第53話ーーおっさんと甥っ子

 住民総出での世界管理業務。

 ルルアーシュの指示で、全ての食事には仙桃が付き、デザートもピーチパイなど必ず仙桃を使用したものになっていた。

 これは長く生き続ける事になる不安を感じていた、人間組であるおっさんの家族、新木の両親を決して仕事から逃してなるものかという強い執念にもにた感情がよくわかるというものだろう。

 いっそ進化させてしまおうとの話も出たが、彼らをダンジョンに連れて行く時間すら惜しいのだ。

 今やおっさんの部屋付きダンジョンは、もはやただの肉狩場と化しているわけだが、肉採取&スタンピード防止の為にと潜る事でさえ、息抜きなど許されない。厳密な1分単位でのスケジュール管理が徹底されていた。

 そんな状態だから、一行は神として地上へと降臨する事もない上に、おっさんやアル、そしてその様子にあてられた新木の3人は簡易投稿文サイトやブログなどを更新する暇などあるはずもない。

 その為に地上では「神は死んだ」とか「神は消えた」「地球は人類の元へと戻ってきた」などと勘違いし始めていた。

 そうなると、また性懲りも無く兵器開発などと争う事を考え始めるのが人類である……そしてそれはまたおっさんたちの仕事を更に忙しくするという悪循環。


 一番最初にを上げたのはアルだった。

 本来の猫気質、更にはこれまでずっとそれなりに自由に過ごしてきたというのに、突然仕事に追われるようになったのだ、無理もないだろう。


「もう嫌にゃっ!可愛い子猫ちゃんたちと戯れたいにゃ!あんな事やこんな事をしたいにゃっ、愛を激しく語り合いたいにゃ」


 などと、これまでひたすらに本人は隠してきたつもりの性癖を口にするようになってしまった。

 仕事を放棄して、脱走しようとするもおっさんに強制召喚される事数回。

 そして不貞腐れ文句を言いまくるアル……

 解決策として、仕事場の隅に完全防音の部屋が作られた。そこにはキャットタワーなどが設置され、お気に入りの子猫が常時いる事となった――何だかんだアルには甘いおっさんである。本人には自覚はないが、似たもの同士だからなのか、それとも愛からなのか……きっと両方だろう。

 ちなみに完全防音としたのは、アルのダラしなくヤバイ声を防ぐためである。


 次に音を上げたのは、ウルフである。これまで仕事には真面目に取り組む姿勢を見せてきたウルフだったが、やはり猫気質……いや、アルの1件が問題だったのだ。

 そして部屋の片隅の防音室は拡張された。


 これ以降、時折虚ろな目をした二匹のケット・シーが部屋の片隅の密室へと消えて行き、幾分艶やかな顔をして戻ってくる事となる。

 そこで何が行われているかなど、誰も知らない……アンタッチャブルな領域である。


 そしてローガスが壊れた。


「アル様やウルフ様ばかりズルいですぞっ!私はロリコンハーレムの化身らしき仕事もしたいのです」


 などと、怪しげな事を言い始めていた。元々彼のリア充ぶりに羨望していたおっさんなのだ、己が新木と上手くいった現在も、ハーレムなど許すはずはない。それにもし許したとして、地上世界へと行く事を許せば、いつ帰ってくるかなどわからない。強制召喚をしたとしても、どんな姿で現れるかわかったものじゃないのだ。ではアルたちのように小部屋を作る?いや、人を攫ってくるなど出来るはずもない、例え本人が来たいと言ったとしても……――もはや完全に出来る執事の面影などない。ただの色狂いのイケメン中年である。


 次にルルアーシュが壊れた。


「大磯様はヒロの事は愛していますか?」

「えっ?突然どうしたの?……まぁ、うん」


 突然虚ろな目で質問をしてきたルルアーシュ。それに驚きながらも、顔を赤くして頷くおっさん。


「では、ヒロの望む世界を構築致しませんか?」

「望む世界?」


 望む世界とは何なのか?

 おっさんが想像出来たのは、機動戦士的なモンスターが跋扈する、怪しげな世界である……しかも頭部が全ておっさんの顔の。

 破壊神のように己の顔をしたロボットが暴れまくる光景を想像し、ブルりと身を震わせた。


「ええ、宇宙に進出している世界は150中40ほどです。そこでその世界たちに陣取りゲームをさせるのです。もちろん、ヒロの考案する機体で我々も参加致します。コクピットに搭乗して、宇宙を駆け回りましょう!」


 単純に滅ぼすと言わなくなっただけマシなのか?いや、ダメだろう……結果はもっと酷くなるし、完全にゲーム感覚である。

 このままではまたいつこっそり滅ぼそうとするか、わかったものじゃない。

 ローガスとルルアーシュの件もあり、結果忙しいながらも各自週1の休みが設けられる事となった。これはおっさん自身のためでもある。


 無理矢理手伝わされる事となった、おっさんよ家族たちはというと、神でも天使でもない為に、元々出来る事が制限されていた。それに人間であるが為に、十分な睡眠や食事を必要とするのである。その為おっさんたちに比べると、比較的気楽ではあった。

 ただ1人、そう甥っ子は問題があった。何せ小学校もまともに行っていない人間なのだ、しかも少々拗れ気味。それが全てをすっ飛ばして仕事漬けの日々に耐えれるはずもない。当初こそ「僕は新世界の神となる」なんて浮かれていたが、神になれる程の権限はない、問題がないか見張る監視要員的な作業ばかりなのにも不満を抱えてしまっていた。


 そんなある日、彼は見つけてしまった、理想的な世界を。

 そしておっさんに対してごねた、ごねまくった。


「こんな身体にした責任をとるって言っただろ!これで許すから!」


 っと……

 言葉だけ聞いたら、おっさんついに男色にまで走ったかと思われるだろう――真実は数十万以上見た目中学生のまま過ごす事となった事なのだが……言葉選びの重要性を早く知って欲しいところだ。アルが目を輝かせてしまうので……


 その世界とは、剣と魔法の世界だった。しかも魔王を名乗る者や、魔族と呼ばれる好戦的な生物がおり、レベルやスキルの存在するどこかのライトノベルに出てくるような世界だ。


 大して仕事の戦力ともならない人員なので、その願いを叶える事は可能だ。いわゆる、ガイン・ミルカ夫妻に行ったような神の手による異世界転移である。

 問題は家族の気持ちだ。そこで忙しい中何度も家族会議が行われた結果、おっさんたちが持っていた死蔵気味のスキル玉を山ほど与え、チートキャラとした上での巣立ちが決定したのだ。


「ちょっと俺は、勇者となって世界を救ってくるよ」


 どっかで聞いた事のあるような言葉をドヤ顔で告げる甥っ子――やはり血は同じものが流れているようである。


 そして家族に見送られながら巣立って行った。

 彼は気づいていなかった、自分の冒険や生活の全てが覗かれる事になる事など……

 自分の母親や叔父、祖父祖母がそれを見て、顔を赤くしたり青くしたり、大笑いして日々の仕事によるストレス解消道具にされている事など……


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891810408


憧れのあの子はダンジョンシーカー〜僕はあの子を追いかける?〜


よろしければお読みくださいませ。


ざまぁwwwwで、チートな感じです。

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