第10話

 私は臨床心理士。人の営みが続く限り、私は病める人々の心に付き従い、彼らが再び立ち上がるための礎となり続ける。それが今の私の使命である。


 今日もまた、私の前に膝を打ち砕かれし子羊が姿を現した。


 今日の相手は、仕立ての良いスーツを着こなした紳士である。私の前に座ったものの、落ち着きなく小刻みに脚を揺さぶり続けている。



「今日はどうされましたか?」

私は飾り気のない口調で尋ねた。



「私はパチンコがやめられないのです。毎日、朝の開店前からパチンコ屋の前に並んでしまいます。大体午後七時までずっとパチンコ屋の中にいます。」

「抜け出せなくなっているのですね。」

(早起き且つ規則正しい生活で、結構なことだ。)



「私には主婦の妻と中学生の娘がいます。こうして身なりを整えて、仕事のふりをして出かけてはいますが、事実には気付かれているようです。だから、家の中で息苦しくて。」

「それはお辛いでしょう。」

(家族を養えるほど稼いでいるのか。手段がどうあれ、立派なものではないか。)



「実は、今もパチンコをしたくてうずうずしていています。先生、私が出て行こうとしたら、力ずくで止めてください。私はカウンセリングを受けて、真人間に戻りたいんです。」

「大丈夫ですよ、落ち着いてください。」

(止めるの容易だが、あなたのパチンコの技術には興味をそそられる。)



「うう、もう我慢できない。」

(止めるべきか、様子を窺うべきか?)



「ああ、先生、私はどうしたら良いのでしょうか。こんなにも後悔しているのに、自分で自分を抑えられないなんて、愚かです。」

「そんなことはありませんよ。これから少しずつ向き合っていきましょう。」

(なるほどな。愚かな神というところか。)



 私は足元に転がり続ける銀玉を避けつつ、乾燥した笑みを浮かべた。

 今日もまた、良い仕事にすればよい。

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