに怒っとる? 責務は責務、褒美は褒美だろう? それに褒美の方も案外きつい‥‥」


「おだまりなさい!! SEXがタダの強い子供を産むためで愛情はまた別に抱くものとでも言うんでしょう!! これだから獣を祖とする種族は考えが野生的だわ」


「い、いや、俺としては褒美を貰う方の体も考えてだな‥‥」


「まあまあ、いいじゃないか。アタシは満足だよ。ラインハルト、大満足さ」


「そ、そうかゼノビア。そう言ってもらえると俺も心がいくらか軽くなる」


「あなたも、おだまりなさい!!ゼノビア!! よくもワタクシの子種を!!」


「まあまあ、落ち着けって。手柄を立てればあんたのところにもどるさ。あんた若返って口調がかわったね」


「昔はこうだったのよ。外見にあわせてかえたのよ!!」




騒ぐ二人にベアトリスがプンプン怒りながら混じった。




「エカテリーナさんの罰は当然ですよ。あなたが暴走したせいで時間がなくなって、

 私は子種を貰っただけなんですから。行為がなかったんですよ!!」


「おだまりなさい!! 元はと言えばあなたが紛らわしいことを言わなければいいものを!!」




エカテリーナとベアトリスがが騒ぐ横でラインハルトがゼノビアをつついた。




「ゼノビア、お前のところで掃除用具一式余ったりしとるか?」


「なんだい、いきないり? 予備があるけど城の修復は済んだろう?」


「いや、あるならいいんだ。せめてもの罪滅ぼしと思って俺が‥‥」



「ラインハルト!! 何をそこで関係ない顔してるの!?あなたさては自覚がないわね」


「勘弁しろエカテリーナ。別にいいことばかりではなくて‥‥」




広間での騒ぎは評定以上に続いた。

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