第39話ーーおっさんぶち切れる

 妹と和解してほっとしていると、ウルフが心配そうな顔持ちで、料理を山ほど盛った皿を抱えて、おっさんの元へとやってきた。


「大磯様、食べてくださいにゃ」

「ありがとう、ウルフ」


 ウルフの気遣いを嬉しく思い、礼を言いつつ皿を受け取ったおっさん。


「お話し合いは大丈夫だったですにゃ?」

「うん、問題なかったよ」

「良かったですにゃ、家族が仲違いしているのは悲しいですにゃ」


 やはり妹とのやり取りを見ていて、おっさんを心配していたようだ。


「うん、でもウルフも家族だよ」

「嬉しいですにゃ。おじ……おと……お兄さんが出来て嬉しいにゃ」


 途中何度がおっさんの顔色を見ながら、怪しい言葉を言いそうだったが、持ち前の優しさで無難なポジションを捻り出したウルフ――いつもなら突っ込むなり、凹む所だったが、酔っているためにおっさんも素直に受け入れたようである。お兄さんなんて無理がありすぎると思うのだが……


 家族……その言葉でおっさんはある事に気が付いた。どうしても確認しなければならない事があるという事に。


「ウルフももしかして年下好きだったり?」


 そう、ロリコン問題である。

 アルに続き、ウルフまでそうだとなると、ケット・シーという種族を疑わざるを得ないところである大問題だ。


「そうですにゃ……」

「っ!やっぱり!?」


 危惧していた事が真実だと分かったおっさん。未だ子猫たちと戯れているアルを横目で見つつ、ウルフから一歩引いたおっさんである――何だかんだウルフを信じたかった、お前だけはマトモであってくれとの願いが裏切られ、気持ちは「ウルフ!お前もかっ!」だ。


「あっ!違いますにゃ、アルとは違いますにゃっ!ちょっと年下程度が好きですにゃ」


 おっさんの反応を見て、何を考えているか察したウルフ。慌ててアルと同類ではない事を否定する。


「本当に?さっきも子猫たちに囲まれていたようだけど?」

「あれは地上からウルフが連れてきた子猫たちだからですにゃっ!信じても欲しいですにゃっ」

「ふーん……」

「本当ですにゃ、アルのような変態と一緒にしないで欲しいですにゃっ」

「そう?それならいいんだけど……」


 あまりにもの必死な様子に、おっさんはひとまず信じる事にした――ウルフがアルを変態と言い切った件について、何をもってしてかと聞きたいところだが、怖くて聞けないのが真実である。


「人間誰しも変態でございますよ」


 ウルフへの疑惑が晴れたのも束の間、珍しくローガスが酔いからか顔を赤くして近寄ってきた。言動も少々怪しくなっている……


 そこでふとおっさんは気付いてしまった。ローガスの年齢は370歳ほど、対してメイドカフェのキャストの年齢はきっと20代前半程度であろうという事。即ち、こいつこそ完全にロリコンだという確信。


「ローガスはもう少し自重しようか?ロリコンにも程があるだろ、よくそんなんでアルの事をとやかく言えるよね」

「保様は何をもってしてロリコンと?愛の前には年齢の差など存在しませんよ、愛とは偉大なものなのです。ですがアル様のご相手は、まだ愛も恋もわからぬ幼い子供、それは問題でございます故に」


 どこかで聞いたようなセリフをドヤ顔で宣うローガス――全く説得力など皆無である。なぜならば、だいたいロリコンや、ショタコンは皆同じようなセリフを吐くからだ。


「……相手の年齢って平均いくつくらいなの?」

「19から21歳でございます」

「今何人恋人いるにゃ?」

「それほどおりませんよ、今は11人でございます」

「思いっきり限定してるじゃねえかっ!その上11人も毒牙に掛けてやがったのかっ!」

「毒牙ではありません。愛です、愛」

「「うるせぇっ!浮気ロリコンヴァンパイアは黙ってろっ!(にゃっ!)」」

「何と言われようとも、私は愛に生きますぞっ!」


 ローガスもローガスだが、どの口が浮気とか言うのであろうか……おっさんがアルとハーレムだ何だと盛り上がってやらかしたのは、つい最近の出来事である。

 やはりここでも似たもの残念主従揃い踏み。


「ったく、変態ばっかりじゃねぇか」


 その中に自分自身が入る事になど気付かずに、おっさんは近くにあった酒をぐびぐびと一気に呷った。


 おっさんは元々そんなに酒に強い方ではない。これは家族からの遺伝のようで、お酒の味は好きだが大して飲めないと、現に両親もちびちびと舐めるように酒を楽しんだりしている――それに加え、だいたいお酒を飲む機会自体が少なかったのもあるだろう……学生時代のアルバイト先での強制参加の歓送迎会程度である。社会人になってからは、朝から晩まで働いていて、そんな時間がなかったのもあるし、誘い合うような友人がいなかったというのも原因として上げられる。だからといって、発泡酒や缶酎ハイなどをわざわざ購入までして飲むほどでもないという訳だ。


 そんなおっさんが現実逃避などで酒を呷った結果、かなり酔い始めていた。

 ぼんやりしてきた頭……少し冷静になろうかと、屋敷を出て庭に設置されたベンチに腰を下ろした。


 ふぅとため息を吐きながら、ぼーっと夜空を眺める。そしてふと、これまでの人生を振り返った……


 小中高大と学生生活を思い出す。思い出すが、大してイベントもなく過ごしてきたために、一瞬で終わってしまった回想――衰えた中年の脳に残っていたのは、小中での〇〇係とかそんな程度しかなかった。しかもそれは両方とも清掃係。

 おっさんの過ごしたクラスでは、挙手による立候補制で、それぞれ人気の係から決まってゆくものだった。それ故に、引っ込み思案や大人しい子供は最後まで決まらずに、残ったものへと割り振られるのだ。おっさんもそんな中の1人だった……本人は密かに放送係などの人気係に憧れはしていたのだが。

 そして素晴らしい事に、おっさんのクラスにはイジメなど存在しなかったため、「おい、お前係なんだから全部やれよ」とか「1人でやれよ」なんて事もなく、掃除の指示をするという係の本分さえ全うする事無く、みんなで和気あいあいと掃除をしていた為に、活躍する事など一切なく過ごした清掃係だった。


 おっさんの思い出がハッキリと残っているのは、社会人になってから……ブラック企業で日々。突然訪れたダンジョン付与というファンタジーな転機。


 思い出すに連れ、悔しさ、悲しさ、怒り……などといったマイナスな感情が浮き上がる。


 本日のパーティーでの出来事と、過去へ思いを馳せた結果が、この後おっさんを暴走させる事となる事になるとは、誰も思ってもいなかった……おっさん自身でさえも。

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