「佐々木っ！カバーッ！！」

　サードの高橋がファウルグランドに転がるボールを追いかけるの棒立ちで見ていた俺に、ベンチから指示が飛んできた。

　俺は慌ててホームベースの一塁寄りにダッシュを掛ける。

　サードからの返球が逸れた時の為だが、二塁ランナーのロックスはその必要もないほど余裕でホームベースを駆け抜けた。

「セカンドッ！」

　キャッチャーの小島が、サードの高橋に大声で指示を出す。

　見ると、鈍足のブリーフが欲張って二塁を陥れようと懸命に走っている。

　小島の指示を聞いた高橋のサイド気味のスローイングから放たれたボールは、糸を引く様にベースカバーに入っていたセカンドの有田のグラブに収まった。

『アウツッ！』

　なんとかツーアウトまでこぎつけたが初完封を逃した俺は、憮然とした表情でマウンドに戻る。

「すまん、佐々木」

　タイムリーエラーの鈴本がグラブを嵌めていない右手を顔の前に上げて謝罪の意思を示してきた。

「いえ、大丈夫っす…」

　俺は相変わらずむくれた表情で返事を返すと、小島が空気を変える様に努めて明るく声を掛ける。

「よし、次のワーナーはもう年でボロボロだ、勢いで押していこう！」

　それを合図に守備位置に戻っていく内野陣を、不安げな視線で見送ると、次打者がコールされた。

『３番、サード、ワーナー、背番号１０』

　次の打者はベテランながら今年も三割を超える打率を維持している好打者のワーナーだ。

　東京ドームのドウジャースファンからも、期待の声援が沸き起こる。

　キャッチャー小島が出した外角に逃げるドロップカーブのサインを、首を振って拒否した俺は、ハンドサインでストレートを要求する。

（ゴロを打たれるのはもうこりごりだ、あと一人なら三振狙いでいきましょう！）

　俺の意図を理解したのか、小島はサインに頷くとアウトローに構える。

　セットポジションから投げ下ろしたスピンの効いたストレートが、外角低めに決まった。

『ストライッ！』

　ワーナーのバットはピクリとも動かない。

　二球目のボールになるドロップカーブを見逃され、三球目のインハイのストレートで空振りを取った俺と小島のバッテリーが選んだ勝負球は、外角低めのスプリットだった。

　スプリットの制球には自信が無かったが、ランナーも居ないので開き直ってもいい場面だ。

　後逸したら小島のせいにするつもりで思いっきり腕を振ったスプリットは、外角低めのストライクゾーンからストンと落ちて、ワーナーのバットに空を切らせた。

『ストライッ！ゲームセット！！』

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい