5 スシ・バーの戦い! 後期高齢者対神風トオル!

 悪魔的殺伐とした空気の中、アメリカ代表ファイターアトミック・ジョンによる選手宣誓が行われ――


『それでは最後に! 決勝トーナメントの組み合わせを発表いたします!』


 観客がワーワー!

 運命のトーナメント表が記された巨大な巻物がコロシアムに吊り下げられる。

 そこに書き記されたる運命の組み合わせ。

 右端からアナウンサーが読み上げる。


『Aブロック!

 アメリカ対地球!

 宇都宮対忍者!

 中国対青森県!

 月対おそロシア!』


 観客がワーワー!


『Bブロック!

 魔女っ娘王国対行田ぎょうだ市!

 ドイツ帝国対ジュラ紀!

 宇宙人対インド!

 幼稚園対日本!』


 観客がワーワー!


『Aブロック一回戦第一試合はアメリカ対地球!

 試合開始は明日午前10時から!

 それではみなさん! また明日! 解散!』


 観客がワーワー!


「……ッ!」


 一回戦第一試合、アメリカ対地球!

 なんと! 早くもアメリカとの対決である!

 16人で行われるトーナメント戦、決して低くはない可能性であるが……!


(それでも! まさか初戦から戦うことになろうとは!)


 思わず拳に力を込める神風かみかぜトオル!


「HAHAHAHAHA!

 初戦から我が国が相手とは! 運がなかったな!!」


 ピザフライがアメリカ語で笑う!


「神風トオル! 我が国のファイターはベリーストロング!

 勝てる確率はゼロ! ゼロ中のゼロ!

 優勝してミーと決闘しようなどという世迷言は!

 貴様の情けない遺言として覚えておいてやろう!!」

「その通り……!

 無礼なジャパニーズ野郎は……我が核弾頭真拳で灰にしてくれるわ!」


 ピザフライに続き、アトミック・ジョンが神風トオルに死刑宣告!

 彼の使う核弾頭真拳とは一体!?

 第一試合から大決戦! いきなり関ヶ原!

 そう! この地球ファイト決勝大会!

 100メートル走的速度でフルマラソンを走る覚悟なくば務まらぬ!


「……だが! この組み合わせ! こちらにとっても好機!」


 そう! 最大最強の敵アメリカ!

 初戦で倒すことができれば――この決勝トーナメント、後顧の憂いなし!


(討つ! 悪逆非道ピザフライ!)


 VIPルームへと戻るピザフライの背中を神風トオルの視線が突き刺す!


(チリ一つ残さぬわ! 目障りなる地球真拳!)


 ピザフライが背中越しに返す!

 アメリカ対地球!

 その命運を決する戦いは――明日に迫る!



 ◆◆◆



 ――開会式終了後。

 地球代表ファイター担当職員のオカ、ホシより大会中のスケジュール的なアレコレの説明を受け、トオルとルリは宿の近くで夕食を取ることにした。

 店の名はスシ・バー=エドッコ!

 歴史を感じさせる寝殿造しんでんづくり!

 キレイに手入れのされた電光ノレン!

 瓦屋根に設置された金のシャチホコが微笑む!

 店先にニョキリと生えたタケノコがなんともニクイ!

 圧倒的ワビサビを感じる雰囲気である!


「よし! 妹よ、いざ参ろうぞ!」

しかり! 然り! いとをかし!」


 ビリビリと電光ノレンをくぐると自動扉が宇宙船的に三方に開く!

 中からは客を迎える大将とコムスメ・ウェイトレスの声!

 店内はほぼ満席!

 シン・巣鴨らしく客層は後期高齢者が中心である!


「これはこれは……地球代表ファイター様じゃねえか!」


 入口近くの席で泥酔する後期高齢者の一団!

 神風兄妹を好奇の目で見る!


「お前さんが優勝宣言したおかげでなあ~~!

 オッズが乱れに乱れてるぜえええ!!」


 納豆巻きをかじりながら酒を飲むこの男は山本ヤマオ90歳。

 地球ファイター同士の戦いは非合法ギャンブルとして人々に親しまれている。

 大金を掴もうと年金をブッこむ後期高齢者は後を絶たず、負けて行方不明となる者も多いのだ!


「だがなあ~~! アメリカ代表の優勝は固い!

 残念ながらお前さんに勝ち目はないぜえ~~!!」

「そうじゃそうじゃ! お前さんに賭けるのは余程の狂人!」

「もしくは判断能力の欠如した後期高齢者! 恐ろしいの~~!!」


 山本ヤマオと同席するは川島カワオ88歳、海原うみはらウミオ89歳!

 近くの老人ホームから抜け出して酒を飲む悪ガキ老人三人組である!


「失礼ね! 兄上はすんごく強いんだから!!

 兄上一人でアメリカ一国を滅ぼせるのよ!!!」


 強気の神風ルリ!

 酔っ払いの後期高齢者などに臆しはしないのだ!

 カウンターに座りコムスメ・ウエイトレスからオシボリをもらう神風兄妹。


「マスター! この店はいい雰囲気だな!」

「もちろんよ! うちは老舗しにせ中の老舗! 創業500年を迎えまさあ!」

「500年! 素晴らしい歴史をお持ちだ!」


 自慢げに語るシルバーヘアーの角刈り後期高齢者!

 この店の主としての威厳がプンプンである!


「ルリ! なんでも握ってもらえよ!」

「ええ! 心配には及ばず! 遠慮はしないわ!」


 神風ルリはオスシが大好きなのである!


「大将! 大トロ!」

「「がはははは!!!」」


 ルリの注文を聞き背後で爆笑する後期高齢者三人組!


「最初から大トロ!」

「スシをわかってない田舎もんだぜ!」

「もしかしてお国は海なし県でござるか!?」

「「がはははは!!!」」


 注文の順番にケチをつける!


「あんですって!!」


 慎ましやかな淑女として名をはせる神風ルリ。

 なめた態度をとる後期高齢者をブッ飛ばそうと立ち上がる!

 ――しかし!


「落ち着け! ルリ!」


 制止する兄!


「食事のスタイルに口を挟まれて怒り狂うのは大人げなし!

 言いたい奴には言わせておくがいい!

 ! !」

「な、なるほど! さすがは兄上! 勉強になり申す!」


 そう! 相手の安い挑発に乗ってしまっては所詮そこまでの人間!

 心を乱した者がどうなるか……先の開会式での神風トオルとアメリカ大統領を見ればお分かりであろう。

 いかなる時も冷静でいられるよう……器を大きくもつべし!


「ならば! ヘイ大将! 大トロ一丁! 天然のヤツね!」


 ルリは自信たっぷりに注文!

 見よ! その目にもはや迷いはない!


「あいよおおお!」


 速い! 一般庶民程度では認識できない高速握り技!

 その間わずか1秒! スシ・マスタークラスの技だ!

 手早く握られたスシがルリの前に出される!

 ツヤツヤとした淡い桜色! 脂のよく乗った最上級天然大トロだ!

 脂が醤油を弾く! なんたる脂コーティングレベル!

 満を持して大トロ・スシがウヤウヤしくルリの口に運ばれる!


 パクリ!


美味びみいいいいいいいいいいいー!!」


 チュドオオオオオオオオン!!!


 ルリの顔面が爆発!

 美味なるものを食した際に生じる常識的物理現象!

 飛び出た目玉をルリがギュギュっと自主的に押し込む!


「兄上! ここのオスシは天界の食物しょくもつ

 神々が食す桃源郷!

 ルリは今! 極楽浄土でエンジェルと舞踊ダンスでござる!

 ハッピー! ハッピー! ハッピーニューイヤー!」


 おお! なんたる幻想的仏門言動!

 大トロ・スシのあまりの旨さに神風ルリは狂人と化した!


「そんなにうまいのか……!

 これは期待してしまうな……!」


 妹の狂人化ぶりに笑顔をこぼす兄トオル!


「兄ちゃんはなんにしやす!?」

「俺はね、コーン軍艦!」

「「がははははは!!!」」


 爆笑する泥酔後期高齢者ズ!


「妹が大トロで! 兄貴がコーンかよ!」

「二人そろっておこちゃまチルドレンやんけ!」

「「がはははは!!!」」


 高齢爆笑は止まない!


「失礼しちゃうわね! 兄上!」


 狂人世界から現世へと帰還したルリ!


「でも! 私たちはワビサビジャパニーズ!

 !」


 だが!

 ルリの言葉も虚しく!


「貴様らあああ!!! 表に出ろ!!!」


 激高するトオル!


「ど、どうしたのそんなに怒って!」


 制止しようとする妹!

 しかし!


「俺は! コーン軍艦が好物!

 それを馬鹿にされて澄ましていられるほど!

 俺はチキン軟弱ではない!」

「そ、そんな!?」


 そう! 悪口など言わせておけばよいなどと……そんな腰抜けは男として生きる価値なし!

 寡黙であることはイコール美徳ではないのだ!


「オウ! やんのかこの若造が!」

「ああ! やるとも! この無礼千万なる鬼畜外道共めが!」


 立ち上がり対峙する神風トオルと山本ヤマオ!


「やれやれ! やっちまえ!」

「ヤマオ少尉! 鬼畜米英に正義のタケヤリを!!」


 二人を煽る川島カワオと海原ウミオ!


「後期高齢者とはいえ……手加減はせんぞ!!」

「何をコシャクな! ワシのタケヤリで堕とした戦闘機は数知れず!

 貴様も串刺しにしてくれるわ!!!」


 山本ヤマオが構えるは酒のツマミにしていたチクワ!

 中にキュウリが突っ込んであり強度が悪魔的に増している!


「そんなチクワで……愚かなり!」


 神風トオルが拳に力を込めた――その時!


 ヒュンッ! グサリ!


「痛――ッ!? 痛い!!」


 どこからともなく飛んできた爪楊枝が神風トオルの拳に突き刺さる!


「だ、誰だ!?」

「フン……今の戯れも避けられぬとは……情けない男よ!」

「き、貴様は!?」


 爪楊枝を投げたのは――全身白練しろねり色の甲冑武者!

 日本代表地球ファイター、フジヤマ・サムライ丸である!


「はわわのわ! これは驚き! 隣に日本代表がいたなんて!?」


 カウンター席の端――神風ルリの隣でスシによる食事中であった!


「すぐに熱くなる性格……すぐには治らんようだな」

「……ッ!」

「とりあえず隣に座れ。泥酔ジジイ共、こいつは俺が預かるぞ」

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