第15話 Away Game(敵地)

「おい、佐々木、何のんびりくつろいでるんだよ! LA前乗りだから早く準備しろよ!」


 午前の練習を終えて児玉さんの昼食を堪能した後、寮の食堂でのんびりとテレビを見ていると、先輩投手の秋田から声がかかった。


「あっ!でも俺パスポート持ってないっすよ!」


「ま~た、寝ぼけてんのかよ、新幹線のチケット俺が預かってるから、さっさと東京駅行くぞ!」


 秋田は呆れたように言い残すと、準備をしに自分の部屋に戻った。


(そうだ!ここの地理を確認するんだった!)


 なぜか同じリーグに入っているLAとNYのチームへの移動に、秋田はこの前から新幹線やらチームバスを使うと言い張っている。


「児玉さん、地図ってあります?」


 寮長かつ凄腕コックの児玉が、厨房から顔だけ出して面倒くさそうに答える。


「地図なら、ほれ、そこの棚」


 児玉がアゴで示した棚には分厚い地図の冊子が置いてあった。


(まずは日本地図からだな)


 ペラペラをページをめくる俺の目に、見慣れた日本列島の姿が映り、とりあえず胸を撫でおろした。

 が、何か違和感がある。


 俺はその違和感の原因にすぐに気づいた。


(大阪がLAになってる!?)


 本来なら、他府県以上にその存在を誇示している【大阪】の文字の代わりに

【L.A】の文字が刻まれているのだ。


(なんだこれ!?じゃぁ、俺の家は??)


 上尾市を探すべく埼玉県に目を移すとそこには【N.Y】の文字が躍っている。


(埼玉がNYで大阪がLA!?)


 呆然としている俺に秋田が声をかける。


「あっ!お前まだこんな所で油売ってんのかよ、置いてくぞ!」

「は、はい!すいません…」


 混乱したまま荷物をまとめた俺は、チームバスに押し込められ、そのまま東京駅へと向かう。


 秋田から貰ったチケットで改札を済まして、指定の車両に向かうと、それはグリーン車だった。

 前カードの福岡の時も、飛行機はプレミアクラスだったが、こういう所で地味にプロ野球選手である事を実感する。

 俺はしばらくの間グリーン車のシートを堪能していたが、眠くなってきたので目を閉じてさっきの日本地図を思い浮かべた。


(びっくりしたけど、どうせ名称を変えただけなんだろう、大阪や埼玉ならやりそうな事だ…)


 俺はそう思い込むことにして、しばしの惰眠を貪った。

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